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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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TAO望遠鏡の観測装置開発に関わる博士3名、修士1名が誕生しました!

現在開発中のTAO6.5m望遠鏡に搭載する観測装置「近赤外線多天体分光カメラSWIMS」および「中間赤外線装置MIMIZUKU」の主要開発メンバーとして活躍し、口径1mのminiTAO望遠鏡での観測にも参加された、東京大学理学系研究科天文学専攻の浅野さん、内山さん、舘内さんの3名が博士号を、藤堂さんが修士号を獲得しました。特に博士号を取得した3名は5〜8回に渡りチリに渡航し、TAO計画の推進に大きく貢献しました。TAO計画の推進を支えた大学院生の輝かしい研究成果をご紹介します。

近赤外線観測装置開発チーム (miniTAO/ANIR, TAO/SWIMS)

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▲ 博士号および修士号の獲得を祝うSWIMS開発メンバー

水素パッシェンα輝線サーベイ観測による近傍高光度赤外線銀河バルジの研究


東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 博士課程
舘内 謙

 この度、博士(理学)の学位を取得させていただきました舘内謙です。思い起こせば5年間、ここ東大天文センターで毎日息つく暇もなく研究に没頭した生活を送っていました。私は主に、東京大学が現在推進している東大アタカマ天文台計画(TAO計画)に携わっており、建設予定地であるチリに何度も足を運んでは観測データを取り研究を進めてきました。ここで得られたデータをもとに、結果を多くの国際学会にて発表しては研鑽していき、博士論文としてまとめられたことは大変光栄です。TAO計画は、多くの人が一丸となって目標に向かっている大きなプロジェクトです。今回出させていただいた博士論文が、このプロジェクトの一端を担えたことを大変嬉しく思っております。

学位論文(概要)
Study of Bulge Properties in Local Luminous Infrared Galaxies Based on Ground-based Hydrogen Paschen-α Imaging Survey
水素パッシェンα輝線サーベイ観測による近傍高光度赤外線銀河バルジの研究

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▲ 理論的な2種類の進化予測をまとめた図。左側(ピンク)は銀河衝突などにより古典バルジ(Classical bulge)ができるとするシナリオ、右側(青)は大きな相互作用なく自力で円盤バルジ(Pseudo bulge)ができるとするシナリオを表している。

 人間の顔が一人一人違うように、銀河も多種多様な顔(形態)を持つ。こうした多様性がどう形成・獲得されてきたかの解明は、銀河の形成/進化をひも解く上で重要であり、天文学史上基本的かつ最大の課題の1つである。伝統的な形態分類学は、銀河を見た目で「楕円銀河」と「渦巻銀河」の2種に大別し、その進化過程を「ハッブル分類」に沿った統一モデルで説明しようとしてきた。ところが、それらの進化過程は別物とする観測・理論的示唆が多数報告され、広く支持されるようになってきた。そこで近年、新しい切り口として「物理的形態分類学」が注目されている。これは、見た目の形態で判断するのではなく、銀河にかかる内的/外的力学作用を軸に据えた分類法である。この分類法では、銀河の形態史をよく反映していると考えられる「バルジ」に注目し、その力学運動が“分散/回転運動”のどちらが卓越しているかで、渦巻銀河のバルジを古典バルジ(Classical bulge)と円盤バルジ(Pseudo(disk) bulge)の2種に新しく大別する。観測的には、バルジ表面輝度プロファイルのSérsic-Indexが、「2未満なら円盤バルジ」、「2以上なら古典バルジ」と区別できることが知られている(Fisher et al. 2008)。こうした形態形成について、理論研究からは、(1) 楕円銀河:銀河衝突/合体による形成、(2) 古典バルジ:銀河が衝突/合体を経験し、その後円盤が形成、(3) 円盤バルジ:外的作用を受けない自立進化による形成、というシナリオが提案されている(Kormendy et al. 2004)。

 ところが、こうした理論が描く分類や進化シナリオに対し、観測的裏付けは全く取れていないのが現状である。主な原因の一つに、活発な星形成を行い、形態形成途中のバルジを持つと考えらえる近傍高光度赤外線銀河(LIRG)がよいサンプル(実験場)となるが、減光が強く従来の可視指標では研究困難だったことにある。そこで我々は東大アタカマ望遠鏡近赤外線カメラ(ANIR)を用いて近傍LIRGのPaα観測を行い、バルジ内部を空間分解して星形成を探ることとした。銀河は、「星(星形成活動)」、「ダスト」、「ガス」の集合体であり、これらは「力学運動」で橋渡しされる。そこで本研究では、U/LIRGの観測からこれらが銀河の「形態(力学構造)」とどう関連しているかを理論予測との比較を行った。

 これまで、困難だと考えられてきた地上Paα観測のために必要な観測・解析手法を自ら開発し、それを用いてバルジ内部の星形成活動を分解して直接観測した。さらに、星形成の力学運動を含めたLIRGの包括的理解のため、次期大型観測装置開発を行った。

 その結果、古典バルジはコンパクトな星形成を行い、円盤バルジは広がった星形成を行う銀河であることが新たに発見された。このことは、古典バルジが銀河衝突などの劇的な現象にて形成されたとする理論シナリオを支持し、初めて観測的に間接的証拠を発見できたことを示唆する。結果の一部は、2015年米国雑誌アストロフィジカルジャーナル・サプリメントシリーズの論文として出版された。また、東大アタカマ天文台計画(TAO計画)の次期大型近赤外線分光撮像装置(SWIMS)の開発も行ってきた。装置は順調に制作され、27年度にはすばる望遠鏡(米国・ハワイ州)に本観測装置を持ち込み観測を行う予定である。LIRGの内部力学運動とそれらの形態とのつながりを観測から解明し、銀河形態形成理論への観測的制限と、新たな知見の発見が期待される。

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▲ miniTAOドームと舘内さん

近赤外多天体分光カメラSWIMSにおける検出器読み出しシステムの開発と評価


東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 修士課程
藤堂 颯哉

 私は、TAO6.5m望遠鏡の第1期近赤外線観測装置であるSWIMS (スイムス) の検出器読み出しシステムを開発・評価し、今回、その成果を修士論文としてまとめました。SWIMSは、近赤外線と呼ばれる波長0.9-2.5μmの光で様々な観測をすることのできる装置であり、銀河進化などの天文学の様々な謎を解き明かす力をもった装置です。その中で、私の開発した検出器読み出しシステムとは、赤外線の明るさを計測する検出器を駆動し、画像を読み出すシステムのことであり、観測装置の心臓部であると言えます。

 本研究では、検出器読み出しシステムの構成要素である検出器とその読み出し回路をSWIMSの中に組み込むため、ハードウエア・ソフトウエアの開発を行いました。具体的には、検出器と読み出し回路を接続する読み出しケーブルや、検出器をPCから制御するための駆動ソフトウエアなどを開発しました。開発項目は多岐に渡りましたが、SWIMSチームの方々の助けもあり、SWIMSの中で検出器を駆動し、読み出すことのできるシステムの開発に成功することができました。

 開発した検出器読み出しシステムの性能を確認するため、試験用セットアップで検出器を駆動し、性能評価を行いました。SWIMSで科学的な目的を達成するためには、検出器が様々な厳しい要求性能を満たしていることが必要です。要求性能には、例えば赤外線の明るさを小さい誤差で計測するために必要な読み出しノイズ性能などがあります。単に電源を入れて動かすだけでは検出器の性能はこの要求を満たすことはできず、様々な電圧値の調整、パラメータの設定などを試行錯誤しながら試験を重ねました。また、読み出しノイズを小さくするため、検出器読み出しシステム自体についても電磁的な影響を小さくする工夫を施しました。その結果、なんとか要求性能を満たすことができるようになりました。これにより、私の開発した検出器読み出しシステムをSWIMSに搭載し、SWIMSでの科学観測に用いることができることが確認できました。

 現在、2015年度中の完成を目指して、SWIMSの開発が急ピッチで続けられており、完成まであと少しとなっています。完成後は、まずハワイのマウナケア山頂にあるすばる望遠鏡に持ち込んでの観測を行う予定で、いよいよ銀河進化の謎に迫っていく観測ができることを期待しています。

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▲ 検出器のホルダーの組み立て試験の様子 (中央が筆者)

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▲ 検出器の性能評価試験セットアップ

中間赤外線観測装置開発チーム (miniTAO/MAX38, TAO/MIMIZUKU)

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▲ 2015年に博士号取得者を2名輩出したMIMIZUKU開発メンバー

中間赤外線による双極状惑星状星雲 低温ダスト分布の研究


東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 博士課程
浅野 健太朗

 惑星状星雲は非常に鮮やかな色彩によって良く知られた天体です。その正体は、恒星内部で生成したガスや宇宙塵を宇宙空間へまき散らしながら一生を終えつつある中小質量星です。放出されたガスや塵が中心星の光を受け光り輝く美しい姿は、主に可視光から近赤外線で撮られてきました。中でも蝶の様な形・双極状形状をしている惑星状星雲はその美しい姿から度々観測がされてきましたが、形状形成のメカニズムは分かっていませんでした。

 この問題を紐解く重要な要素として、我々は低温の宇宙塵に注目しました。放出され拡散していった塵の非常に多くの物は低温になっている事が予想され、低温に冷えた塵は赤外線よりも長い波長で光を放ちます。実際、分光観測の先行研究より、双極状惑星状星雲には中間赤外線で輝いている大量の低温の塵の存在は知られていましたが、この低温の塵がどの様に分布しているのかは分かっていませんでした。これは現在まで中間赤外線での高空間分解能を実現する望遠鏡と観測装置が存在していなかった事によります。

 本研究で我々はこの問題を解決する為に、中間赤外線観測装置MAX38の製作を行い、中間赤外線観測の大敵・水蒸気が地上で最も低いアタカマ砂漠の標高5,640mチャナントール山頂に設置したminiTAO望遠鏡に取り付けて2009年のファーストライト以降、現在まで述べ現地滞在期間300日弱という長期間の観測を行ってきました。南天で最も明るい双極状惑星状星雲のNGC6302, Mz3, Hb5 の3天体を18, 25, 31, 37 micronという長波長の中間赤外線で撮像観測した結果、3天体全てにおいて低温の塵の大部分が中心星から5000AUよりも狭い範囲に、厚いトーナツ型のトーラス構造で存在する事が明らかになりました。また、赤道面へ現在まで想定されていた放出量の100倍程度の非常に強い質量放出が起きていたことも明らかになり、過去に赤道面へ選択的に塵の放出が起きた事で双極状形状の形成が起きた可能性を示唆する、恒星進化においても重要な研究となっています。

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▲ 左図:ハッブル宇宙望遠鏡・可視光で得られた双極状惑星状星雲Mz3画像に 本研究 miniTAO/MAX38・中間赤外線18µm(緑線)で得られた等高線を重ねた図。右図:本研究より得られた双極状惑星状星雲の中心星周囲の想像図。コンパクトで広い角度で広がるダストトーラスの存在が示唆される。

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▲ miniTAO/MAX38観測中の浅野さん

中間赤外線を用いた大質量星形成の研究


東京大学大学院理学系研究科天文学専攻
内山 瑞穂

 本研究ではminiTAOグループが開発、運用を行なってきた地上中間赤外線観測装置MAX38を用いて3つの大質量星形成領域M8E, RAFGL 6366S, IRAS 18317-0513の観測を行いました。形成時の大質量星は、ダストやガスの中に深く埋もれており、可視光、そして時には近赤外線でも観測ができません。そうしたなかで、可視光や近赤外線よりも透過力が高く、遠赤外線や電波波長域に比べて高い空間分解能を持つ中間赤外線(5-50 micron)での観測は、こうした天体の詳細な情報や大質量星形成領域内での天体同士の関係を調べるために非常に有力な観測手段です。本研究では、チリ・アタカマにあるminiTAO1m望遠鏡に搭載されたMAX38の観測に、筆者自身が現地渡航して参加しました。

 各観測領域は25 micron よりも長い中間赤外線(25-50 micron)で観測されたことがありませんでした。本研究では各観測領域を初めて31micronと37micronの長中間赤外線波長域で撮像し、全ての領域で複数天体からなる構造を検出しました。これにより、領域内の各天体の波長エネルギー分布を算出し、その総光度及び質量を初めて個別に求めました。各天体の進化段階を調べた先行研究と今回の質量情報を合わせた結果、3領域中2領域で軽い星の方がより進化が進んでいることがわかりました。もし、ある星形成領域内で同時に星の形成が始まるならば、重い星ほどより短い時間で形成されます。従って、観測領域内で天体が同時にできたと仮定すれば、この観測結果と矛盾することになります。つまり、今回観測した2つの大質量星形成領域内では軽い星が重い星よりも先にできたことになります。サンプル数を増やすために、長中間赤外線観測は含まないものの類似した観測が行われている他の大質量星形成領域3つについて同様に調査し、合計で6領域中の3領域で軽い星が重い星より先にできているとわかりました。また、重い星が先にできたとわかる領域はこの中で一つもありませんでした。

 重い星の形成を考える上では、低温で高密度な分子雲の中でどうやって重たい星の元となる重たいコアを形成するのかが一つの問題となっています。これは、低温で高密度な分子雲の中では、そのままでは太陽質量程度の重さのコアまでしか作ることができないためです。しかし、今回の観測結果のような軽い星が先にできるような傾向は、軽い星からの放射やアウトフローが周辺に影響を及ぼし、結果として重たい星の形成が可能な環境を整える、という一つのシナリオを示唆します。

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▲ 31umのM8E(上)とRAFGL 6366S(下)の画像、
複数天体で構成されたと考えられる伸びた構造が見られる

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▲ miniTAO/MAX38観測中の内山さん

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