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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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期待される成果

TAOの優位性

天文学は宇宙の様々な現象を取り扱う学問であり、広範な波長による観測が不可欠です。 中でも赤外線による観測は可視光に次ぐ歴史を持っており、非常に高い有用性があります。 しかしながら宇宙からの赤外線の多くは地球大気によって吸収されてしまうため、その観測は容易ではありません。 TAO 望遠鏡は世界最高高度 (標高 5,640m) の望遠鏡であり、赤外線波長でも非常に高い大気透明度を誇ります。 従来のサイ トでは、2.5μm 付近までの近赤外波長では大気が透明な波長帯が J,H,K バンドなどのいわゆる大気の窓に分断されてしまいますが、 TAO サイトではこれが連続的につながることになります。また 25μm より長い中間赤外線波長でも 40μm 付近まで大気が透明な波長が現れます。 これも既存サイトでは見られないものであり、TAO 望遠鏡は従来は地上からは不可能とされていた波長域での観測も可能にする望遠鏡であると言えます。

大気透過率
▲(上) チャナントール山における大気透過率 (モデル)。 (下) VLT 8m 望遠鏡が設置されているパラナル山での大気透過率モデル。 チャナントールに比べて大気の窓の間の吸収が非常に深く、さらに 25μm を超える波長では大気が完全に不透明になっているのがわかります。

この優れた大気透過率を活かすべく、TAO 望遠鏡では2つの観測装置 SWIMS と MIMIZUKU の開発が進められています。 SWIMS (Simultaneous-color Wide-field In- frared Multi-object Spectrograph) は近赤外線観測に最適化された装置であり、 TAO サイトの特色を活かして 0.9〜2.5μm で波長の切れ目なく観測が行えることが最大の特徴です。 これは例えば赤方偏移した銀河などの輝線観測などで威力を発揮します。また視野が広く (9.6 分角)、 2 色同時観測が可能であることから、非常に高いサーベイ能力を持っています。 これは銀河進化や宇宙論観測, あるいは希少天体捜査などで大きな威力を発揮します。


survey
▲可視近赤外線におけるサーベイ能力の比較。横軸がサーベイ範囲、縦軸が検出限界。TAO は比較的深く、広範囲なサーベイが可能になります。

より長波長の中間赤外線の観測は MIMIZUKU (Mid-Infrared Multi-mode Imager for gaZing at the UnKnown Universe) が担当します。 この装置は 2〜38μm という非常に広い波長範囲をカバーしており、 特に 26〜38μm は MIMIZUKU だけが地上観測できる新しい波長帯です。これにより、衛星諸計画よりも格段に高い空間分解能を達成することができれば、 惑星進化や物質の起源などに迫る観測が可能となります。さらにこの装置は2視野同時撮像などユニークな機能を有しており、 従来中間赤外線観測では不可能であった時間変動の検出などでも威力を発揮します。

30um
▲中間赤外線観測計画 (スペース・地上) における空間分解能の比較.30μm 帯では TAO が抜群に空間分解能が高いことが分かります。


目指す天文学

TAO 望遠鏡の高い赤外線観測能力を活かしたサイエンステーマは多岐に渡りますが、メインテーマとして大きく 2 つあげられます。 一つは「銀河宇宙の起源」、もうひとつは「惑星物質の起源」です。

「銀河宇宙の起源」〜銀河の形成・進化をさぐる〜

銀河はいつどのように生まれ、現在の姿まで進化してきたのでしょうか? 現在の宇宙で見られる銀河がどのようにして形成されたのかを理解するためには、様々な時代において個々の銀河がどのように星質量を成長させたのかを 調べることが重要になります。そして、個々の時代に存在する銀河について、規模の小さい状態からどのように成長したのかを高い統計的精度で決定し、 またその環境依存性の解明を目指すために、深くて広い近赤外線撮像観測が必要不可欠となります。
宇宙の始めの頃に生まれた銀河 (原始銀河) は、非常に遠くにあり、宇宙が膨張しているため地球から遠ざかっています 。 原始銀河が放つ光の波長は、ドップラー効果により引き伸ばされ (赤方偏移)、赤外線の波長で観測することができます。 我々はTAOの赤外線サイトとしての利点と近赤外線の広視野観測能力を生かし、赤外線における超高感度・広視野の探索を行い、 「銀河の進化」についての研究を大きく進展させることを目標としています。具体的なテーマとして、初期の銀河が星の材料となるガスを どうやって獲得したか、ガスから星へと変わる星形成活動と星質量蓄積史、 また赤外線銀河やサブミリ波銀河といった遠方宇宙に見られる銀河種族に対する波長横断的な研究、そしてTAO サ イトだからこそ遂行可能な 近傍星形成銀河の Paα 輝線観測などが考えられます。

遠くの宇宙
▲すばる望遠鏡が見た遠くの宇宙。明るい点のほとんどは、非常に遠くにある銀河です。TAOでは同様の赤外線版高感度画像を得ることができます。 さらに、これらより遠くの天体についての分光観測を期間を空けることなく行うことができ、その天体までの距離や特徴など素性の解明に迫ることが可能です。

遠くの宇宙
▲TAO による高赤方偏移クエーサーの分光観測シミュレーション。黒線が分解能 R = 5, 000, 積分時間 10,000 秒での TAO の感度曲線。 青線、緑線、赤線はそれぞれ赤方偏移が z=3、6、10 の場合における B等級 = −28等のクエーサーのスペクトルを表しています。 影の部分が TAO で予定されている分光観測の波長域です。

「惑星物質の起源」〜惑星の形成をさぐる〜

近年太陽系以外の惑星系 (系外惑星) が盛んに発見されており、2011 年 8 月現在 500 個を超える系外惑星が見つかっています。 これらの軌道やサイズ、惑星組成や大気の組成を研究することは惑星系の進化や多様性の理解、ひいては生命の起源にも迫る研究分野です。 系外惑星の形成以前は主系列星に至る前の前主系列星とこれを取り囲む原始惑星系円盤からなる系が形成され進化していきます。 その進化過程の理解も天文学の重要課題であり、どのような質量の星がどの程度生まれ進化していくのか、原始惑星系円盤内部で惑星が どのように形成されるのかなどの調査が進められています。特に中間赤外線で観測は、ダスト円盤を直接見ることができるという特徴があります。 TAO望遠鏡は、30μm帯を地上で初めて観測し、円盤の中で惑星系が生まれる過程を明らかにできると期待されます。
固体微粒子、いわゆるダストは星間空間の金属の多くを含んでおり、宇宙の重要な構成要素です。またダストは星周・星間空間での物理・化学過程に深く関わっており、 宇宙の物質輪廻を考える上で欠くことのできない要素です。この問題を解決するには、ダストの供給源となる天体の構造や進化、さらにそこで起こるダストの形成・ 破壊プロセスを観測的に明らかにし、より正確な定量的評価を進める必要があります。 その観点から、TAOではダストの直接的な観測以外にも、 ダスト供給に重要な役割を果たしている様々な進化段階の星を観測することで、この問題にアプローチすることを考えています。

ダスト円盤の模式図

▲ダスト円盤の模式図



NGC6302
▲惑星状星雲NGC6302の低温ダストトーラス。miniTAO/ANIR で取得されたPaβ のイメージに、miniTAO/MAX38 で取得された中間赤外線の輝度分布のコントアを重ねた図 (左図は波長 18μm, 右図は波長 31μm) 。18μm では見られなかった冷たいダストの放射が31μm で見えてきたことがわかります。

mira
▲ミラ型変光星の近赤外線スペクトル (上) と大気透過率 (下)、上図は o Cet(赤)、T Cep の変光フェーズ 0.38(緑)、1.61(青) の ISO/SWS により取得されたスペクトル。 下図は高度 2600m(Paranal; 青)、4200m(Quimal; 緑)、5640m(Chajnantor; 赤) で期待される大気透過率。上図から恒星によって、さらに変光の時期によって異なるスペクトルが観測される事がわかります。 これは各分子の吸収・放射の複雑な変動に起因しており、スペクトル形状を詳細に観測・解析することで恒星大気の運動に迫る事ができます。
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