|
|
[1] 銀河中心領域の水素輝線観測
我々の太陽系は天の川銀河の中にあり、その中心は太陽系からおおよそ2.4万光年離れた
場所にあります。ここには巨大なブラックホールがあり、また非常に重い星の大集団
など、他の領域にはないユニークな現象が多数見つかっています。このように銀河の
中心領域は大変興味深い観測対象なのですが、そこは宇宙に漂う塵によって覆い
隠されているため、普通の可視光線では見通す事ができません。
我々のグループは、miniTAO 1.0m望遠鏡に搭載された近赤外線カメラANIRに
よって、天の川銀河中心領域からのPaα(パッシェンアルファ)輝線の
撮影に成功しました。
|
天の川銀河中心「銀河中心星団」領域の近赤外線画像
天体名 | : | 天の川銀河中心 銀河中心星団領域
| 天体までの距離 | : | およそ2.4万光年
| 色 | : | 赤:Paα輝線(波長1.875ミクロン)、緑:1.91ミクロン、
青1.65ミクロンとした疑似カラー合成
| 撮影日 | : | 2009年6月9日(チリ時間)
|
|
|
天の川銀河中心付近にある「赤外線五つ子」領域の近赤外線画像
天体名 | : | 赤外線五つ子領域
| 天体までの距離 | : | およそ2.4万光年
| 色 | : | 赤:Paα輝線(波長1.875ミクロン)、緑:1.91ミクロン、
青1.65ミクロンとした疑似カラー合成
| 撮影日 | : | 2009年6月9日(チリ時間)
|
|
|
|
可視光で見た天の川の全天写真と今回の2天体の位置(赤丸)。左図は文字説明が入っている画像で、右図は文字説明の入っていない画像です。
|
[2] 「銀河中心星団」領域について
「銀河中心星団」領域画像には、中心に星の集まりがあり、その周りに渦を巻いたような
構造が見られます。この星が集まった領域が「銀河中心星団」です。ここには
「いて座A*(エースター)」と呼ばれる超大質量ブラックホールがあることが
分かっています。その質量は太陽の200-300万倍だと推定されています。
また、渦のような構造はこの領域で星が数多く誕生し、生まれた星が水素ガスを
照らすことで光っているものと考えられます。
|
今回我々が取得した近赤外線画像上に天の川銀河 中心と銀河面(天の川に沿った方向)を書き入れた図。
|
下の図は電波で観測した同じ領域の写真です。近赤外線の画像とほぼ同じ構造が
写っており、特に中心付近の3本の渦は同じ形をしています。
一方、電波画像では渦構造の左(天球上で東)に円環状の構造が
見えますが、
赤外線水素輝線ではこれは全く見えません。このような比較によって、
各場所が「水素ガスが光って輝いている」のか「他の要因(たとえば磁場構造
など)」かを明瞭に区別することができます。これは銀河中心領域の理解を
進める上で重要な手掛かりとなります。
|
「銀河中心星団」領域の近赤外線画像(左)と電波画像(右)の比較
電波画像の色の違いは電波強度を表す。(電波画像提供:米国立電波天文台)
|
[3] 「赤外線五つ子」領域について
赤外線五つ子星団は重い星の集まりであり、天の川銀河でも最大級の星団です。
画像の中心に見えるのがこの「赤外線五つ子星団」です。この星団の上(天球上
で北側)にはひょろりと伸びたフィラメント状の構造が見られます。これは
電波による観測でも知られていましたが、今回の観測によって電波で見られる
構造と水素輝線の構造がぴったり一致することが分かりました。一方
電波画像では銀河中心から延びる「電波アーク」も見えています(画像の
右上から左下(天球上で北西から南東)に伸びる直線状の構造)が、
赤外線ではこれは全く見られません。このことは「電波アーク」と
フィラメント構造が別のものであることを示しています。これは
このフィラメント構造のできた原因や、赤外線五つ子星団との
関係を探る上で非常に興味深い結果です。
|
「赤外線五つ子」領域の近赤外線画像(左)と電波画像(右)の比較
(電波画像提供:米国立電波天文台)
|
>>> NEXT
|