Solar-TAO Project 提案の趣旨

人類の夢と科学技術の舞台は地球上から、光と熱の恩恵で生命を維持する太陽、そして無限の宇宙へと広がっています。TAO(University of Tokyo Atacama Observatory) は宇宙からの微弱な光を通して銀河や惑星の誕生を解明するため、東京大学が南米チリのアタカマ砂漠の標高5,600mの高山に大口径赤外線望遠鏡を建設する計画です[1]。

一方、21世紀の地球は環境の世紀と言われます。地球温暖化の影響はすでに世界中で顕在化しており、また化石燃料の枯渇から生じるエネルギー問題も深刻の度合いを増しています。これらは人類の存在基盤すら揺るがしかねない問題であり、すべての人間活動を変革して持続可能な社会システムを構築する、いわゆる「サステナビリティ」社会の実現が強く望まれています。その点において基礎科学研究をはじめとした大学の研究教育活動も例外ではなく、持続可能な形への変革が求められています。

エネルギーと環境の問題を同時に解決する最も可能性の高い技術は太陽光の有効利用です。1億5千万km彼方の核融合炉から地球に向けて、人類が消費するエネルギーの1万倍を定常的に供給しエネルギーバランスを保つ太陽光の発電利用は、夢の世界から経済的にも成立つ真に有効な技術になりつつあります。宇宙への夢と地球上の現実を、太陽光発電によって結びつけ、アンデスの地域住民にも貢献する環境新時代の基礎科学研究の新しい形、Solar TAO計画を提案します。

Solar TAO計画は先端研究施設である望遠鏡を太陽光発電によるクリーンエネルギーで運用します。砂漠の良好な気象条件は天体観測はもとより、太陽光発電にも最適です。豊富に得られる太陽光からのクリーンエネルギーは近隣の都市にも供給し、都市インフラの整備に貢献します。これは都市と科学研究の共生を目指す新しい試みです。送電には日本が誇る高温超伝導送電技術を用い、エネルギーロスをゼロに抑えます。太陽光発電+超伝導送電技術は地球規模でのクリーンエネルギーネットワークプロジェクトである Sahara Solar Breeder計画[2]やGENESIS計画[3]の基礎をなすものであり、Solar TAO計画はそれらに先駆けたショウケースの役割を果たします。

Solar TAO計画は地球温暖化の問題にも貢献します。微弱な光も高精度に測定できる望遠鏡施設を使うことで、従来は難しかった温暖化ガスの精密測定が可能になります。 アタカマ砂漠は世界最大の二酸化炭素消費地であるアマゾン近くに位置しており、地球全体の二酸化炭素循環を探るのに不可欠な観測拠点となります。2009年に打ち上げられた日本の「いぶき」衛星のデータとも合わせ、地球規模での温暖化ガスの様子を描き出すことが期待できます。

Solar TAO計画は天文学研究でも重要な成果が期待できます。アタカマ砂漠の赤外線透明度は世界最高であり、先端の大口径望遠鏡によって従来は観測が難しかった新しい赤外線での観測が可能になります。これによって「銀河の誕生」「惑星の誕生」という天文学最大の2つの謎に答えを出すことが期待できます。

東京大学は内外の大学、研究機関および産業界と密接な連携のもと Solar TAO計画を推進し、環境世紀の新しい科学の発展に貢献したいと思います。ご理解とご支援をお願いいたします。


[1] http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/TAO/index.html
[2] G8+5 Academies’ meeting (Rome, Mar.26-27, 2009) への 日本学術会議提案 ”Sahara solar breeder plan directed towards global clean energy super highway”
[3] Y. Kuwano “GENESIS: Global Energy Network Equipped with Solar Cells and International Superconductor Grids” Proposed at PVSEC (Australia, 1989)