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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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TAO望遠鏡の観測装置開発に関わる修士2名が誕生しました!

東京大学理学系研究科天文学専攻の北川さん、岡田さんは、現在開発中のTAO6.5m望遠鏡に搭載する観測装置「近赤外線多天体分光カメラSWIMS」および「中間赤外線装置MIMIZUKU」の開発に関する修士論文を提出し、2014年3月に修士の学位を授与されました。両観測装置は、2015年にすばる望遠鏡にて試験観測を実施、2017年度にTAO6.5m望遠鏡にてファーストライト観測を行うことを目指し、現在急ピッチで開発が進められています。大学院生も参加して装置開発が活発に行われている様子を紹介します。

1、イメージスライサー型近赤外面分光ユニットの開発


東京大学大学院理学系研究科天文学専攻
北川祐太朗

 私は現在、面分光ユニットと呼ばれる装置を開発しており、今回はその光学設計に関わる部分を論文としてまとめました。面分光とは、"Integral Field Spectroscopy" を訳した単語で、すばる望遠鏡のような大型望遠鏡の登場に伴い近年急速に発達してきた観測手法です。これはどういう観測手法かと言いますと、これまでのロングスリット分光が天体の一部分を切り取った「線(1次元)」で分光するのに対し、面分光ではその名の通り天体を「面(2次元)」として捉えて分光します。これにより、例えば銀河であれば広がった領域全体のスペクトル(波長)データを一度に得ることができ、星が生まれる頻度やガスの運動の様子など重要な情報を空間ごとに分解して調べることが可能になります。特に近赤外線と呼ばれる波長域と面分光を組み合わせた観測は、今から75-100億年前の宇宙において銀河がどのように進化してきたか、その様子を解き明かす鍵となります。

 そのような観測を実現するために用いられるのが、面分光ユニット(Integral Field Unit)と呼ばれる光学系です。本研究ではSWIMS(スイムス)と呼ばれる装置に収納する面分光ユニットを開発しています。SWIMSはTAO6.5m望遠鏡の第1期装置で、すばる望遠鏡にも搭載して観測できるようになっています。本来は近赤外域の波長で撮像と多天体分光ができる装置ですが、私の研究はそこに面分光観測モードを追加することで、上に述べた銀河形成進化の謎を解き明かしたいと考えています。

 私達が観測する近赤外域ではイメージスライサー型と呼ばれる面分光ユニットが主に用いられており、本研究ではまず、すばる望遠鏡に最適な光学設計から始めました。具体的には非常にコンパクトなサイズに光学系を収めなくてはいけないという制限を満たしつつ、要求される性能を発揮する光学レイアウトを近軸計算と光線追跡シミュレーションから見出すという解析を行いました。苦労した点は、そのような「望ましい」解が存在するかどうかは自明でないので、様々な試行錯誤をしつつ、時には初めからやり直しということが度々あったことです。ですが最終的には求めていた光学解を見出し、そのような光学レイアウトがハワイ・マウナケア山頂での観測で使えるものであることを確かめた際は喜びとともにホッとしました。今後は本研究で得られた光学設計を元に、複雑な形状をもつミラーをどのようにして精度良く作るかという具体的な製作の話に入っていきます。これについても超精密加工と呼ばれる金属の切削加工技術を応用することで現在の技術課題を突破できると期待しています。

 まずはすばる望遠鏡、そして将来的にはTAO6.5m望遠鏡を用いて、自分が設計した装置による観測ができる日を楽しみにしています。なお本研究は尾崎忍夫氏(国立天文台 TMT推進室)とSWIMSチームの協力の下で行われました。

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▲ 光学設計ソフトウェアを用いた光線追跡シミュレーションの様子

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▲ 本研究で得た面分光ユニットの光学レイアウト

2、地上大型望遠鏡用中間赤外線観測装置における低温エレクトロニクスの開発


東京大学大学院理学系研究科天文学専攻
岡田一志

 私が開発に携わっているTAO 6.5 m望遠鏡用の中間赤外線観測装置MIMIZUKUは、一般に熱赤外線とも呼ばれる波長2~40 µmの赤外線を観測します。この赤外線はたとえば、宇宙に広く分布するダスト(固体微粒子)の観測に適しています。星間空間においてはガス・ダスト密度の高い分子雲コアが重力収縮することで原始星が生まれ、原始星の周りに降着した円盤でダストが成長していき惑星系が形成していくと考えられています。一方で、終末期の星はガス・ダストを星周空間に放出して次の星形成の原料を供給しています。このように宇宙では物質が循環しており、MIMIZUKUではダスト観測を通して宇宙の物質輪廻を探ることを大きなテーマの一つとしています。

 私の修士論文では、MIMIZUKUの開発要素の中でも、中間赤外線観測装置で特に必要とされる低温エレクトロニクスの開発についてまとめました。中間赤外線では、可視光線・近赤外線と違って熱放射で大気や望遠鏡が明るく光るため、検出器の飽和が速く、高速で信号を読み出す必要があります。一方で、中間赤外線検出器は暗電流(熱ノイズ)が発生しやすく、これをおさえるには検出器は10 K以下に冷却しなくてはなりません。MIMIZUKUは大規模な装置で、検出器信号用の配線も長いため、途中で検出器の信号を受けて再度送り出す働きをする中継バッファ回路を設置することで高速の読み出しを可能とします。さて、MIMIZUKUでは空間的な配置を考えるとバッファ回路は20 Kの低温環境に置くのが適当なのですが、この温度では常温では動作する回路が正常に働かなくなります。その最大の理由は、低温でのバッファ回路は具体的にはソースフォロワと呼ばれる回路を用いるのですが、この回路に利用する半導体素子FET(電界効果トランジスタ)は、一般によく用いられるシリコンのものを使うと、低温でキャリアが凍結するなどの理由で使えなくなってしまうからです。そこで今回は、一般に高周波用途(数100MHz~GHz以上)に用いられるガリウムヒ素のFETを流用して、同様に回路をつくることを試みました。案の定といいますか、これらのFETは高周波に起因すると考えられる不安定性をしめして、扱いに苦労しましたが、MIMIZUKUのバッファ回路として使用するに適当な素子を選定することに成功しました。

 今後は、MIMIZUKUに実際の乗せる多チャンネル回路を設計し、その性能試験を行っていきます。MIMIZUKU装置全体としても2014年度中の完成を目指し、鋭意努力中です。

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▲ 低温ソースフォロワーの実証試験用回路基板作成作業の様子

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▲ 低温ソースフォロワーの実証試験用セットアップ

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