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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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MIMIZUKU本格観測に向けて日本で調整中

TAO6.5m望遠鏡に搭載予定の中間赤外線観測装置MIMIZUKUは、2018年に国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡で試験観測を行いました(詳しくはこちら)。この観測により、天体の光を初めて観測する「ファーストライト」を完了し、一つの開発のマイルストーンを達成しました。しかし試験観測の際に開発を完了したのは、波長7-26ミクロンの中間赤外線を観測するMIR-Sと呼ぶ光学系だけでした(図1)。MIMIZUKUはこのMIR-S以外に、近赤外線(波長2-6ミクロン)を観測するNIR、長波長中間赤外線(波長24-38ミクロン)を観測するMIR-Lという光学系が搭載されており、これらが完成することでMIMIZUKUの特長である広い波長帯の観測機能が実現します。この機能の実現によって、恒星などの高温天体(数千℃)から、その周囲に存在する多様な温度の固体微粒子(ダスト;およそ-200から1000℃)まで、多様な温度の物質が放つ赤外線が一つの装置で観測できるようになり、MIMIZUKUが目指すダストの形成・成長の過程、あるいは惑星形成過程などの時間変動現象の観測的研究が可能となります。このため、残るNIR・MIR-Lの開発を完了することは大変重要です。

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▲ 図1. MIMIZUKU光学系内部。二層から構成され、三つの異なる波長を観測するNIR・MIR-S・MIR-L光学系が搭載されている。

2018年時点では、MIMIZUKUはハワイにありました。しかしハワイでは継続的な開発作業は難しく、また新規装置受け入れで大忙しのハワイ観測所に迷惑がかかります。一方でTAOの山麓実験棟の完成までまだ時間がかかるということもあり、MIMIZUKUを一旦日本へ輸送し、東京・三鷹の天文センターにて開発を再開することにしました。このため、2019年6月にはすばる望遠鏡のあるマウナケア山頂からハワイ観測所山麓施設のあるハワイ島ヒロへ輸送(図2)。続く10月にはハワイ島から日本への海運輸送を開始。そして12月26日に無事、三鷹の天文センターに到着しました(図3)。この一連の作業には、ハワイ観測所の方々、天文センター所属の大学院生諸氏(橘氏・紅山氏・櫛引氏)、助っ人として駆けつけてくださったMIMIZUKU開発チームOBの内山氏など、多くの方々のご協力をいただきました。ここにその感謝を表します。

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▲ 図2. (左)スチールケースに収納されトラックに載せられるMIMIZUKU。(右)すばる望遠鏡を去る。さらばすばるよ。
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▲ 図3. (左)天文センターに戻ってきたMIMIZUKU。(中央)開梱作業の様子。(右)開梱を終えた櫛引氏と内山氏とMIMIZUKU。

NIR・MIR-L光学系について、光学系は既に出来上がっている一方、開発が必要となっているのは搭載する検出器の制御システムです。特に現在開発を進めているのはNIR光学系に搭載する半導体検出器の制御システムです。このシステムは過去の開発の中で一度MIMIZUKUに搭載され、正常に画像を取得することに成功しました。しかし、感度の不足や出力信号の予期せぬ変動などの問題が確認され、一旦搭載を取りやめることにしました。その後制御システムや検出器の駆動方法の見直しを行い、問題の解決を一つずつ進めています(図4)。課題となっている問題が解決し次第、再びMIMIZUKUにシステムを搭載し、NIR光学系の開発を近く完了させる予定で、その後MIR-L光学系の検出器の制御システム開発にとりかかります。

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▲ 図4. (左)NIR搭載検出器の試験の様子。円筒の奥の検出器が、くさび型の開口部を通る光に照らされる。(右)取得画像。多重反射したくさび型開口パタンが見えている。

検出器系と並んで重要な開発項目が冷却チョッパーです(図5)。これはMIMIZUKU内部の低温光学系(約-250℃)に設置するシステムで、そこに搭載する鏡を俊敏(一往復一秒程度の矩形動作)に動作させて光路を切り替える役割を持ちます。この鏡の動作を利用し、画像上の天体の位置をずらして引き算をすることで、膨大な大気・望遠鏡の赤外線放射に埋もれた天体の赤外線光を初めて抽出することができます。このため、冷却チョッパーシステムもMIMIZUKUの観測実現において非常に重要なものとなります。現在このシステムの開発を岡山理科大学の本田准教授・金沢大学の軸屋准教授と進めており、常温環境下では俊敏な動作が実現するようになりました。次はMIMIZUKU搭載時と同様の低温環境下においての動作試験が課題となっており、現在これを天文センターにて進行中です。こちらも試験・調整が完了し次第、MIMIZUKU搭載用モデルを実装予定です。

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▲ 図5. (左)冷却チョッパー常温試験の様子(動画)。(右)冷却試験のためにクライオスタットに設置された冷却チョッパー。
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