在日本 チリ共和国大使館主催シンポジウム

アメイジング・アタカマ ー砂漠で展開するチリと日本の学術・科学技術交流ー


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2012年8月1日、日本の最新鋭技術をアタカマで活かすことを目指す日本・チリ両国の関係者が一堂に会し、その現状や将来を語り合うシンポジウムが開催されました。様々な企業、大学等から多数の方にご参加いただき、会場は定員の300名を越える満員となり大盛況のうちに終了しました。

symposium

プログラム

日時: 2012年8月1日(水)15:00∼
会場: 東京商工会議所
シンポジウム:国際会議場(7階) / 交流会:東商スカイルーム(8階)
主催: 在日本 チリ共和国大使館
共催: 東京大学大学院理学系研究科天文学教育研究センター
後援: 日智経済委員会、日本チリ協会、(社)ラテン・アメリカ協会

シンポジウム

【 第一部 : 砂漠の町、サンペドロ・デ・アタカマの魅力 】 15:00-16:00
(司会 : 横山 広美 東京大学大学院理学系研究科 准教授)
挨拶 パトリシオ・トーレス (在日本 チリ共和国大使)
セバスティアン・ピニェラ (共和国大統領)
代読:パトリシオ・トーレス(在日本チリ共和国大使)
中川 秀直 (衆議院議員 日本・チリ友好議員連盟会長)
パブロ・トロザ (第二州政府知事)
代読:ベルナルド・デル・ピコ(在日本チリ大使館商務部参事官)
サンドラ・ベルナ (サンペドロ・デ・アタカマ市長)
山田 彰 (外務省中南米局長)
森本 浩一 (文部科学省 大臣官房審議官 研究振興局担当)
講演「東大アタカマ天文台TAO計画とサンペドロの交流」
吉井 讓 (東京大学大学院理学系研究科 教授)
【 第二部 : 砂漠で活きる日本の再生可能エネルギー技術 】 16:10-17:50
(コーディネーター兼司会:下山 淳一 東京大学大学院工学系研究科 准教授)
問題提起「今なぜアタカマか?」
下山 淳一(東京大学大学院工学系研究科 准教授)
講演 「日本への期待」
サンドラ・ベルナ (サンペドロ・デ・アタカマ市長)
「太陽光発電」
福江 一郎 (三菱重工 特別顧問)
「超伝導送電」
増田 孝人 (住友電工 超伝導製品開発部主幹)
「スマートグリッド」
神津 明 (三菱総研 研究理事)
「文化交流」
上田 裕昭 (コニカミノルタ・プラネタリウム 取締役社長)

交流会

【 チリ大使を囲んでの意見交換 】 18:00-20:00
(司会:小林 英文 東京商工会議所 国際部担当部長)
開会挨拶佐々木 幹夫 (日智経済委員会 日本国内委員会 委員長・三菱商事 相談役)
挨拶パトリシオ・ベッカー (在日本 チリ大使館 公使参事官)
乾杯西岡 喬 (三菱重工 相談役)
詳細プログラムはこちら

シンポジウム

第一部では、在日本チリ共和国大使をはじめ、サンペドロ・デ・アタカマ市長、中川秀直衆議院議員、外務省中南米局長、文部科学省大臣官房審議官など錚々たる方々からご挨拶いただきました。また、チリ共和国ピニェラ大統領、第二州政府知事からもメッセージをいただき、砂漠の町、サンペドロ・デ・アタカマの魅力、チリ・日本両国の技術交流の重要性について認識を深めました。いただいたご挨拶と講演の要旨を下記にご紹介します。

サンペドロ・デ・アタカマは、観光、考古学のみならず、今や天文学的に注目される地域となっています。近い将来、再生可能エネルギー分野においても主要な中心地となるでしょう。チリのエネルギー需要は2020年には現在の2倍になると考えられており、再生可能エネルギーの促進はチリ政府の重要な政策となっています。

アタカマ砂漠は、大量の日照に恵まれた世界でも稀な場所で、東京大学のSolarTAOプロジェクトのような再生エネルギーの研究開発に適しています。SolarTAOプロジェクトは、チリにとって太陽光発電等の再生エネルギーへの新規投資の機会となるだけでなく、チリでの天文学の発展という意味でも重要なプロジェクトです。我々は、SolarTAOプロジェクトに対する日本政府のこれまでの支援に感謝すると共に、今後も資金的に継続して推進すべきプロジェクトであると確信しています。なお、日本企業の方々にとっても、アタカマの再生可能エネルギーに投資するのに今が重要な時期であることを申し添えます。

このシンポジウムが日本の大学や企業の方々にとって道しるべとなり、日本とサンペドロ・デ・アタカマ市の絆が一層密接なものとなることを願っています。

パトリシオ・トーレス (在日本 チリ共和国大使)

日本・チリ両国は、文化・研究・産業の分野で100年以上も密接な協力関係を築いてきましたが、ここ数十年、アタカマ砂漠での協力関係が急速に拡大しています。アタカマ砂漠は、極めて乾燥し晴天が多いことから天文観測に世界で最も適した地域です。日本からも東京大学のTAOプロジェクト等が参加しており、チリ政府は全面的に支援しています。

また、アタカマ砂漠は、気象条件、日射量、風がほとんどないこと、赤道に近い低緯度に位置していることから、太陽光発電に適しています。私の政権では、環境に優しく持続可能なエネルギーに重点をおき、開発を推進することをお約束します。日本の皆さんに、アタカマが提供する素晴らしいチャンスを是非ご検討頂き、将来最も重要なエネルギー源となる太陽光発電への投資を考慮して頂きたいと思います。

このシンポジウムが重要なマイルストーンとなり、アメイジングなアタカマ砂漠の大きな可能性に、日本の学術界・産業界の関心が寄せられることを期待しています。

セバスティアン・ピニェラ (共和国大統領)

日本とチリは、政治経済をはじめ多様な分野で交流を持ち、友好関係を築いてきました。例えば、鮭の生息地でなかったチリに日本から養殖技術がもたらされ、チリから大量の鮭を輸入するようになったのは画期的なことです。天然資源、特に鉱物に関しては世界屈指の生産国で、日本への世界第一位の輸出国です。ピニェラ大統領をはじめチリの要人の訪日も幾度も実現し、議連交流等も活発に行われています。

今後益々関係を強化していく分野は科学技術です。アタカマは天文観測に優れた地で、東京大学ではアタカマの標高の高いところに天文台TAOを建設し、惑星・銀河の起源の謎を解き明かすプロジェクトを進めています。私が宇宙議員連盟会長時代に、吉井先生より人類の宇宙観測科学の発展のために是非TAOプロジェクト実現したいとお話しがあって以来、近年いよいよ望遠鏡計画が実現に向かって進み、各メディアで盛んに報道されていることに胸を熱くしています。

チリと日本の協力により、人類にとって有益な成果が必ず生まれると思っています。これからも更なる評価、ご支援をお願いします。我々としても全面的にご協力申し上げていく覚悟です。このシンポジウムを機に、クリーンエネルギーの宝庫のアタカマで新たなクリーンエネルギーのモデルが構築されることを願っています。

中川 秀直 (衆議院議員 日本・チリ友好議員連盟会長)

チリと日本が築いてきた友好的な協力関係は、近年、天体観測や再生可能エネルギー、鉱山開発において魅力に満ちた地域であるアタカマ砂漠に広がってきました。先日、コニカミノルタ社からサンペドロ・デ・アタカマ市に贈呈いただいたプラネタリウム用の最新式デジタルプロジェクタが、両国の友好関係の一層の強化に貢献し、我が州から次世代の天文学者が生まれることを願っています。

アタカマ砂漠は、高い日照率、恵まれた風の条件、晴れ渡る空といった、太陽発電に最も適した自然条件に恵まれています。もしこの砂漠を太陽パネルで埋め尽くせば、全人類に必要な電力を賄うことができます。2011年3月に日本を襲った地震と津波、原子力発電所の事故の後、チリ国民は悲嘆や苦しみを我がことのように感じました。その中に在って、日本が再生可能エネルギー分野の技術開発を進めていることを頼もしく思います。こうした技術が、将来新しい世代が必要とするエネルギー供給に貢献することを心から願っています。

本シンポジウムが、日本の大学や企業にとって新たな道しるべとなり、多くのチャンスに満ちたアタカマ砂漠の発展に対し皆様方の貢献を強く期待しています。

パブロ・トロザ (第二州政府知事)

サンペドロ・デ・アタカマでは、リカンアンタイと呼ばれる民族が11000年に及ぶ長期にわたり歴史、文化を築いてきました。市の経済活動としては観光産業が重要で、年間10万人の観光客が訪れるほど成長しています。アンデス山脈、月の谷、遺跡をはじめ見どころが沢山あり、植生物も豊かで、訪れた人々はこの自然の美しさを高く評価しています。これまでも多くの日本人にご訪問いただいていますが、今後更に多く方々に来ていただきたいと思っています。

サンペドロ・デ・アタカマの空は非常に美しく、チャナントール山周辺は多くの天文観測所に選ばれています。特にTAOプロジェクトは、チャナントール山頂で非常に満足のいく進展をしており、我々も誇りに思っています。人類にとって重要な発見がなされると確信しています。また、サンペドロ・デ・アタカマは、1年のうち360日太陽が照りつけ、曇りは5日のみと太陽発電に適した場所です。私達は皆さんに、天文観測の場所を提供し研究を支援してきましたが、同じことが太陽光発電にも言えます。エネルギー需要は今後増え続け、我々にとっても科学にとっても非常に重要なものになります。今後、この地は科学的な中心地になるでしょう。

サンペドロ・デ・アタカマは、今後も日本と協力して新しい発見がなされる窓となり、太陽と星々そしてサンペドロの歴史とをつないでいきたいと考えています。

サンドラ・ベルナ (サンペドロ・デ・アタカマ市長)

チリと日本の交流は1897年の修好条約に始まり、様々な課題に協力して対処してきました。本年3月にはピニェラ大統領が来日、野田総理との首脳会談等が実現し両国間外交にとって大きな成果を上げました。大統領は、南三陸町を訪問し町民と交流、現地の人々も大いに勇気づけられました。以前にチリが南三陸町に寄贈したモアイ像が東日本大震災のために損壊したのをご覧になり、現在、チリ関係者が協力して新しいモアイ像を設置する計画が進められています。このように裾野の広い交流が進んでいます。

今後、更なる協力が期待されるのが学術研究交流の分野です。既に、大学・研究機関での交流が行われており、特にアタカマ砂漠で展開されているTAOプロジェクトはその代表的な位置づけであります。3月に東大で大統領の講演と両国の科学技術交流に関するシンポジウムが開かれ、私も拝聴しましたが誠に興味が尽きない内容でした。

本日のシンポジウムが、より強固な二国間関係の構築につながると共に、両国による研究学術分野の協力が人類の未来への貢献となることを祈念いたします。

山田 彰 (外務省中南米局長)

アンデス山脈に位置するアタカマの地では、チリ・日本・欧米諸国の協力で世界最大の電波望遠鏡を建設するALMA計画や東京大学のプロジェクトとして世界最高水準の赤外望遠鏡を建設するTAO計画も進められ観測成果をあげています。宇宙の起源・銀河形成・惑星形成の謎といった最先端の研究が進み、将来の我が国での天文学の発展に大きく寄与するものであると考えています。両計画を推進するにあたり、ご協力いただいたピニェラ大統領、サンペドロ・デ・アタカマ市長をはじめ関係の皆様のこれまでのご尽力に対し、深く敬意を表します。

天文学研究をはじめ研究の大規模化に伴い、国際的な協力が不可欠となってきています。日本とチリではこれまでも多様な研究分野において交流が行われていますが、今後、学術研究の更なる発展のため、これまで以上に国際的な協力や研究者の交流が重要になります。このシンポジウムを機に、両国間の学術交流をはじめとした様々な交流がますます活発になり、友好・親善に寄与することを期待しています。

森本 浩一 (文部科学省 大臣官房審議官 研究振興局担当)

吉井先生講演資料 アタカマ砂漠は天文学者にとっても非常に魅力的な場所です。現代の天文学に残された大きな問題は、「惑星生命の誕生」と「銀河宇宙の誕生」を解き明かすことです。これには赤外線による観測が非常に有効なのですが、赤外線は大気中の水蒸気によく吸収されるため、地上からの観測は簡単ではありません。水蒸気の少ない高地にあり、赤外線を精度よく観測できる天文台が強く求められているのです。

我々東京大学天文センターでは1998年より東京大学アタカマ天文台(TAO)計画を推進しています。これはサンペドロ市街から60kmほど離れた標高5,640mの地点に口径6.5mの大型望遠鏡を作る計画であり、完成すれば赤外線観測に世界で最も適した望遠鏡となります。現在は口径1mのパイロット望遠鏡による観測環境の実証を進めています。観測開始から2年ほどの間に、これまでは観測不能とされてきた赤外線が続々と観測されてきています。観測天文学におけるアタカマへの期待はどんどん膨らんでいます。

我々の計画は観測天文学だけにとどまりません。アタカマの莫大な日照を活かした太陽発電と望遠鏡施設、地球温暖化観測を融合させたSolarTAO計画も進めております。このような基礎科学研究と革新的技術開発が組み合わされた計画は世界的にも先駆的なものであり、アタカマの地でぜひ実現したいと考えています。

このような大きな計画は、学術界だけでなく日本の関係各位、チリ政府関係者、あるいは地元の方々のご理解なくして進めることはできません。アタカマで宇宙の謎を解き明かすまで、皆さまのご協力をお願いいたします。

吉井 讓 (東京大学大学院理学系研究科 教授)

第二部では、再生可能エネルギー技術の第一線の方々より、超伝導送電やスマートグリッドといった専門的な側面からアタカマ砂漠での太陽光発電の可能性についてご講演いただきました。サンペドロ・デ・アタカマでの太陽光発電について具体的な考察が進み、SolarTAOプロジェクトの実現に対する期待を強める内容となりました。

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第2部 パネルディスカッションの様子

子供達には、人口、エネルギー需要の増加、地球温暖化に加え、化石燃料やヘリウムの枯渇、高騰といった様々な難題が待ち構えています。太陽光・風力などの自然エネルギーや高温超電導の科学技術が使用、普及できるレベルに達してきた今、これらの技術を活かして、こういった問題が深刻にならないよう解決策を考える必要があります。

将来、世界人口が95億人に達し総先進国化した場合、現在の6倍の発電施設が必要になります。解決策として、世界中に太陽電池パネルを置いて直流超伝導ケーブルで結ぶGENESIS計画があります。今世紀後半までに、このグローバルネットワークのうち最低限、図のような場所に太陽光発電施設を設置し、グリッドシステムを構築する必要があります。中でもアタカマは南半球のキーポイントとなります。北半球の日照量が減る時期、逆に日照量が多くなるアタカマで発電し北半球に供給することができます。

アタカマは、南回帰線上で太陽光が非常に強いにも関わらず、標高が高いため太陽電池にとって暑すぎない最適な気温です。また、山に囲まれた大きな盆地で砂嵐や強風がないため、太陽電池の安定な動作が可能で機器の設置も楽になります。1年に5日しか曇らないため、安定した太陽光のエネルギー供給源として最適な場所です。自然災害が比較的少ない点でも恵まれています。以上のことからアタカマは長期にわたり太陽光発電を実施するのにふさわしい場所で、これを実現できる科学技術も整ってきている上、チリに天文学の興味が集中してきているといった大きな動機が重なって「今、アタカマ」なのです。

下山 淳一(東京大学大学院工学系研究科 准教授)

サンペドロ・デ・アタカマ市は、観光地として将来サスティナビリティを達成し一層環境に配慮する必要があると考えています。本市は、この20年間に人口・観光客数が非常に増えました。我々は、この地が国際的な観光地となり、基本的なサービスを最上の方法で観光客に提供できるようになることを望んでいます。

そのためには、浄水の問題、廃棄物処理場の整備、下水道施設の整備に加え、大きな課題としてサスティナブルなエネルギーというものがあります。私どもが必要とするエネルギーは現在4MWですが、現状では1.5MWしか賄えず近くのカラマ市からエネルギー提供を受けています。今後、人口、観光客の増加に伴いエネルギー不足は必至で、さらにリチウムなどの鉱物開発、天文学プロジェクトにもエネルギーが必要になります。

サンペドロ・デ・アタカマには、年間360日の日照と乾燥した広大な土地があります。サンペドロ・デ・アタカマは、太陽エネルギーを活用したパイロットモデルになり、深刻なエネルギー不足の問題を克服していきたいと考えています。その実現には、クリーンエネルギー等の最新技術が不可欠となります。この実現に向け、皆様に是非ご協力いただきたいと思います。

サンドラ・ベルナ (サンペドロ・デ・アタカマ市長)

アタカマは、強い太陽光照度、低い湿度、高い高度という点から太陽光発電にとって有利な条件となっている他、地下に岩塩層がありエネルギー貯蔵に活用できる可能性があります。

まず、高効率で経済的な太陽発電方式を選ぶ必要があります。現在、太陽電池PVは価格が下がっており、このチャンスを活用すべきです。太陽パネルの値段が下がっても設置のコストが高いという問題点については、現在日本で60万円/Kw、米国で30万円/Kwのところが、米国のSunShot計画により2020年には10万円/Kwレベルまで下がる可能性があります。 また、太陽電池PVだけでなく太陽熱発電CSPも考慮に入れるべきです。CSPはどのタイプも効率が20%以上あり、20%に届くかどうかというPVよりも効率が良いという特徴があります。

アタカマで電力システムを計画する場合、サンペドロとTAOを系統でつなぎ、PVおよびCSP発電施設を用意、要所要所にリチウムイオンバッテリ、バックアップ用の火力発電を配置し、全体を中央制御室からコントロールするといったものが考えられます。 全体のコストがミニマムになるよう、夜間の負荷は安いディーゼルエンジンを使うというようなバランスを考える必用もあるでしょう。 サンペドロで必要な電源容量を20MWと仮定して、電力システム構築に必要な費用を試算すると100億円と高額になるため、各々の機器を安価にして各機器の導入バランスを考え直す必要があります。全体のエネルギーマネージメントシステム(CEMS)の導入が鍵を握ります。 安価なエネルギー貯蔵の方法として、地下に岩塩層のあるサンペドロの地域性を考えると、地下に空気を蓄える圧縮空気貯蔵や溶融塩を使った蓄熱システムが有効となるでしょう。

福江 一郎 (三菱重工 特別顧問)

増田氏講演資料 住友電工では、超伝導ケーブルの開発と実用化実験を行っています。特に太陽光発電との組み合わせという観点から、アタカマに対する大きな期待を持っています。

超伝導とは、温度・電流の大きさがある一定条件のもとで電気抵抗がゼロ、つまり超伝導とはある一定の電流まで電圧がゼロであるということです。 超伝導のメリットとして、発熱がない、大きな電流が流せる、大きな磁場を作ることができるということがあげられます。 超伝導の応用例として、産業的にはリニアモータや医療器具(MRIなど)に使われていますが、「超伝導ケーブル」という応用も考えられます。

超伝導を実現するには素材を冷やさなければなりません。以前はマイナス270度くらいまでの利用でしたが、最近は液体窒素温度、マイナス180度からマイナス160度くらいで超伝導になるビスマスやイットリウムなどを含んだ臨界温度の高い素材が使えるようになってきました。住友電工では、その超伝導素材を線材にし、ケーブルとしての応用を検討しています。現在電流密度が銅の200倍に値するような、長さ1500mの超伝導ケーブルの開発に成功しています。住友電工ではさらなる実用化を目指し、超伝導ケーブルを使った送電の実証実験を横浜地区の変電所で行っています。超伝導ケーブルのメリットは、コンパクトで伝送損失が少ないということです。例えば、地下のケーブルを超伝導ケーブルに替えることで本数を少なく出来ますし、形状も非常にコンパクトであることから空いたスペースを活用でき、また新規に工事する際は少ないスペースの確保で済みます。また電線への応用では、現在は発電所と各家庭間での電圧の上げ下げが必要ですが、超伝導ケーブルの場合は大電流のまま流せるのでその必要がなく、変電施設など設備面も少なくすることができます。これは工事・維持費という面でコストダウンに繋がります。一方、超伝導ケーブルは常に冷却が必要なので、その冷却のための経済的なバランスを考えて導入する必要があります。

最後にアタカマでの利用についてです。アタカマは日射量が多く太陽発電の効率が高い、強風がないため施設へのダメージも少ない、メンテナンスも容易といった好条件にあることから、非常に期待できるサイトであると言えます。太陽光発電と超伝導の組み合わせは世界でまだ例がないので、ぜひアタカマで最初のモデルの構築を希望しています。

増田 孝人 (住友電工 超伝導製品開発部主幹)

神津氏講演資料 スマートグリッドとは、電力をいかにスマートに賢く需要地や消費地に運ぶかというインフラネットワークのことです。特に我々はアタカマ砂漠のメガソーラー施設で得た電力をいかにアタカマ市内に届けるかということに注目しています。

日本のスマートグリッド技術の特徴は、欧米の電圧の高い大規模な風力発電とはちがい、電圧の低い太陽光発電に早くから着目し研究していることです。これは離島などの僻地での電力運用に有効です。また、電気自動車を電力貯蔵の場として利用しており、太陽光発電の弱点、夜、曇天時の電力供給にかなり有効的に応用できます。さらに昨今の省エネ技術と組み合わせることにより非常に有効的にスマートグリッドを利用できます。具体的な技術要素としては、1メガワット級の大型のリチウム電池、発電した電気を交流にかえるパワーコンディショナー技術、本が誇る電気自動車の技術、いくつかの電源やバッテリーを効率よく運用する配電システム技術、さらに前述の省エネ技術などがあげられます。

日本では10年以上前からスマートグリッドの前身、”マイクログリッド”という研究が行われています。例として人口5万人の宮古島での実証事業があります。そこでは環境電源(太陽光、風力)と火力発電を組み合わせて非常効率よく運用しており、源から得た電力は各家庭、公共施設、企業、農地へ流し利用しています。規模的にも内容的にもアタカマへの応用、つまりSolar TAOプロジェクトに非常に参考になる事例であると考えています。アタカマでの利用に際しては、弱い電力系統での安定供給、環境に配慮したシステム構築(CO2削減)、高い日照率の有効活用、地元への貢献、つまり安定供給、電気バス等観光業への寄与などという点で非常に有効であると考えています。経済的な面で負担は否めませんが、環境への配慮ということならこれ以上良いものはなく、現在の日本の技術をもってすれば実現は可能です。アタカマでスマートグリッドモデルを構築できることを期待しています。

神津 彰(三菱総研 研究理事)

上田氏講演資料 コニカミノルタグループは”Giving Shape to Ideas”というスローガンのもと、海外に38拠点を構え、真のグローバル企業を目指しています。

1957年に当時の創業者が主力事業のカメラの技術で世の中に貢献できないか、ということで国産初のプラネタリウムを製造しました。その精神を受け継いで天文教育や科学の普及において貢献することをミッションとして事業を行っています。天文教育の促進という点で東京大学と協力関係を深め、2009年にはオリジナル作品を製作しました。これはTAO計画を題材にしたもので、全面的に東京大学に協力をいただいたものです。アタカマに当社スタッフも同行し、美しい映像の撮影、及び地元の方々との交流をさせて頂きました。

今年、アタカマ市にプラネタリウム装置を寄贈させて頂きました。プラネタリウム事業を通じて科学普及、及び世界に貢献できることはないか、と考える当社にとって非常にいい機会を頂いたと思っています。 なぜ、美しい星空の下にあるアタカマにプラネタリウム施設を建てるか、というと、赤外線で捉えた天文画像など、肉眼では見られない画像をプラネタリウムで映しだす、いわゆる”Scientific Visualization”において最強のツールであるからです。最新の研究成果をここで紹介できたら幸いです。 また、このプラネタリウムによって、アタカマの子ども達と、訪れる観光客に、素晴らしい研究が行われていることを知ってもらい、更なるアタカマ市の発展に活用して頂けたらと思います。こうした地元の方々との文化・科学交流こそがアタカマにおける日本企業がより発展することに寄与できるものと考えております。

上田 裕昭 (コニカミノルタ・プラネタリウム 取締役社長)

交流会

シンポジウムに引き続き、交流会が催されました。日本・チリ両国の政府関係者をはじめ、ビジネスマン、エネルギーや天文学に関する研究者や技術者、学生など、様々な分野でチリと関係のある方々にお集まりいただき貴重な交流の機会となりました。シンポジウムの主催である在日本チリ大使館から振る舞われたチリワインに舌鼓を打ちながら、両国間の学術・エネルギー分野での科学技術交流への期待、産業界、文化面での交流について語り合い親睦を深めました。

交流会の様子
交流会の様子
佐々木委員長

本日のアメイジング・アタカマ・シンポジウムの後援団体を代表いたしまして、ひと言ご挨拶を申し上げます。

アタカマ砂漠と日本の産業界とは、歴史的にも大変深い繋がりがあります。チリ硝石は古くから貴重な天然肥料として、20世紀初頭から日本に輸入され、現在もこの地域にあるチリ銅鉱山の銅鉱石は日本の銅鉱石全輸入量の約半分を占めており、アタカマ塩湖のリチウム、ヨードも日本に大量に輸出されております。つまり、貴重な天然資源を通じて、アタカマは100年以上にも亘り、日本の基幹産業にとって欠かせない大事なパートナーであると言えます。

こうした長い歴史を持つ、日本とアタカマの関係に、東京大学のTAOプロジェクト、国立天文台が参加するALMAプロジェクト、更に同大学が提唱するアタカマ砂漠での太陽光・太陽熱プロジェクトといった、科学技術分野での交流が、新たな1ページとして加わっており、非常に喜ばしく思います。

佐々木 幹夫  (日智経済委員会 日本国内委員会委員長・三菱商事 相談役)

ベッカー参事官

このシンポジウムを成功させるために尽力下さった東京大学、日智委員会日本支部、そして日本チリー協会、他すべての方々に心から感謝いたします。

大使が言及いたしましたように、私たちの国においては、再生エネルギーの利用促進は、もっとも重要な国の政策の一つです。このシンポジウムが、チリの広大な砂漠地帯における太陽光発電所の建設に向けての第一歩となることを願っています。そして将来、砂漠にある他の豊かな天然資源のように、太陽光による電力もチリの生み出す資源に加わることを望んでいます。

昨日、コニカミノルタ社で行われた、サンペドロ・デ・アタカマ市のプラネタリウムに寄贈されるプロジェクターの記念式典に立ち会いました。これからもこのようにプロジェクトの投資が増え、それに伴いすでに強い絆で結ばれているチリと日本の関係がますます確固たるものになることを期待しています。

パトリシオ・ベッカー  (在日本 チリ大使館 公使参事官)

西岡相談役

本日のシンポジウムでは、皆様の熱心な討議で、アタカマにおけるチリと日本の学術及び科学技術の交流の現状と将来について、大いに理解が進んだことと思います。

私は、2年前にアタカマを訪問する機会があり、その雄大な自然と豊かな天然資源を目の当たりにし、今後もアタカマでのチリと日本の交流が強まり、それによって両国の発展に寄与できるものと確信しました。

それでは、本日のシンポジウムを機にチリ・アタカマと日本の学術及び科学技術の交流が一層深まることを祈念すると共に、ご列席の皆様方のご健勝をお祈りして乾杯したいと思います。
乾杯!

西岡 喬  (三菱重工 相談役)