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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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TAO望遠鏡の観測装置開発に関わる修士2名が誕生しました!

現在開発中のTAO6.5m望遠鏡に搭載する観測装置「近赤外線多天体分光カメラSWIMS」および「中間赤外線装置MIMIZUKU」の主要開発メンバーとして活躍されていた、東京大学理学系研究科天文学専攻の内山さん、小早川さん2名が修士号を獲得しました。彼らの二年間の努力が詰まった研究成果をご紹介します。

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▲ 2016年2月4日に小柴ホールで開催された修士論文発表会の様子

中間赤外線高精度モニタリングに向けた二視野同時観測手法の開発


東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 修士課程
内山 允史

 私の研究室では6.5m TAO望遠鏡用の中間赤外線装置MIMIZUKUの開発に取り組んでいます。中間赤外線は宇宙において比較的温度が低い領域(50-500K)から放射されていて、星の周りに存在する固体微粒子「ダスト」の様子を観測するのに適しています。ダストが変性する様子を観測することで、恒星を取り巻く塵がどのように集積・衝突を繰り返して惑星を形成したのか、その過程を詳細に理解することが私の目標です。

 これには天体が変光する様子を長期間に渡って詳しく観測する「中間赤外線高精度モニタリング」を行う必要となります。しかし高精度観測が可能な衛星機器は装置寿命が短く、望遠鏡占有時間も限られているため思うように観測が進められていません。また、地上機器による観測では大気透過率の変動の影響を受けるために測光精度が悪く(経験的には約10%の測光誤差を含む)、これまで顕著な時間変動しか議論することができませんでした。これを解決するための装置が本研究にて開発・検討を行った二視野合成機構Field Stacker です。

 Field Stacker はMIMIZUKU の上部に搭載される可動式の常温光学系です。傾斜・直動・回転の3つの可動ステージを用いて2つのピックアップ鏡を移動し、TAO望遠鏡の視野φ25 分角の中から任意の2か所を取り出して視野合成鏡で合成、1つの検出器上で同時観測することを可能とします。これにより観測天体と参照星の同時観測が実現され、リアルタイムで光度較正を行い、大気透過率の変動の影響をさけることで地上観測でありながらも中間赤外線での高精度モニタリングを実現します。

 修士論文ではField Stackerによる二視野同時観測によって本当に高精度モニタリングが実現できるのか、以下の2つの測定・解析からその実現性を示しました。1つ目として、高精度観測の実現にはピックアップ鏡の指向精度が極めて重要となります。必要とされるピックアップ鏡の許容角度エラー量を計算し、実際の機器を用いて各所で発生する角度エラー量の測定と推定を行いました。その結果、測光精度1〜2%を達成する見込みがあることを示すことができました。2つ目として、Field Stacker を用いた観測では二視野間の角距離が最大25 分角となり、従来の中間赤外線装置の視野(1〜2分角)に比べて約10 倍大きくなるため、大気透過率の空間的な差異について考察する必要があります。ここでは大気透過率の変動をよくトレースする中間赤外域の背景光に着目し、過去の観測データを解析してその時間変動情報を取得、さらに上空の大気構造を仮定することで得られた時間変動情報を空間方向に焼き直して大気透過率の空間的な差異の影響を算出しました。その結果、測光精度1〜2%の達成においてこの影響は十分小さく、障害にはならないことが分かりました。

 Field Stackerのような概念の装置はこれまで存在せず、MIMIZUKUによって世界で初めて実現されます。それゆえ先行研究が存在せず、このシステムの実現性を示すための方法を考えるのが1番難しいところであり、やりがいのあるところでした。今後私は博士課程へ進学し、Field Stackerの開発を続けます。MIMIZUKUは現在、2016年度に予定されている試験観測に向けて着々と準備を進めており、Field Stackerを使った二視野合成観測が行える日が来るのをとても楽しみにしています。

Field Stacker

▲ Field Stackerの概念図

Field Stacker

▲ 専用台車に載せたField Stackerと筆者

水素電離輝線を用いた近傍の高光度赤外線銀河におけるダスト減光の観測的研究


東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 修士課程
小早川 大

 渦巻銀河のバルジは、従来よりランダムに運動する星々でできた楕円銀河に近い構造であると考えられてきましたが(Classical bulge)、 近年は銀河円盤のように回転する星が多いバルジ(Pseudo bulge)が数多く存在することがわかってきました。 数値シミュレーションを使った理論的研究により、これらの異なるバルジについて形成メカニズムの予測が立てられていますが、観測的な研究はまだ多くありません。 私たちは、活発な星形成銀河であるLIRG(Luminous Infrared Garaxy : 高光度赤外線銀河)に着目して、星形成活動がバルジ形成メカニズムにどのように結びついているのかを調べています。 しかしながら、LIRGは活発な星形成活動の結果として生成した多量のダスト(ちり)に覆われているため、可視光では内部の星形成活動を見ることが困難です。 そこで、私たちはこれまでminiTAO 1m望遠鏡/近赤外線カメラANIRを使って、ダストによる減光の影響が小さい水素Paα輝線(パッシェン アルファ輝線、波長1.285µm)を観測し、LIRGの星形成活動を捉えてきました。 これまでの研究では、LIRGの星形成領域の空間分布がバルジ構造の違いと相関があることがわかりました。

 ところが、Paα輝線を使っていても減光の影響はゼロではなく、最大で1等級程度の減光があると考えられます。 先に述べた結果ではダスト減光の影響を考えておらず、本当にバルジと星形成活動の間に関係があるのかを示すには、さらに、減光の評価をする必要がありました。 波長が長いほど減光量が小さい性質を利用すると、波長の異なる2つの輝線を観測して強度比を求めて減光を受けていない真の強度比と比較することで減光量が求められます。 そこで、本研究ではPaα輝線に加えてHα(ハワイ大学88インチ望遠鏡/WFGS2)、Paβ輝線(miniTAO/ANIR)の画像を新たに解析して、輝線の強度比から減光量を求めました。 7個のLIRGについてPaα輝線とHα輝線の強度比から銀河全体と中心部で減光量を比較した結果、中心部の減光のほうが大きい傾向があることがわかりました。 しかし、Paα輝線波長ではその差が0.3等級程度と小さく、これまでの星形成活動の空間分布の評価に対する影響は小さいと考えられます。 このように、Paα輝線はLIRGの星形成活動を捉えるのに最適なツールであり、その観測が可能な数少ない観測装置の一つとしてminiTAO望遠鏡/ANIRの強みが発揮されていると言えるでしょう。

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▲ 近傍LIRG 7天体の銀河全体(横軸)と中心領域(縦軸)の減光量比較。中心領域の減光が大きい傾向があるが、Paα輝線波長ではその差が小さい(最大0.3等級)

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▲ SWIMS開発作業に参加する小早川さん(右から2人目)

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