東京大学木曽観測所では、2015年12月3日に、スイングバイのため地球に近づいた「はやぶさ2」を、 広視野高速カメラTomo-e Gozen(トモエゴゼン)試験機を用いて動画観測することに成功しました。 このサイトでは、トモエゴゼン試験機が取得した「はやぶさ2」の動画・静止画データと、使用した観測機器の 情報を掲載しています。

観測に使用した機材について

東京大学木曽観測所は、東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター(本部 東京都三鷹市) が運用する天文観測施設です。広い視野を特長とする口径105cmシュミット望遠鏡が主力望遠鏡です。 105cmシュミット望遠鏡の観測視野は日本が保有する他の望遠鏡を圧倒しており、今回のような空を高速 に移動する天体の観測や、新しい天体現象を見つけるために空を広く探査する目的に適しています。 現在、木曽観測所では105cmシュミット望遠鏡の広い視野(Φ9度、焦点面にてΦ52cm)のすべてを84台の CMOSイメージセンサで覆う超広視野高速カメラTomo-e Gozen(トモエゴゼン)の開発を2017年完成予定で 進めています。先日2015年11月24日に、先行して開発が進められていた「トモエゴゼン試験機」( 8台の CMOSセンサを搭載)が完成し、現在、約1か月間の試験観測を行っています。今回は、 「トモエゴゼン 試験機」の動画観測機能の試験の一環として「はやぶさ2」の観測を実施しました。試験機の段階ではあり ますが、105cmシュミット望遠鏡との組み合わせにより、動画観測において国内最高感度の広視野観測を 実現します。従って、微弱な「はやぶさ2」の光跡を動画で捉えるのに最適な観測装置と言えます。

トモエゴゼンが明らかにする「短時間に変動する宇宙の姿」

宇宙は絶対的でなく変わりゆく物であるという宇宙観は現代天文学の基本ですが、「一瞬のマバタキ の間に宇宙がどれほどに変化したのか?」という疑問に答えることは未だできていません。例えば、 宇宙の一点が突然にピカッと(=10秒以下の短期間に)輝き消えていく現象は存在しないのか。無数にある 星の1つが忽然と消えることはないのか。といったことを可視光で広範囲に調べた観測は存在しないのです。 そこで東京大学を中心とするトモエゴゼン計画の研究 グループは、東京大学木曽観測所の広視野シュミット望遠鏡の広大な焦点面のすべてを高速なCMOSイメージ センサで覆う超広視野高速カメラTomo-e Gozenを開発し、短時間に変動する宇宙の姿を明らかにする研究に乗り 出しました。完成すれば世界で唯一、10秒より早く変動する宇宙の探査が可能な観測装置となり、広視野 高速天文学という新しい研究分野を開花することができます。今回の「はやぶさ2」の観測で使用する トモエゴゼン試験機は、トモエゴゼン実機の技術実証を目的に開発された観測装置です。観測視野は実機の 1/10ですが、高感度な動画観測性能は実機と同じです。高速で空の広域を駆け抜ける「はやぶさ2」は、 トモエゴゼンの動画観測性能を評価する上で絶好の観測対象となるため、今回の地球スイングバイ観測を 実施することになりました。さらに、はやぶさ2計画への科学的連携と、研究のアウトリーチ活動の観点から、 観測データを一般に公開することとなりました。

観測装置に関する詳細情報

使用する観測装置まとめ

観測装置名称 超広視野高速CMOSカメラ トモエゴゼン試験機
搭載望遠鏡 東京大学木曽観測所105cmシュミット望遠鏡, 口径105cm, 焦点距離3,300mm, f/3.1, 視野Φ9度
イメージセンサ 高感度35mmフルHD CMOSセンサ(キヤノン製)
センサ台数 8台(はやぶさ2観測では、このうち1台を使用)
観測視野 40分角 x 22.5分角(センサ1台あたり, 全センサ領域読み出し時)
波長フィルタ なし(モノクロ)。感度波長400nm - 650nm
研究代表 東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター・助教 酒向重行(さこう しげゆき)
参加研究機関 東京大学、国立天文台、JAXA、東北大学、甲南大学、千葉工業大学、 京都産業大学、日本スペースガード協会、かわさき宙と緑の科学館
開発協力 キヤノン(高感度35mmフルHD CMOSセンサ)
研究費補助 日本学術振興会 科学研究費基盤A, 代表 渡部潤一(国立天文台); 日本学術振興会 新学術領域研究, 代表 中村卓史(京都大学); 日本学術振興会 新学術領域公募研究, 代表 酒向重行(酒向重行); 国立天文台共同開発研究, 代表 酒向重行(東京大学); 科学技術振興機構 さきがけ, 代表 酒向重行(東京大学);

はやぶさ2の12月2日の観測結果

曇天のため、残念ながら「はやぶさ2」の光跡をとらえることはできませんでした。 ご提供できる画像・動画データはありません。

はやぶさ2の12月3日の観測計画と取得データ

以下のタイムテーブルに沿って17時30分から19時00分に観測を実施しました。 取得できたデータは、タイムテーブル内のリンクからご覧いただけます。
0.5秒露光/フレーム(2Hz)の動画・画像ファイルは2160x1200画素です。
0.25秒露光/フレーム(4Hz)の動画・画像ファイルは8664x1128画素です。
動画・画像の上が北、下が南、右が西、左が東です。
!!注意!! 動画ファイルは実際の10倍速で再生されます。!!注意!!
はやぶさ2は、視野の中央、下端から上端に移動します (天球上の南から北へ移動します。地上から見ると、西から東へ移動します。)

観測視野(視野中央) 観測開始
時間
露光 枚数 結果 静止画ファイル動画ファイルYoutube
番号 赤経
(hh mm ss.s)
赤緯
(dd mm ss)
(hh:mm:ss) (秒) (枚)
#1 17 3 2.1 48 55 39 17:28:20 0.5 400 曇り - - -
#2 17 3 29.3 49 41 6 17:33:20 0.25 800 曇り - - -
#3 17 4 0.1 50 31 4 17:38:20 0.5 400 曇り - - -
#4 17 4 34.9 51 26 21 17:43:20 0.25 800 曇り - - -
#5 17 5 14.4 52 27 54 17:48:20 0.5 400 スキップ - - -
#6 17 5 59.4 53 36 56 17:53:20 0.25 800 初検出
(暗い)
- mp4 -
#7 17 6 51 54 55 3 17:58:20 0.5 400 検出
(暗い)
- mp4 -
#8 17 7 50.6 56 24 19 18:03:20 0.5 400 検出 @jpg(※1)
Ajpg(※2)
mp4(10倍速)
mp4(2倍速)
link
link
#9 17 8 59.9 58 7 29 18:08:20 0.5 400 検出 mp4 link
#10 17 10 21.7 60 8 22 18:13:20 0.5 400 検出
(途中曇り)
mp4
mp4(拡大)
link
#11 17 11 59.7 62 32 22 18:18:20 0.25 800 検出
(途中曇り)
mp4 link
#12 17 14 0.1 65 27 21 18:23:20 0.25 800 失敗 - - -
#13 17 16 34.3 69 5 15 18:28:20 0.5 400 検出
(前半曇り)
@png(※3)
Ajpg(※4)
Bjpg(※5)
mp4 link
#14 17 20 9.4 73 45 2 18:33:20 0.25 800 検出 mp4 link
#15 17 26 31.8 79 58 10 18:38:20 0.5 400 曇り - - -
#16 18 28 15.4 88 36 38 18:43:20 0.5 400 曇り - - -
#17 5 17 23.9 78 34 43 18:48:20 0.5 400 曇り - - -
#18 5 28 24.7 59 30 57 18:53:20 0.5 400 曇り - - -
  • ※1:0.5秒積分の140フレームを最大値を取って足し合わせ。
  • ※2:0.5秒積分の2フレームを最大値を取って足し合わせ。これを35セット最大値を取って足し合わせ。
  • ※3:0.5秒積分の3フレームを足し合わせ。
  • ※4:0.5秒積分の1フレーム。
  • ※5:0.5秒積分の200フレームを最大値を取って足し合わせ。

観測データのご利用・クレジットについてのお願い

報道・出版関係でこれらの情報をご利用の場合は、東京大学木曽観測所へご一報いただいた後にご利用ください。
(ご連絡・お問い合わせはこちらへ)


東京大学木曽観測所では今後も研究活動とアウトリーチ活動を精力的に進めていくために、 同観測所の成果を国民の皆様へ伝えることを重要視しております。そのため、以下に挙げる内容の クレジットおよび説明と共に発信いただけると幸いです。ご協力をお願い申し上げます。

内容に関する問い合わせ

東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所
Tel: 0264-52-3360


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