アタカマ1m赤外線望遠鏡 銀河中心部の水素が出す赤外線をとらえる


2009.07.02
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2 TAO計画
3 近赤外線カメラによる水素輝線観測
4 今回の観測結果
5 今後の展望

[1] 銀河中心領域の水素輝線観測

我々の太陽系は天の川銀河の中にあり、その中心は太陽系からおおよそ2.4万光年離れた 場所にあります。ここには巨大なブラックホールがあり、また非常に重い星の大集団 など、他の領域にはないユニークな現象が多数見つかっています。このように銀河の 中心領域は大変興味深い観測対象なのですが、そこは宇宙に漂う塵によって覆い 隠されているため、普通の可視光線では見通す事ができません。 我々のグループは、miniTAO 1.0m望遠鏡に搭載された近赤外線カメラANIRに よって、天の川銀河中心領域からのPaα(パッシェンアルファ)輝線の 撮影に成功しました。

天の川銀河中心「銀河中心星団」領域の近赤外線画像
天体名 : 天の川銀河中心 銀河中心星団領域
天体までの距離 : およそ2.4万光年
: 赤:Paα輝線(波長1.875ミクロン)、緑:1.91ミクロン、
青1.65ミクロンとした疑似カラー合成
撮影日: 2009年6月9日(チリ時間)

天の川銀河中心付近にある「赤外線五つ子」領域の近赤外線画像
天体名 : 赤外線五つ子領域
天体までの距離 : およそ2.4万光年
: 赤:Paα輝線(波長1.875ミクロン)、緑:1.91ミクロン、
青1.65ミクロンとした疑似カラー合成
撮影日: 2009年6月9日(チリ時間)

可視光で見た天の川の全天写真と今回の2天体の位置(赤丸)。左図は文字説明が入っている画像で、右図は文字説明の入っていない画像です。


[2] 「銀河中心星団」領域について

「銀河中心星団」領域画像には、中心に星の集まりがあり、その周りに渦を巻いたような 構造が見られます。この星が集まった領域が「銀河中心星団」です。ここには 「いて座A(エースター)」と呼ばれる超大質量ブラックホールがあることが 分かっています。その質量は太陽の200-300万倍だと推定されています。 また、渦のような構造はこの領域で星が数多く誕生し、生まれた星が水素ガスを 照らすことで光っているものと考えられます。

今回我々が取得した近赤外線画像上に天の川銀河
中心と銀河面(天の川に沿った方向)を書き入れた図。

下の図は電波で観測した同じ領域の写真です。近赤外線の画像とほぼ同じ構造が 写っており、特に中心付近の3本の渦は同じ形をしています。 一方、電波画像では渦構造の左(天球上で東)に円環状の構造が 見えますが、 赤外線水素輝線ではこれは全く見えません。このような比較によって、 各場所が「水素ガスが光って輝いている」のか「他の要因(たとえば磁場構造 など)」かを明瞭に区別することができます。これは銀河中心領域の理解を 進める上で重要な手掛かりとなります。

「銀河中心星団」領域の近赤外線画像(左)と電波画像(右)の比較
電波画像の色の違いは電波強度を表す。(電波画像提供:米国立電波天文台)

[3] 「赤外線五つ子」領域について

赤外線五つ子星団は重い星の集まりであり、天の川銀河でも最大級の星団です。 画像の中心に見えるのがこの「赤外線五つ子星団」です。この星団の上(天球上 で北側)にはひょろりと伸びたフィラメント状の構造が見られます。これは 電波による観測でも知られていましたが、今回の観測によって電波で見られる 構造と水素輝線の構造がぴったり一致することが分かりました。一方 電波画像では銀河中心から延びる「電波アーク」も見えています(画像の 右上から左下(天球上で北西から南東)に伸びる直線状の構造)が、 赤外線ではこれは全く見られません。このことは「電波アーク」と フィラメント構造が別のものであることを示しています。これは このフィラメント構造のできた原因や、赤外線五つ子星団との 関係を探る上で非常に興味深い結果です。

「赤外線五つ子」領域の近赤外線画像(左)と電波画像(右)の比較
(電波画像提供:米国立電波天文台)


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