TAO Project Website Top

東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

SolarTAO Project Website Top

中間赤外線観測装置MIMIZUKUの近況

MIMIZUKUはTAO望遠鏡の第一期主力装置の中間赤外線観測装置です。この装置は、それぞれ異なる波長を担当する三つの光学チャンネルNIR・MIR-S・MIR-Lを備えることで、近赤外線から長い波長の中間赤外線までの幅広い波長を観測対象とします。MIMIZUKUは2018年にはすばる望遠鏡に搭載されて装置としてのファーストライトを達成しましたが、その際に完全動作していたのはMIR-Sチャンネルのみでした。その後、ファーストライトの際に見つかった装置の不具合の改修や、残るNIR・MIR-Lチャンネルの整備を進めるべく、2019年に日本に返送しました(過去記事参照)。その後予定していた作業は新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受けて大きく停滞しましたが、チリでの観測運用に向けて可能な範囲での準備を進めています。今回はその近況について報告します。

前回の記事で冷却チョッパーというシステムの開発について述べました。このシステムはMIMIZUKUの中で温度約20Kに冷却される冷却光学系に搭載される高速駆動鏡で、高頻度・高速の観測視野切り替えを可能にします。この機構を使って得られる二視野の画像を引き算すると、天体の光に比べて桁違いに強い大気等の背景光を除去することが可能となり、微弱な天体光の検出が可能となります。このため、MIMIZUKUでの観測の実現には欠かせない機構といえます。2019年時点では室温での試験しか確認できていませんでしたが、大学院生の道藤さん主導による実験により温度20Kでの正常動作が実現し、この成功をもとに MIMIZUKU 搭載機の製作を進行しています(図1)。道藤さんはこの実験と別の天文観測研究の結果を修士論文にまとめあげ、2022年3月に卒業されました。また、本成果については国際光工学会SPIE2022でも発表を行いました(Michifuji et al. 2022)。

TAO
▲図1:(左)低温環境で動作するように改良された冷却チョッパー試験機。(右)MIMIZUKU搭載用に製作された冷却チョッパー筐体。 冷却チョッパー試験機と同じ機構が上部天板の下面に取り付けられる。

前回の記事で合わせて報告していたNIRチャンネル(近赤外線観測を担当する)に搭載する検出器についても、MIMIZUKUに搭載しての性能評価試験を行いました(図2)。この検出器が正常に近赤外線光を検出できているかどうかはこれまで不明でしたが、ようやく今回の試験によって正常な感度で近赤外線光を検出できていることを確認することができました。このほか、装置の結像性能・装置効率・分光観測の観測波長域の評価を行い、これらについては概ね想定内の性能が発揮できることを確認しました。一方で解決すべき課題も発見されたため、今後その解決をはかります。本試験の結果については、国際光工学会SPIE2022にて発表を行いました(Kamizuka et al. 2022)。

TAO
▲図2:(左)NIRチャンネルに搭載するHAWAII-1RG検出器とそのマウント。(中央)右下の隅に検出器を搭載したNIRチャンネル光学系。(右)NIRチャンネルで撮像したピンホール画像。シャープな結像性能が確認できる。

残る MIR-L チャンネルの整備については新たにメンバーに加わった大学院生の飯田さんが担当に就き、検出器を搭載する検出器マウントの冷却性能評価、検出器の電気回路系の開発、観測を実現するための搭載フィルタの詳細検討、フィルタを搭載するためのジグの開発など多岐にわたる開発が進められました(図3)。フィルタの搭載治具の開発では国立天文台先端技術センターの補助も受け、図3(右)のような治具が完成しました。これから検出器システムの動作試験をおこなった後、MIMIZUKUでの搭載試験を実施する予定です。

TAO
▲図3:(左)冷却性能試験を受けるMIR-L検出器マウント。中央右の金色の部分に本来検出器が搭載されるが、試験のため、検出器発熱を模擬するヒーターと温度計が搭載されている。(右)MIR-Lチャンネル用メタルメッシュフィルタ(金色部分)を保持したフィルタ搭載ジグ(銀色部分)。

さらに、大学院生の成瀬さんが新たにメンバーに加わりました。MIMIZUKUでは高精度の測光観測の実現を目指していますが、その実現には検出器の各画素のクセを高精度に測定して補正することも重要となります。そのために検出器の各画素を一様に照らすことができ、かつ現在のMIMIZUKUに搭載可能なユニットを開発することとなり、成瀬さんはこの開発に携わっています。大学院生になる前の学部生時代の課題研究としてその設計を行い、現在その製作を終えて予備試験を進めています(図4)。 予備試験の結果、このユニットを使うことで従来よりも高精度の補正が可能となることが分かり、こちらも国際光工学会SPIE2022にて発表を行いました(Naruse et al. 2022)。

TAO
▲図4: 較正ユニット試験機の外観。左端が光源となる黒体炉で、中央にあるシリコンレンズを通してMIMIZUKUに黒体炉の光を照射する。

以上のように新メンバーの活躍もあり、新型コロナウィルス感染症拡大に伴う遅延を取り戻すべく開発を加速させています(図5)。日本での開発は2022年度末頃に終えてチリに輸送し、2023年度にはチリでの調整の後、TAO望遠鏡でのファーストライトを予定しています。その実現に向けて、チーム一丸となってMIMIZUKUの整備を進めます。

TAO
▲図5: 卒業された道藤さんと新メンバーの飯田さん・成瀬さんを含むMIMIZUKUチーム。背景の機器群はMIMIZUKU。
Copyright(c) 2022 東京大学大学院理学系研究科 TAO計画推進グループ
当サイトについて