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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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口径6.5m主鏡の光学性能検査完了

天体からの光を最初に受ける鏡である「主鏡」の製作が始まったのは2013年9月 (※主鏡製作契約) のことでした。数多くの大型望遠鏡の鏡の製作実績のあるアリゾナ大学 (米国・アリゾナ州ツーソン) の通称ミラーラボ (現在の正式名称はリチャード・F・カリス・ミラーラボ) により、TAO望遠鏡用の巨大な鏡が製作されました。主鏡は直径6.5mの凹双曲面の形をしており、同じくアリゾナ大学で製作されたMMT望遠鏡 (米国) やマゼラン望遠鏡 (チリ)、ロッキード・マーティン望遠鏡 (米国) などの主鏡と同じです。大学の運用する光学赤外線望遠鏡の鏡としては日本最大となります。

TAO望遠鏡の主鏡は、日本のオハラ社のボロシリケイトという種類のガラスでできています (図1)。まずは高熱で溶かしたガラスの塊を大量に用いてハニカム構造の主鏡を大雑把に整形し、その後、裏面・表面の順に丁寧に時間をかけて磨いていきます (図2)。ハニカム構造は、文字通り蜂の巣のような模様をしており、強度を保ったまま重量を減らすことができる構造になっています。また、観測中に変化する外気温に鏡の温度を素早く合わせ、鏡の上の空気の揺らぎを小さく保つことによりシャープな星の像を得るためにも適した構造となっています。

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▲ 図1. TAO望遠鏡主鏡材料のオハラ社・硼珪酸 (ボロシリケイト) ガラス (アリゾナ大学提供)
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▲ 図2. アリゾナ大学・ミラーラボにて研磨中のTAO主鏡 (アリゾナ大学提供)。時間をかけてゆっくりと理想的な形へ近づけていきます。

研磨作業が完了した後、支持機構を用いた面形状の測定を行い、わずか27.4ナノメートル (1ナノメートルは0.000001ミリメートル) の理想的な形からのズレとなっていることが確認されました。言い換えると、チャナントール山頂での絶好の観測条件を損なうことなくシャープな天体像を取得することができる光学性能を持っている、ということになります。これにて無事に「主鏡完成」となりました (図3)。

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▲ 図3. 完成後のTAO望遠鏡用口径6.5m主鏡。真ん中に吉井讓プロジェクト代表。その左にPeter Stritmatterアリゾナ大学教授 (アリゾナ大学でのTAO主鏡製作の責任者)。右にBuell Jannuziアリゾナ大学・ミラーラボ所長。主鏡製作・試験他に尽力した数多くのアリゾナ大学エンジニアとともにアリゾナ大学ミラーラボにて撮影。

鏡は大変重いため、望遠鏡に搭載後に傾けると重力により鏡自身の形状もわずかに歪んでしまいます。その歪みを支持機構で補正することにより、あらゆる方向での天体観測が可能となります。この鏡の歪みの補正は、鏡の背面に配置された空力アクチュエータを使って行います。望遠鏡を制御するコンピュータから、各アクチュエータの出す力の値の指令を出すことにより、真上からほぼ真横まで、あらゆる方向で「鏡」として働くようになります。TAO望遠鏡で使用するあと2つの鏡である副鏡・第3鏡も同様にアクチュエータにより支持され、その面の形が微調整されます。これら3つの鏡の調整がうまくいって初めて「望遠鏡」として正しく機能することになります。

上で述べたようなアクチュエータの力の調整や、鏡及びその支持機構の温度調整のための機構は、すべてコンピュータから専用のコマンドを送ることにより実現します。それぞれ個別のソフトウェアが完成した後、「望遠鏡を制御するコンピュータから、鏡を制御するコマンドを正しく送れるかどうか、それを受けて鏡の制御機構が正しく動くかどうか」の試験がLLP京都虹光房により2020年1月にアリゾナ大学にて行われました。個別のコマンドは単体で正しく動くことがすでに確認されていましたが、システム全体として正しく意図したように動くことを確認することがこの試験の目的となります。 アクチュエータが思わぬ挙動をしないように・非常停止時に鏡の支持機構他が正しくストップするように等、様々な観点で全体組み合わせ試験を順序立てて行い、正しく全体が挙動することが確認されました。あとは山頂での完成直前の試験を残すのみとなります。

現在は、陸路・海路での山頂への輸送開始を待つべく、専用の輸送箱に入れてアリゾナ大学にて保管・管理されています (2020年7月1日現在)。鏡を望遠鏡に搭載する際に必要な鏡の入れ物 (セル)、鏡を運ぶための専用輸送箱、鏡を輸送箱から取り出しセルに入れるための持ち上げ治具 (図4) などもアリゾナ大学で設計・製作され、すでに完成し、輸送の時を待っています。山頂に到着後は、専用の蒸着装置を用いて表面にアルミニウム膜をコーティングし、望遠鏡に搭載し、地球上で世界一高いところで宇宙からの光を受けることになっています。

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▲ 図4. 主鏡を持ち上げるための治具 (アリゾナ大学ミラーラボにて撮影)。大気圧の力を利用して、36枚のパッドで主鏡を持ち上げる。
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