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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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TAO望遠鏡の観測装置開発に関わる修士が誕生しました!

現在開発中のTAO6.5m望遠鏡に搭載する観測装置「近赤外線多天体分光カメラSWIMS」の主要開発メンバーとして活躍されていた、東京大学理学系研究科天文学専攻の櫛引さんが修士号を獲得しました。二年間の努力が詰まった研究成果をご紹介します。

近赤外線撮像分光装置SWIMS用の面分光ユニットSWIMS-IFUの開発


東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 修士課程
櫛引 洸佑

私は近赤外線撮像分光装置SWIMS用の面分光ユニットSWIMS-IFUの開発を行い、その結果を修士論文としてまとめました。

面分光とは望遠鏡によって取得された天体像を特殊な光学系で分解し一列に並べ直すことによって、空間情報を保持したまま視野全体を分光観測する可視赤外線の観測手法です。近年、活発にその観測が行われ、近傍銀河内部の空間分解した分光情報の取得や広い範囲に渡る面分光サーベイなどが行われています。しかしながら、現状の近赤外線の面分光装置は可視光のものに比べて視野が数秒程度と狭く、近傍銀河全面をカバーする観測や広い範囲の面分光サーベイなどが難しくなっています。そこで私たちはTAO望遠鏡の近赤外線撮像分光装置であるSWIMSに広視野の面分光機能を追加する面分光ユニットSWIMS-IFUの開発を進めています。

SWIMS-IFUは合計80個の鏡面と一つの組み合わせレンズから構成される光学ユニットで、それを望遠鏡焦点面に挿入することで面分光を実現します。イメージスライサー方式と呼ばれる手法を採用しており、これは互いに異なる方向を向いた短冊状の鏡面が積み重なった光学素子 (イメージスライサー) によって、望遠鏡による天体像の各空間領域を互いに異なる方向に反射させて分解する手法です。分解された天体像はその後のSWIMS-IFU光学系で一列に並び直され、その後のSWIMS光学系へと導かれます。このようにしてSWIMS-IFUは17".2x12".8 (TAO望遠鏡搭載時) という従来の近赤外線面分光装置の4倍以上となる視野を一度に分光することができます。それに加えて、SWIMSの0.9-2.5μmを一度に観測できる広波長帯域や大学望遠鏡であるTAO望遠鏡の豊富な観測時間によって、これまでにない大規模な近赤外線面分光サンプルを構築することが期待されます。

しかしながら、機械的なサイズや重さの制限、光学系の複雑さによって、SWIMS-IFUの開発は非常に難しいものです。特に直径数mmの鏡面80個をそれぞれで作成し、複雑な構造の中で位置較正するのは困難な作業です。そこで私たちは超精密加工というnmオーダーでの制御が可能な加工手法によって、一つの金属母材に複数の鏡面を加工することで、位置較正負担を大きく軽減する開発手法を採用しています。

私の修士論文では、まず実機用の加工が終了し完成したスリットミラーアレイの評価を行い、それが要求精度を満たすものであることを確認しました。スリットミラーアレイは26個の球面鏡が一つの金属母材に加工された光学素子です。要求精度は形状誤差<200nm P-V、面粗さ<10nm RMS、鏡面間相対位置ずれ<20μmと非常に厳しいものですが、いずれも達成することができました。スリットミラーアレイはSWIMS-IFUを構成する光学素子として初めての完成品で、私たちが長年にわたって確立してきたノウハウによって、要求精度を満たす光学素子が製作可能であるということを初めて実証するものとなりました。この完成に続いて、私は瞳ミラーアレイの試験加工に取り組みました。瞳ミラーアレイも26個の鏡面が一つの金属母材に加工された光学素子ですが、光学系の収差を軽減するために14個が軸外し楕円面鏡、残り12個が球面鏡となっています。また、それぞれの鏡面が互いに異なる向きに向いており、その加工や評価はスリットミラーアレイと比べて難しいものになります。試験加工では面形状や面粗さは要求精度を満たすことが確認できた一方で、鏡面間相対位置ずれについては要求精度を満たす可能性はあるものの、測定精度が不足し今後の測定精度改善が必要な事が判明しました。

以上のように、私の修士論文ではSWIMS-IFUの光学素子が初めて完成し、着実に次の行程へと進んでいくことができました。今後は残りの光学素子の開発を進め、SWIMS-IFUの完成とそれによる初観測を目指して尽力していきたいと思います。

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▲ハワイでのSWIMS作業中の写真

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▲瞳ミラーアレイ試験加工品の測定の様子

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