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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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2007年4月 チャナントール山頂のシーイング測定結果報告

2008年12月17日発行

1. 今回の測定のまとめ

2007年4月下旬に、チャナントール山頂に高さ2メートルのタワーを設置し、その上でのシーイングモニタ観測に成功しました。 その結果、チャナントールはシーイングの面でも世界トップクラスの、非常に良好なサイトであることが明らかにできました。

具体的には、下記のような結果となっています。

  • これまでの全データをまとめた中央値は0.69秒角で、南米のサイトでも屈指の値です。
  • もっとも良好な夜は中央値で0.37秒角と驚異的な値です。

天候、大気の透過率を勘案すると、チャナントール山頂は赤外線観測で世界最高のサイトである、と言っても過言ではありません。

# メンバー : 本原、青木、宮田、峰崎
# 日程 : 2007/4/12 - 4/29 (現地滞在)

2台並んだシーイングモニタ
図1: 2台並んだシーイングモニタ

2. 測定概要

シーイング測定は 4/15-4/25の夜に挑戦し、そのうち4/17, 20, 22, 23の4夜に測定を行うことができました。

機材は前回2006年に比べて大幅に増強されました。大きな違いとしては、下記のようなものが挙げられます。

  • 山頂に高さ2mのタワーを設置し、その上に望遠鏡を設置したこと
  • 望遠鏡をふくむシーイング測定システムをもう一組用意し、それを 地面に設置したこと

これは、タワーによって接地境界層乱流の影響からできるだけ逃れるとともに、その乱流の影響がどの程度あるのかを定量的に評価するためでした。

西斜面ギリギリのところにある2mタワー タワー上にシーイングモニタを設置したところ
図2: 西斜面ギリギリのところにある2mタワー 図3: タワー上にシーイングモニタを設置したところ
地上に設置されたモニタ 2台のシーイングモニタ
図4: 地上に設置されたモニタ 図5: 2台のシーイングモニタ

3. 測定結果

今回は天気がかなり不安定で、途中で雲が出たり、風が強くて望遠鏡の振動が大きかったために星をロストしたりしたために途中で観測が打ち切られてしまうトラブルが続出しました。そのため、一晩を通じて2台の望遠鏡両方でデータをとることができませんでした。

しかしながら、少なくとも1台の望遠鏡ではほぼ全夜のデータが取れており、多くの貴重な情報を得ることができました。

まず、良好な夜はタワー上で0.4秒角を切るシーイングが可視光でも期待できることです。たとえば4/20は途中で雲が出て観測が途切れてしまいましたが、それまでは安定して0.4秒角前後のシーイングが得られており、中央値は0.38秒角です。

2007/4/20, 2mタワー上でのシーイングの時間変化
図6: 2007/4/20, 2mタワー上でのシーイングの時間変化

次に、2メートルのタワーに上がることによって、シーイングが0.1秒角以上改善する、ということです。下の図はタワー上と下のシーイングの相関を、測定日ごとにプロットしたものです。 各日で少なくとも0.1秒角、大きいと0.5秒角以上もシーイングが改善していることが見て取れます。

タワーの有無によるシーイングの違い
図7: タワーの有無によるシーイングの違い

4. チャナントール山頂のシーイング

これまでに山頂で取得した全データのタワー上下のオフセットの補正をかけ、それをまとめたところ、中央値は0.69秒角となりました。 これは、ハワイ・マウナケア山頂の0.6秒角、南米でベストのサイトといわれているラスカンパナスの0.63秒角に比べても遜色ない値で、VLTのサイトであるパラナル山頂の0.82秒角を大きく下回る良好な値です。

測定された全データのヒストグラム
図8: 測定された全データのヒストグラム

さらに、この測定が地上わずか2メートルの地点でなされたことを考えると、より高い高度に設置されるTAO望遠鏡ではより良いシーイングが期待されるでしょう。

赤外線透過率はこれらサイトに比べて圧倒的に良いこと、晴天率も8割以上が期待できることを考えると、チャナントール山頂は、赤外線天文学にとってベストサイトである、ということが言えるでしょう。

実際に1m望遠鏡が2009年から駆動しますが、その画像が今から楽しみになる結果です。

(本原顕太郎)
Copyright(c) 2008 東京大学大学院理学系研究科 TAO計画推進グループ
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