アタカマ1m赤外線望遠鏡 銀河中心部の水素が出す赤外線をとらえる


2009.07.02
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2 TAO計画
3 近赤外線カメラによる水素輝線観測
4 今回の観測結果
5 今後の展望

[1] 銀河の中心まで見通す水素赤外線輝線

私達の住む銀河系(天の川銀河)は約2000億個の星と、その材料であるガスと塵から 構成されています。特に銀河系の中心部では星が活発に形成されており、それに伴い 生まれるエネルギーは銀河系全域の活動に影響を与えています。 銀河系のエンジンとも言える中心部の構造については、これまでに多くの観測と研究が なされてきました。しかし、中心部には塵が濃く分布しており内部を隠しているため、 その構造は十分に解明されていません。

銀河系中心部のような活発な領域ではガスの多くは電離しています。その主成分である 水素電離ガスは紫外線から赤外線にかけての波長帯に多種の輝線を放射します。中でも 赤外線帯の輝線は塵による吸収をうけにくい特徴があります(赤外線は強い透過力を 持ちます)。そのため、電離水素ガスが放射する赤外線輝線を観測することで、 塵に隠された銀河系中心部のガスの分布構造を調べることができます。

電離水素ガスが放射する最も強い赤外線輝線は、1.875umのPaα(パッシェン・アルファ ) 輝線です。しかし、Paα輝線は地球大気に強く吸収される 波長帯に位置するため、地上望遠鏡による観測は殆ど不可能とされています。 銀河系中心部におけるPaα輝線の観測は、ハッブル宇宙望遠鏡によるものが数例あるもの の、 その構造を明らかにするほど広範囲にわたる観測は行われていません。

天の川銀河でPaα線(赤外線)と可視光線がどれぐらい見通せるかを イラストで示したもの。可視光線では太陽系近傍1000光年しか見通せず 銀河中心部分は見えないが、赤外線なら中心まで見通せることがわかる。 (画像提供:Tsunehiko Kato / NAOJ 4D2U Project / SynraDome)


大気吸収の標高による違い。横軸が波長、縦軸が大気の透明度を表す。 水色の線は南米にある大型望遠鏡施設の標高(2,600m)、緑の線は miniTAO望遠鏡のあるアタカマサイトの標高(5,640m)をそれぞれ 示す。標高2,600mではこの波長域は大気がほぼ不透明であるのに対し 5,640mでは大気透過率が60%程度あることがわかる。

[2] 近赤外線カメラANIR

地上からは観測できないとされるPaα輝線ですが、標高5,640mのTAOサイトでは地球大気 による 吸収の影響が低減されるために観測が可能になります。 miniTAO望遠鏡用の近赤外線観測装置ANIR(Atacama Near-InfraRed camera)は、 この効果を利用して銀河系中心部のPaα輝線の広域撮像観測を行うことで、銀河系中心部 の 電離ガスの分布を明らかにするために開発されました。

ANIRは5.4分角x5.4分角の広い視野と1-2.5umの近赤外線に高い感度を持つ天文用カメラで す。 天文観測に一般に用いられる広帯域光学フィルタに加え、Paα輝線を含む複数種の 電離水素ガス輝線を観測するための狭帯域フィルタを搭載しています。東京大学天文学教 育研究センター にて開発が行われ、2009年4月にチリ・アタカマへと輸送されました。そして、2009年6月 に miniTAO望遠鏡に搭載され、銀河系中心部からのPaα輝線の検出に成功しました。

miniTAO 1m望遠鏡に取り付けられた近赤外線カメラANIR


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