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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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チリ共和国 カトリカ大学より
〜TAOメンバー越田進太郎研究員の近況〜

2012年8月1日よりチリのカトリカ大学へ赴任した越田進太郎研究員より現地での生活の様子や、現在の研究内容に関する報告がありましたので紹介します。 東京大学アタカマ天文台があるチリ共和国の歴史ある大学にTAOメンバーである越田研究員が赴任していることは大変意義深いことです。この報告からも今後の更なる活躍が期待できます。

私は2009年から特任研究員としてTAOプロジェクトに携わってきましたが、2012年8月1日付でチリ共和国カトリカ大学 (Pontificia Universidad Catolica de Chile) に赴任しました。現在はカトリカ大学で近赤外分光装置・撮像装置の開発を行いながら、主に miniTAO 観測などでTAOプロジェクトの仕事にも携わっています。

カトリカ大学は創立以来125年の歴史を持ち、チリの中でもトップクラスの規模を持つ大学のひとつです。特に医療、法律、神学、自然科学などの分野において高い評価を得ています。以前からチリでの活動を通じてTAOプロジェクトとの交流がありましたが、昨年東京大学との協定のもと研究員のポストを創設することになり、縁あって私がそこへ赴任することになりました。

首都サンチアゴ市南部に位置するサン・ホアキンキャンパスは700メートル四方ほどの広い敷地をもつカトリカ大学のメインキャンパスであり、近代的な建物だけでなく、並木や芝生、花壇など緑がたいへん豊富な気持ちのいい環境です。その名にあるようにカトリック系の大学なのですが、人が多く学術的な活気があり、研究を行う環境としては日本の大学にもひけをとらないのではないかと思うほどです。私の居室がある天文・天体物理学科の建物にも50名以上のスタッフと学生がおり、ゼミや談話会など活発な研究活動が行われています。


カトリカ大学外観 map

▲ (左)カトリカ大学技術センター外観、 (右)カトリカ大学のあるサンチアゴと東京大学アタカマ天文台(TAO)の位置

チリには、今年ついに完成した電波・サブミリ波大型干渉計ALMAや、すばると同じ8m望遠鏡を4台有するVLTなど、欧米や日本の資本による第一線の観測施設が現在数多く存在します。チリの天文学コミュニティは、これらの施設を受け入れる代わりにその観測時間の一部を譲り受け、科学的成果を上げることで天文学の第一線に並ぼうとたいへん活気づいています。また、単に外国の資本に頼るのではなく、いかに最先端の技術を学びとり自立するための力とするか、ということに大変関心を持っています。カトリカ大学でも近年天文技術センター (Centro de Astro-Ingenieria) が創設され、第一線で活躍できるような観測装置を開発することを目標に本格的な装置開発が始まりました。私の仕事は、このセンターにおいて、近赤外波長で働く分光器と撮像カメラを大学所有の50cm 望遠鏡に設置し、観測を行って科学的な成果を得ることです。これまでは可視光観測装置しかなかったため、近赤外線観測装置はカトリカ大学の研究の幅を広げる重要な要素となっています。

現在私たちは、イタリアのアルチェトリ天体物理観測所から譲り受けた分光器とカメラの2台について、基本的な性能の再評価と私たちの望遠鏡に取り付ける器具の製作を行っています。いずれも NICMOS3 と呼ばれる検出器を搭載しており、1.1-2.4 µmの波長帯で観測を行うことができます。また新しい技術要素として、光ファイバーを用いて星の光を近赤外分光器に導く試みをしています。光ファイバーを用いることで望遠鏡への接続が簡単になり、装置の汎用性が高まるのですが、近赤外でのファイバーの特性についてはこれまであまり検討が進んでいませんでした。これを小規模の装置で検証し、可能ならば将来は大型装置にも応用する予定です。さらに、より安価かつ手軽に近赤外観測を行えるよう、市販の近赤外カメラ(Xenics社Xeva 1.7)を用いた観測システムの構築も目指しています。


近赤外撮像カメラ 近赤外分光器を開封中

▲ (左)近赤外撮像カメラ、(右)近赤外分光器の開封作業風景

また、TAOプロジェクトの推進も私の仕事のひとつです。現在は、年に二回それぞれ約二か月にわたって行われるminiTAOの観測に参加し、望遠鏡や機器のメンテナンス、観測のオペレーションなどを行っています。ゆくゆくは、カトリカ大学で開発した観測装置を miniTAO 望遠鏡に搭載し、アタカマの夜空を観測することができれば素晴らしいことだと思います。今後はTAO 6.5m望遠鏡やアタカマ研究施設の建設も進むため、カトリカ大学を足掛かりとした協力体制をさらに固めていくことで貢献できればと思います。


研究室メンバー

▲ 市販近赤外カメラで撮った研究室メンバー

チリに渡航してもうすぐ一年が経とうとしています。日本から遠く離れた環境へ単身やってきて、苦労することや驚くことがたくさんありました。日本ではコンビニで買えるようなものをあちこち探しまわったり、てんぷらやラーメンが無性に恋しくなったり。治安は南米ではもっとも良いと言われていますが、マンションの真向かいで若者たちの暴動が起きたこともありました。しかし、普段ふれあうのは気のいい親切な人々がほとんどで、食べ物や衣類も大抵のものは手に入ります。また、日本を外側から眺めるチリの人たちの目線に触れ、文化的な刺激を受けることもできます。任期が終わるまで、この環境で精いっぱいさまざまなことを吸収し、研究そして今後の人生に活かしていきたいと思います。


越田 進太郎
Center of Astro Engineering and Department of Electrical Engineering,
Pontificia Universidad Catolica de Chile
Postdoctoral fellow

越田さん
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