TAO Project Website Top

東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

SolarTAO Project Website Top

TAO望遠鏡を支える国内メーカー: 株式会社オハラ

人類は、より遠方のより暗い天体をより詳細に観測したいという、たゆまぬ宇宙への探究心のもと、望遠鏡を大型化させる努力をしてきました。しかし、望遠鏡は空のあらゆる方向へ向けなければならないという特性上、望遠鏡自身の重さが大型化への障害となります。特に、宇宙からの光を最初に集める巨大な鏡は、重力によってその反射面が歪んでしまい、シャープな天体像を得ることが難しくなる上に、そのような重量物を正確に動かすこと自体も困難であるからです。

1980年代、米国・アリゾナ大学のRoger Angel博士は、大型かつ軽量な鏡を作るには、鏡の背部を蜂の巣状にくり抜いたハニカム構造が適していること、さらにそのハニカム鏡の材料にはホウケイ酸ガラスが適していることに気がつきました。Angel博士は、アリゾナ大学キャンパス内の裏庭で、小さな鏡を作るところから実験を開始しました。その結果に手応えを得たAngel博士は、1990年代についに直径6.5mもの巨大なハニカム鏡の製作に成功し、米国・アリゾナ州・ホプキンス山頂のMMT望遠鏡を完成させました。

実は、この巨大ハニカム鏡の材料であるホウケイ酸ガラスには、日本のオハラ社のE6というガラスが使用されています (図1) 。ホウケイ酸ガラスは熱膨張係数が比較的低い、比較的低温での均一な成形が可能、比較的安価である、長期間にわたり鏡として使用するために必要なメンテナンス用の溶剤に耐えられる等、様々な利点があり、大型望遠鏡の鏡の材料として最適なものの一つとして世界に広く知られています。Angel博士らは様々な種類のホウケイ酸ガラスを試した後、オハラ社のE6ガラスが大型望遠鏡用の鏡の材料として最適であると判断し、その後、多くの鏡の製作を行ってきたのです。

ホウケイ酸ガラスを使用することにより実現するハニカム構造は、軽量かつ表面積が大きく、鏡の温度が外気温になじみやすいため、日没後の気温の降下に素早く鏡の温度を合わせることができ、シャープな天体像が得られます 1)

TAO
▲図1: オハラ社のホウケイ酸ガラス。写真左側にはハニカム構造の鏡の表面が見えている。 アリゾナ大学にて撮影。

その後、アリゾナ大学はスチュワート天文台ミラーラボ (現在の名前はRichard F. Caris Mirror Lab.) という大型鏡開発・製作のための施設を設立し、ハニカム構造による大型望遠鏡用鏡の製作の世界的な第一人者として天文学をリードしてきました。その後も、直径6.5m、8.4mの大型鏡を次々と製作し、米国のLBT望遠鏡、チリ共和国のマゼラン望遠鏡等に使用されています。2023年には、8.4m鏡を用いたRubin Observatory Simonyi Survey望遠鏡が、2029年には既存の最大光赤外線望遠鏡を大きく上回る口径25m (8.4m鏡を7枚並べたもの) GMT望遠鏡が観測運用を開始予定です。これらの鏡には全てオハラ社のガラスが使用されています。

TAO望遠鏡の鏡もこのオハラ社のE6ガラスを材料としてミラーラボで製作されたハニカム鏡です。標高5,640mという世界最高標高の天文台という特性を活かすとともに、そのような高地での運用を容易にするため、私たちはオハラ社のE6ガラスを用いたアリゾナ大学製作の大型鏡を選択しました。 2020年1月には、鏡の性能試験が完了し、2022年2月現在、望遠鏡サイトへの輸送のため、アリゾナ大学にて保管されています。

2014年のアリゾナ大学の研究者の東京大学訪問の際には、アリゾナ大学研究者の強い希望でオハラ社への訪問が実現し、これまでのサポートへの敬意を評するとともに、様々な意見交換を行いました。私たちは、米国をはじめとする世界最先端の望遠鏡の鏡に、日本のオハラ社のガラスが使われていることを誇らしく思うと同時に、ミラーラボが愛してやまないオハラとともに、世界の望遠鏡史の1頁にTAOが加わることにこの上ない喜びを感じています。

TAO
▲図2: アリゾナ大学よりTAOプロジェクトに寄贈されたホウケイ酸ガラス (オハラ社E6) の小さなガラス片で作った記念品。
TAO
▲図3: TAO望遠鏡の6.5m鏡に使用されたホウケイ酸ガラス (オハラ社E6) 。アリゾナ大学にて撮影。
TAO
▲図4: 完成後のTAO望遠鏡用口径6.5m主鏡。アリゾナ大学ミラーラボにて撮影。左から諸隈智貴 (東京大学・TAOプロジェクト鏡製作担当) 、Stuart Weinberger (アリゾナ大学・主鏡研磨責任者) 、Daniel Caywood (アリゾナ大学・光学機器エンジニア) 、Thomas Connors (アリゾナ大学・TAO計画プロジェクトマネージャー) 。

1) 鏡と鏡の接する空気の間に温度差があると、空気の揺らぎが生まれ、それが星の揺らぎを増幅し、天体像がぼやけてしまい、せっかくの望遠鏡の性能を最大限に生かすことができません。

Copyright(c) 2022 東京大学大学院理学系研究科 TAO計画推進グループ
当サイトについて