東京大学木曽観測所によるX線天文衛星「ひとみ」の追跡観測(2016年3月31日実施)について

東京大学木曽観測所は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の依頼を受け、日本時間2016年3月31日にX線天文衛星「ひとみ」の地上追跡観測を実施しました。本サイトでは、木曽観測所が取得した「ひとみ」の観測データを公開します。観測データの解釈およびX線衛星「ひとみ」の状況に関しては、JAXAの記者発表およびWebサイトをご参照ください。報道・出版関係で本サイトの情報をご利用の場合は、東京大学木曽観測所事務担当 森由貴(moriyukikiso.ioa.s.u-tokyo.ac.jp, 0264-52-3360)へ事前にご一報ください。なお、本サイトで用いる時刻はすべて日本時間(JST)です。


観測の経緯

東京大学木曽観測所は2016年3月29日にJAXA「ひとみ」チームの依頼を受け、急遽、予定されていた天文観測プログラムを変更して「ひとみ」の追跡観測の体制をとりました。この時、観測装置は高感度な動画観測が可能な広視野高速カメラ「トモエゴゼン試験機」に交換されました。JAXAから「ひとみ」の位置情報の提供を受けながら気象条件の悪い低高度の観測を続けた結果、2016年3月31日の夕方に「ひとみ」とされる光跡の検出に成功しました。

観測装置

木曽観測所は東京大学大学院理学系研究科付属天文学教育研究センター(本部 東京都三鷹市)が運用する天文観測施設です。広い視野を特長とする口径105cmシュミット望遠鏡が主力望遠鏡です。 105cmシュミット望遠鏡の観測視野は日本が保有する他の望遠鏡を圧倒しており、今回のような空を高速に移動する天体の観測や、新しい天体現象を見つけるために空を広く探査する目的に適しています。現在、木曽観測所では105cmシュミット望遠鏡の広い視野(Φ9度、焦点面にてΦ52cm)のすべてを84台のCMOSイメージセンサで覆う超広視野高速カメラ「トモエゴゼン」の開発を2017年完成予定で進めています(リンク)。2015年11月24日には、先行して開発が進められていた「トモエゴゼン試験機」( 8台のCMOSセンサを搭載)がファーストライト観測に成功しました(リンク)。また、2015年12月4日には「トモエゴゼン試験機」により小惑星探査機「はやぶさ2」のスイングバイの様子を動画観測にて検出することに成功しました(リンク)。トモエゴゼン試験機は105cmシュミット望遠鏡との組み合わせにより、動画観測において国内最高感度の広視野観測を実現します。従って、空を高速で駆け抜ける微弱な「ひとみ」の光跡を捉えるのに最適な観測装置と言えます。
「トモエゴゼン試験機」に搭載された8チップのCMOSセンサは間隔をおいて配置されているため、観測視野も 間隔をおいた8領域となります。8チップのセンサは東西方向に配置されています。「トモエゴゼン試験機」の観測視野を以下に図示します。

観測緒元

東京大学木曽観測所が保有する口径105cmシュミット望遠鏡に広視野高速カメラ「トモエゴゼン試作機」を搭載して、2016年3月31日19:30--20:30に「ひとみ」の通過予想天域の観測を実施しました。当時、「ひとみ」本体とそこから分離した物体は計5つとされており、それぞれの通過予想天域に対して「天体の日周運動」を追尾しながら30--50秒間の動画観測(2フレーム/秒)を実施しました。光学フィルタは使用せず波長400--650nmの可視光で観測しました。「ひとみ」に関係する物体が太陽光を反射して輝くのは日没直後の高度20度以下と厳しい観測条件でしたが、薄雲を通して計2つの光跡の検出に成功しました。検出した2つの光跡は、一方が「ひとみ」本体、もう一方が「ひとみ」から分離した物体です(2016/4/8のJAXA記者発表を参照)。「ひとみ」本体を観測した時の夜空の様子を以下に示します。(左)広角図、(右)拡大図。白線が「ひとみ」の予想経路。赤枠が「トモエゴゼン試験機」の観測視野8.2度角x22分角。西の空、高度13-20°を観測。作図はFree Software Foundation製Stellariumを使用。

取得した画像データ

「ひとみ」本体の通過予想天域に対して同日20時24分8秒より50秒間の動画データ(2フレーム/秒)を取得しました。センサ0,1,2,3の天域は濃い雲で覆われていましたが、センサ4,5,6,7の天域では薄雲を通して天体を観測できました。「ひとみ」本体は、20時24分36秒にセンサ4の北西に現れ、約22秒間かけてセンサ7の南東へと明るさを周期的に変えながら移動しました。20時24分36秒から22秒間に取得したセンサ4,5,6,7の動画データ(mp4ファイル)を以下のリンク先に置きます。センサ間の天域は灰色で埋めています。

視野全域 x1倍速 x3倍速 x5倍速
拡大 x1倍速 x3倍速

同データを時間方向に合成した画像(上,12000x1000pix)とセンサ7の画像(下,2000x1000pix)を示します。


明るさの時間変化

上記の画像データに対して解析を行い、「ひとみ」本体の明るさの時間変化を導出しました。以下に図示します。(上)単色、(下)センサごとに色分け。横軸は2016年3月31日20時24分36秒からの経過時間です。縦軸は「ひとみ」本体の相対的な明るさです。「ひとみ」がセンサから外れた時間帯にはデータ点はありません。明るさのピークが周期的に見られます。また、その中に特徴的な弱いサブピークも見られます。ピークの明るさ(縦軸が1.0)は、約8等級(※1)の明るさに相当します。

(※1)誤記を訂正しました。誤:11等級 → 正:8等級 (2016/4/8/18:00)

明るさの時間変化の周期

上記の「ひとみ」本体の明るさの時間変化を、周期5.22秒で折り返した図を以下に示します。(上)単色、(下)センサごとに色分け。時間変化のプロファイルが揃うことがわかります。この解析結果を基にJAXAにて検討した内容の詳細はJAXAの記者発表および Webサイトをご参照ください。

今後の取り組み

東京大学木曽観測所では引き続きX線天文衛星「ひとみ」の復旧に向けて必要となる観測データの取得を進める予定です。

クレジット

本サイトの画像を使用する場合は「東京大学木曽観測所」と併記してください。
例)画像提供: 東京大学木曽観測所

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