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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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2007年5月 東広島天文台にて MAX38 ファーストライト

2008年12月17日発行

東広島天文台かなた望遠鏡にて、中間赤外線観測装置 MAX38 がNバンド (波長10μm帯) のファーストライト観測に成功しました。MAX38 はこれまで実験室にて試験をおこなってきましたが、今回の観測では望遠鏡に取り付けることで、実際の天文観測における性能評価と機能試験をおこないました。また、世界初となる冷却チョッピングシステムを用いた観測にも成功しました。

# メンバー : 宮田、酒向、中村、土居
# 日程 : 2007/06/2-7

広島天文台1.5mかなた望遠鏡のカセグレン焦点に搭載された MAX38
図1: 広島天文台1.5mかなた望遠鏡のカセグレン焦点に搭載された MAX38

1. 装置の性能評価と機能試験

MAX38 を望遠鏡に取り付けて様々な試験をおこないました。試験の内容と結果は以下のとおりです。

  • 光学性能
    • 半値幅1.5秒角 (口径1.5m望遠鏡の波長8.9μmにおける回折限界) の点源星像の取得に成功しました。
    • 像面の歪み、光線のけられが無いことが確認されました。
    • 観測装置を傾けることによる、像への影響が無いことが確かめられました。

  • 感度性能
    • 波長8.9μmにて、1秒積分で4 Jyの天体がS/N=1で検出できる感度を達成しました。これは、感度の設計値に相当します。
    • 視野内の場所による感度むらが、観測に影響を与えないほど少ないことが確認されました。

  • 真空、冷却性能
    • 光学系デュアー内を高真空 (10-6torr以下)・極低温 (7K以下) に維持したまま観測をおこなえることが確認されました。
    • 冷凍機の振動が天体像に影響を与えないことが確認されました。

  • 駆動機構、望遠鏡インターフェース
    • 光学フィルタの交換機構の試験をおこないました。回転機構に不具合が見つかりました。
    • MAX38 を望遠鏡カセグレン焦点に問題なく取り付けられることが確認されました。

  • 冷却チョッピングシステム
    • 世界で初めて冷却チョッピングシステムによる観測に成功しました。
    • 星像を移動 (チョッピング) 後、点状に安定して停止させる閉ループ制御に成功しました。
    • 冷却チョッピング観測により背景熱放射の時間変動を除去し、高感度な観測を実現できることが確かめられました。
    • 広がった天体の観測をおこなうためには、より大きなチョッピングストローク (振り幅) が必要なことがわかりました。
    • 装置の姿勢により、システムが不安定になる場合があることがわかりました。

2. ファーストライト画像

今回の観測で得られた天体画像の代表例です。MAX38は装置内の鏡を傾けて天体像の位置を定期的にスイッチ (約5Hz) するチョッピングと、望遠鏡を少しだけ動かして天体像の位置をスイッチするノッディング (数10秒毎) の2つの動作を組み合わせて観測をおこないます。その結果、画像の4箇所に天体像が写ります (うち2つは信号強度が反転します)。

(左) 新星Sco 2007aの波長8.9μm画像。チョッピング+ノッディング法により取得。(右) チョッピングのペアの拡大図。天体の間隔 (チョッピングストローク) は4.3秒角。
図2: (左) 新星Sco 2007aの波長8.9μm画像。チョッピング+ノッディング法により取得。(右) チョッピングのペアの拡大図。天体の間隔 (チョッピングストローク) は4.3秒角。

現在のチョッピングシステムの最大ストロークは5秒角でした。そのため、5秒角より広がった天体のチョッピング観測はできません。より大きなストロークを達成するシステムへの改良が必要となります。今回の観測では、広がった天体の画像はノッディング法のみで取得されました (チョッピングと組み合わせる場合に比べて、感度が低下します)。

惑星状星雲 NGC7027 の波長8.9μm画像。中心星により温められた星周ダストをとらえています。ノッディング法にて取得。
図3: 惑星状星雲 NGC7027 の波長8.9μm画像。中心星により温められた星周ダストをとらえています。ノッディング法にて取得。
(酒向重行)
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