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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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TAO望遠鏡エンクロージャの仮組試験が完了

TAO望遠鏡エンクロージャ

チャナントール山頂 (標高5,640m) の過酷な自然環境から精密な観測機器を守るために、TAO望遠鏡は直径25m、高さ24mの円筒型の建物に格納されます。この建物をエンクロージャと呼びます(図1)。TAO望遠鏡はエンクロージャの中央に据えられた直径10.4m、地上高2.9mの独立基礎の上に設置され、水平回転が可能な開閉扉(スリット)を通して天体を観測します。エンクロージャを高床式にすることで、地表付近の温かく乱れた空気が望遠鏡に与える影響を低減します。また、エンクロージャの壁面に設置された19台の換気窓の開口を調整し、エンクロージャ内に流れ込む気流を制御することで、望遠鏡の高い結像性能を実現します。

エンクロージャとブリッジでつながる観測運用棟(27m x 17m x 高さ15m)には、望遠鏡の鏡を洗浄し再蒸着するプラントと、観測室や実験室などの観測の遂行と機器の保守に必要な部屋が設けられます。

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▲図1 TAO望遠鏡のチャナントール山頂観測施設の完成予想図

国内仮組み試験

エンクロージャには、望遠鏡を高山の強風、低温、紫外線から守る高い耐性と、天体の動きを追尾する高い駆動精度が必要とされます。また、天候が悪化した際にはエンクロージャのスリットと換気窓を閉じて望遠鏡を確実に保護する必要があります。TAO望遠鏡の砦としてのエンクロージャに求められるこれらの性能を達成すると同時に、安全かつ効率的に建設を進めるために、私達はエンクロージャ上部(水平回転部)の製作、仮組み立て、駆動試験、調整を日本国内で実施することに決めました。

エンクロージャ上部の製作と仮組み試験は2016年11月に大阪府の北部に位置する能勢町の田園風景の中で始まりました。まず、元農地の土地に鉄板を敷き、その上にエンクロージャに水平回転の動力を与える42機の台車ユニットを固定しました。エンクロージャ上部の主構造は、底部の環状鉄骨とそこから立ち上がり円筒形に組みあがる主鉄骨から構成されます。これらの資材を、チャナントール山頂での作業を模擬した限られた数の重機、足場、作業員で組み上げていきます(図2)。

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▲図2 組み上げを開始したエンクロージャの主構造(大阪府能勢町)

主構造の次は、壁面や屋根に断熱プレート材を取り付けるための下地材(胴縁、母屋)を組み上げていきます。同時に、大型のスリット開閉機構も設置されました(図3)。壁面には19台のロールアップシャッタ形式の換気窓ユニットと点検用通路が設置されました(図4)。天井付近には望遠鏡と観測装置の保守に用いるオーバーヘッドクレーンが設置されました(図5)。スリットの開口部には、エンクロージャ内へ吹き込む風を制御するためのウィンドブレーカユニットが設置されました。穴のあいた複数枚の板が蛇腹折りでたたまれており、必要に応じて上方へ広がります(図6)。壁面や天井に設置する断熱プレート材は、現地で効率的に建設作業を進められるように、仮組み立てしたエンクロージャの現物を採寸し切断加工がなされました。

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▲図3 エンクロージャの前方より。スリットを開けた状態。
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▲図4 エンクロージャの後方より。壁面に設置された換気窓ユニット(8個の白い長方形)が見える。
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▲図5 天井付近からの田園風景の眺め。右中央のブルーシートに包まれた機器がオーバーヘッドクレーン。
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▲図6 スリットを閉じた状態。穴が空いた白板はウィンドブレーカユニット。

エンクロージャに搭載した全ての可動部を一括して管理できる制御装置を接続して、可動部の動作試験を実施しました。巨大なロボット建造物であるエンクロージャを円滑に動作させるには各部の根気強い調整と修正が必要でした。この作業を標高5,640mのチャナントール山頂で行うのは困難です。約2年に及ぶ作業の末、エンクロージャの鋼鉄の檻は各部を自在に動かしながら能勢の風景を機敏にかつ滑らかに切り取っていくことができるようになりました。

2019年1月、南米チリへの海上輸送に向けてエンクロージャの解体が始まりました(図7)。次に私達がエンクロージャの巨大な姿を見られるのは地球の裏側のチャナントール山頂になります。エンクロージャはわずか2か月で解体されました。解体後には現地での再組立てに向けて、可動ユニットは分解整備を行い、また鉄骨材は保管期間についたさび落としを行った後、再塗装がなされました(図8)。

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▲図7 解体したエンクロージャの構造体をトレーラーに積み込む様子。
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▲図8 再塗装されたエンクロージャの胴縁材(大阪府岸和田市)

再塗装されたエンクロージャの資材は、長期間の輸送や保管に耐えられるよう厳重に輸出梱包された後、複数のコンテナ船に船積みされて神戸港からチリのAntofagasta港あるいはAngamos港に向けて出港する予定です。今後、エンクロージャを無事にチリへ輸送し、円滑に建設・運用を開始できるよう準備を進めていきます。

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▲図9 輸出梱包を終えたエンクロージャ資材の様子
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