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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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速報!東京大学アタカマ天文台 (TAO) 望遠鏡サイト完成記念式典開催

東京大学アタカマ天文台 (The University of Tokyo Atacama Observatory: TAO) 計画は、チリ共和国・アタカマ地方にある標高5640mのチャナントール山山頂 (TAO望遠鏡サイト) に口径6.5mの大型赤外線望遠鏡を建設・運用する計画です。

TAO計画は、遠方宇宙から太陽系まで幅広く天文学・天体物理学における最先端の研究を行うのみならず、大学による次世代研究者育成もその大きな目標としており、開発・観測研究の両面で若手の育成に力を入れています。また日本の競争力・発信力を高め、リーダーシップを発揮するのにも重要なプロジェクトです。

TAO望遠鏡サイトでの建設作業が進み、エンクロージャを含めた山頂施設が完成したことを受け、TAO望遠鏡の運用に向けた安全と成功を祈念して2024年4月30日にチリ共和国の首都サンティアゴにてTAO望遠鏡サイト完成記念式典を開催しました。

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▲チャナントール山山頂に完成した東京大学アタカマ天文台 (TAO) の山頂施設

TAOプロジェクトの概要と歴史

プロジェクトは1998年にTAOプロジェクト代表の吉井譲が中心となって立ち上げました。2009年に口径1mのパイロット望遠鏡を建設した後、標高世界一の天文台としてギネス世界記録に登録されました。2012年からは大口径6.5mのTAO望遠鏡の製作を本格化させ、TAO望遠鏡建設に向けた道路工事は2018年にスタート、2020年からは山頂サイト工事を開始しました。2019年後半はチリ国内の暴動、2020年以降は新型コロナウイルス感染症蔓延の影響などいくつかの困難がありましたが、安全体制を強化しながら工事を進め、2023年に観測運用棟を完成、エンクロージャの鉄骨組立や回転試験を経て、2024年にはエンクロージャを含めた山頂施設を完成しました。2025年には科学観測を開始し、天文学最大の謎である銀河の誕生や惑星の起源の解明に挑みます。

TAOプロジェクトのこれまでの歩み
1998年プロジェクト開始
2002年チャナントール山山頂へ徒歩での初登頂
2006年チャナントール山山頂への仮設のアクセス道路完成
2009年口径1mのminiTAO望遠鏡を設置
2012年口径6.5m望遠鏡の製作開始
2014年サンペドロ・デ・アタカマ市にTAO山麓施設が完成
2018年サイト工事開始、アクセス道路の拡張工事を開始
2020年アクセス道路の拡張完了、山頂工事開始
2020-2022年新型コロナウイルスの影響で工事中断
2023年観測運用棟が完成
2024年エンクロージャーを含めた山頂施設が完成

TAO望遠鏡サイトでの工事

TAO望遠鏡サイトでの山頂施設の建設工事は、2009年の口径1mのminiTAO望遠鏡の建設の経験を活かして行われた。チリでは超高高地での作業に厳しいルールがあり、酸素の常時吸入や特殊健康診断の受診などが義務化されている。これまでに建設に関わった総勢約350名のチリと日本人の作業員はこれらのルールを守り、全員が酸素ボンベを背負い、酸素の薄い過酷な状況の中、工事を行いました。

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▲標高5640mのチャナントール山山頂で酸素ボンベを背負いながら工事を行う作業員

TAO望遠鏡サイトの利点と期待される成果について

TAO望遠鏡サイトは他の天文台では見ることができない光をとらえることが可能です。天体から地球に届く光のうち赤外線は大気吸収の影響を受けていくつかの波長帯を除き地上までは届きません。そのため赤外線観測には大気の外に出て地球を周回する衛星望遠鏡が必要とされてきました。しかし、TAOサイトは空気が薄く乾燥し大気中の水蒸気が著しく少ないため、近赤外線波長 (0.9-2.5ミクロン) のほぼ全域と、さらに長波長の中間赤外線 (30ミクロン帯)まで観測でき、その上、地上望遠鏡は衛星望遠鏡に比べて大口径にできるため高解像度の画像が得られるという利点があります。この恵まれた環境は、遠方の銀河や塵やガスに隠された天体の活動、星の周囲を取り巻く塵を観測するのに適しており、銀河の形成進化、惑星形成ひいては我々生命誕生の謎に迫ることが可能になります。詳細は期待される成果をご覧ください。

光赤外線望遠鏡すばるを始めとする世界の大型望遠鏡の多くは北半球に設置されています。南半球に設置されるTAO望遠鏡は、こうした北半球の望遠鏡では見ることができない天体を観測できます。また、同じアタカマに位置するサブミリ波望遠鏡ALMAと同じ天体を異なる波長(赤外線)で観測できます。このように、TAO望遠鏡はすばる望遠鏡と天域に関する連携を、またALMA望遠鏡と波長に関する連携をとりながら、研究を進めていきます。

TAO望遠鏡での観測は、順調にいけば2025年に始まる見通しで、最初期には山頂に観測者やデイクルーがチャナントール山山頂で酸素吸入しながら観測を行う予定です。その後は、TAO山麓施設あるいは日本の東京大学理学系研究科附属天文学教育研究センターの遠隔観測室から行われる予定です。

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▲TAOは標高5,640メートルのチャナントール山山頂にあり、大気中の水蒸気が少ないことから、ほかの天文台では観測が難しい赤外線も観測できる

東京大学アタカマ天文台 (TAO) 望遠鏡サイト完成記念式典の速報

記念式典は Hotel Marriott Santiago で行われ、東京大学、文部科学省、チリ科学技術知識イノベーション省、チリ外務省、駐チリ日本国大使館、日本企業などから総勢202名が出席する盛大なものとなりました。

完成記念式典の来賓者の集合写真
▲ 完成記念式典の来賓者の集合写真

記念式典では、チリ科学技術知識イノベーション大臣、駐チリ日本国大使、チリ外務省科学エネルギー教育イノベーション天文学部門局長、文部科学省文部科学副大臣、東京大学総長など錚々たる方々からご挨拶いただきました。いただいたご挨拶と講演の要旨の一部をご紹介します。

東京大学の重要なグローバルパートナーのひとつがチリです。本学とチリとのつながりの代表的なものが、チリ大学とカトリカ大学とともに2013年に開催した「東大フォーラム」に始まった学術交流です。多様な分野に関する包括的な交流が10年もの間、本学とチリとの間で継続的に行われていることをとても喜ばしく思っています。

今回のTAO望遠鏡サイトの完成は、チリの皆様との素晴らしい協力の賜物であります。素晴らしい天文サイトを快く ご提供くださった地元政府の皆様、あたたかく迎え入れて下さった第二州、特にサンペドロ・デ・アタカマ市とその周辺に暮らす皆様の存在なしでは、このサイトの建設すら叶いませんでした。また、チリ外務省、チリ科学技術知識イノベーション省、チリ研究開発機構ANID、チリ大学、カトリカ大学の皆様には、標高5500mを超える場所での作業許可のほか、人の雇用や観測装置の共同開発など多岐にわたるご助力を頂きました。さらに、望遠鏡の技術面やインフラの共同建設、共同運用などに関しては、アリゾナ大学、CCATプロジェクト、アルマ、そして国立天文台からもご協力を頂きました。もちろん、望遠鏡の設計、建設、設置において素晴らしい仕事をしてくださったチリならびに日本の企業の皆様の存在も忘れてはなりません。TAOの建設に際して様々な形でご支援・ご協力を頂きました皆様に、この場をお借りして、改めまして心より御礼申し上げます。

東京大学総長 藤井輝夫
サイトの標高は5,640mと非常に高いため、空気中の水蒸気は極度に少ない環境です。ここに望遠鏡を作ることで、水蒸気に吸収されて普通は地表からは見えない天体からの赤外線を観測することが可能となります。また、TAO望遠鏡は大学が運営する望遠鏡であり、高いフレキシビリティをもって観測運用を行います。これによって、時々刻々と明るさを変える天体の観測にも強みを持っています。これら特長を活かして、現代天文学に残された宇宙の謎を解明する、これがTAO計画の目標となります。具体的な研究対象としては、ダークエネルギーや初代星といった宇宙のはじまりや、恒星や惑星の進化、あるいは太陽系の成り立ちまで、多岐に渡ります。さらには大学望遠鏡として、人材育成も重視しており、東京大学はもとより日本あるいはチリの大学の学生に望遠鏡をどんどん使って成果を出してもらうことで、次世代の研究者の育成にも貢献していきたいと思います。

この計画を推進するにあたっては、数多くの困難がありました。ひとつはサイトの標高の問題です。標高5,640mでは大気圧が地表の半分以下であり、人間が活動するには過酷な環境です。建設にあたっては、チリの関連省庁や医療関係者との協力のもと、作業員全員に健康診断を課したり、作業時の酸素吸入を義務付けるという措置を取りました。また、地球の反対側にあたるチリに先端科学施設を作るということも、東京大学にとっては大きなチャレンジでした。この点でもチリ政府からは、サイト利用許可や法人格、学術免税など多くの支援をいただきました。また、サンペドロ・デ・アタカマ市をはじめとした地元の皆様からも、工事関係者の安全確保などでご協力をいただきました。新型コロナウイルスの世界的蔓延もプロジェクトに大きな影響を与えました。この際も、在チリ日本大使館や、チリ外務省や科学技術知識イノベーション省の皆さんから大きなサポートをいただきました。これらサポートのおかげで、大きな事故やトラブルを起こすことなく、今日の式典を迎えることができました。ご支援いただいた関係の皆様に感謝いたします。

TAOサイトは完成しました。このあとは、日本から輸送済みの望遠鏡や観測装置の組み立て調整を進めます。チャナントールの山頂から、新しい宇宙の姿を皆さんと一緒に見られる日まで、あと一歩です。引き続きのご支援ご協力をいただけますと、幸いです。

TAOプロジェクト代表 吉井譲
チリは過去、貿易を窓口として世界との交流を深めると同時に、国を挙げて科学への扉を開き、科学技術の発展を目指しました。そのおかげで現在チリは、光栄なことに、多様でグローバルなコミュニティを受け入れられるようになりました。そして今、宇宙の起源を解明するという共通の目標のために人々がつながり、TAO望遠鏡サイトの完成という素晴らしい成果を達成しました。
チリに数多くある天文台の一員としてTAOを迎えられたことを、科学大臣として心から歓迎します。また、今後の観測によって得られる宇宙からの光や画像が、人類の希望の光となることを願ってやみません。すばらしい研究成果を期待しています。

チリ科学技術知識イノベーション大臣 アイセン・エチェベリ
TAO望遠鏡が今後、天文学の発展に大きく貢献するとともに、望遠鏡の完成を機に、両国間の学術交流をはじめとしたさまざまな交流が、これまで以上に益々活発になることにより、両国における学術研究が更に発展し続けていくことを期待しております。

文部科学副大臣 今枝宗一郎
TAOにはチリ側で製作された部品も使われていると聞いており、日チリ共同努力の成果として世界で最も高い場所に天文台が開設されることを、駐チリ日本大使として大変うれしく思います。 日本とチリとの協力が、そして更には国際社会とも連携した友好・協力関係の発展が、世界の天文学の進展に大きく貢献することを祈念いたします。

駐チリ日本国大使 伊藤恭子
チリと日本の二国間関係は、1897年に調印された歴史的な友好通商航海条約に遡る、豊かで長い歴史があり、チリがアジア太平洋地域で維持している協定の中で最も古いものです。この二国間関係の基本的な柱のひとつは、自然災害に関する知識や経験の交換から、教育、防衛、鉱業、保健、天文学、科学・先端技術、水管理、電気通信、クリーン・再生可能エネルギー、気候変動など幅広い分野での協力です。天文学の分野では、日本はチリ、特にチリ北部で大きな存在感を示しており、TAOやALMAを始めとする国際的な光学・赤外・電波天文台が顕著です。
今日、私たちがここで祝うTAOプロジェクトもまた、両国間協力による優れた例といえます。チリの高地に設置された世界トップクラスの赤外線望遠鏡は、宇宙の探査と生命の起源の探求に向け、画期的な成果をもたらすことでしょう。チリ外務省は、TAOプロジェクトにおける東京大学の功績に心からの謝意を表するとともに、TAOプロジェクトならびに科学技術分野における様々な取り組みを継続的に支援する決意を、改めて再確認しています。
TAOプロジェクトは、重要な科学的成果をもたらすだけではなく、チリと日本の強固な二国間関係においても重要な礎石でもあります。今後とも、協力と知識の共有を通じて、チリと日本の関係を強化し、両国と全世界の利益のために、科学技術の進歩に貢献して参ります。

チリ外務省科学エネルギー教育イノベーション天文学部門局長 フリオ・ブラボ

式典後のレセプションパーティは、日本チリ友好議員連盟会長からご挨拶をいただいた後、鏡開きが行われ、日本通運株式会社執行役員の乾杯の音頭により開始しました。パーティの中盤では、東京大学総長からTAO望遠鏡の製作とサイトの建設工事に尽力いただいた株式会社西村製作所、日本通運株式会社、MOVITEC社、アリゾナ大学に感謝状が贈られました。

式典に引き続き行われたレセプションパーティの様子
▲ 式典に引き続き行われたレセプションパーティの様子

式典に合わせて、研究会やTAO望遠鏡サイトの見学会も行われます。詳細は、近日中に開催報告として記事を別途公開する予定です。

最後に、完成記念式典を実施するにあたり、国立天文台チリ観測所の職員の皆様に式典の受付業務やTAO望遠鏡サイトの見学会のアテンド等のサポートをいただきましたことを心から御礼申し上げます。

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