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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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2011年度修士論文発表会
「miniTAOの成果、続々と発表される」

mini-TAOでのランも昨年秋で5回目を迎え、サイエンスの結果も次第に出てきました。2011年度天文学専攻の修士論文において、miniTAOでの観測結果を基にした論文が2件提出されました。2月9-10日には小柴ホールで修士論文発表会が行われました。

1.「大質量星形成領域の赤外線観測と、中間赤外線用大型反射光学系の調整」

これは内山瑞穂氏によるもので、この論文の中心テーマの一つが、miniTAO搭載中間赤外線装置MAX38による観測です。

本研究では我々の研究グループが開発、運用を行なっている地上中間赤外線観測装置MAX38を主に用いた大質量星形成領域M8Eの観測を行いました。一般的に形成期の大質量星は、ダストやガスの中に深く埋もれており、可視近赤外線では観測ができません。そうした中で、可視近赤外線よりも透過力が高く、遠赤外線や電波波長域に比べて高い空間分解能を持つ中間赤外線での観測は、こうした天体の詳細な情報を得るために非常に有力な観測手段です。本研究では、チリ・アタカマにあるminiTAO1m望遠鏡に搭載された地上中間赤外線観測装置MAX38の観測に、現地に渡航して参加しました。M8Eは太陽から1.5kpcの距離にある近傍大質量星形成領域であり、近赤外線でも撮像可能な非常に明るく若いM8E-IRという天体と、M8E-IRよりも進化の進んだ、電波源天体ではあるものの可視近赤外線では非常に暗いM8E-radioの2天体で構成されています。

M8E-radioは、すばる望遠鏡COMICSの24.5micronの中間赤外線の観測で初めて分離撮像されましたが、これ以外の可視赤外での撮像観測例はありませんでした。本研究ではM8E-radioを初めて30micronと37micronの長中間赤外線で撮像し、M8E領域において2天体からなる構造を検出しました。これにより、初めてM8E-radioのSED(SpectralEnergy Distribution)を算出し、その総光度、及び質量を求めました。得られた結果は、M8E-IRよりもM8E-radioがより軽い質量の星であるというものでした。分子雲内で同時に星の形成が始まるならば、重い星ほどより短い時間で形成されます。従って、ごく近い距離にあるM8E領域の2天体が分子雲から同時にできたと単純な仮定をすれば、この観測結果とは矛盾することになります。この2天体の形成開始時期のずれをもとめたところ、M8E-radioの方が30万年ほど先に形成が開始したことがわかりました。

大質量星形成領域の10倍以上の空間スケールを有する大質量星を含むクラスターなどでは天体間で形成開始時期がずれる観測例が見つかっていましたが、より狭い大質量星形成領域では詳細な観測例が少なく、ずれの有無はわかっていませんでした。今回より狭い大質量星形成領域においてこのようなずれを発見したことは、分子雲内での大質量星の形成過程を調べる上で大変興味深いものです。

画像:MAX38
画像:M8E

(下図:25micronで撮像したM8E領域。
中心部の明るい天体がM8E-IR、右上のやや暗い天体がM8E-radio)

2.「地上Paα輝線観測手法及びPaα輝線で探る近傍LIRGsの形態的特徴」

これは舘内謙氏による修士論文です。これまでの5回のランで38個の赤外銀河をminiTAO搭載近赤外線カメラANIRで観測した結果をまとめたものです。

これまでの多くの大規模な深宇宙探査により、過去に向かうほど宇宙の星形成活動が高まっていくことが分かってきました。さらにこうした活動の大部分は、超/高光度赤外線銀河(U/LIRGs)により担われていたことが明らかとなってきました。しかし、これらの銀河がどのようなもので、活発な星形成がどのように引き起こされているかについてはまだよくわかっていません。それは、遠方(z>1)での詳細な観測が現在の技術ではまだ難しいためです。そこで内部分構造を空間分解できる近傍(z<0.1)の観測から、遠方ではとらえられない詳細な星形成活動を明らかにすることで、銀河進化の理解に迫ってゆくのが本研究の目的です。

U/LIRGsの星形成活動を詳細に研究するには、直接的な星形成指標であり、ダスト減光に強く、放射強度が強い水素再結合線Paα(パッシェンアルファ)輝線(1.875micron)が適しています。しかしながら、Paα輝線のある波長域はちょうど地球の大気吸収が激しい波長であり、地上からの観測は困難であると今までは考えられていました。

Atacama Near InfraRed camera:ANIRは、南米チリ・チャナントール山山頂の標高5640mに設置されたminiTAO 1m望遠鏡に搭載されている近赤外線カメラです。このサイトは、非常に高い標高と低い水蒸気量(PWV〜0.5mm)のおかげで赤外線域の大気の窓が通常よりも大きく開くため、Paα輝線の狭帯域撮像観測を安定して行うことが可能となっています。さらに、高い晴天率(80-90%)や良好なシーイング(中央値で0.8秒角以下)にも恵まれ、こうした赤外線観測を行うには非常に適したサイトとなっています。本研究ではこのANIRを使い、ANIRのN191フィルター(1.9micron)にPaα輝線が入ってくる近傍(2800km/s < cz < 8100km/s)LIRGsのPaα輝線観測を行いました。全部で38天体のLIRGs及びそれに準ずる赤外線光度を持つ銀河のPaα輝線観測を行いました。ダストに埋もれた星形成を直接空間分解してその活動度を求め、それと中心集中度を指標とした個々の銀河の形態との関係を明らかにしました。結果、Paアルファ輝線から求めた星形成活動度と中心集中度の相関関係として、2つのモードがあることを発見しました。そのモードとは、銀河の星の分布と星形成領域の分布が楕円銀河のような形の「コンパクトモード」と、銀河の星の分布が渦巻き、または不規則銀河的である「ノーマルモード」です。これらのモードの違いについては、何が要因となっているか今後詳細に研究し明らかにしていきます。

画像:ANIR
画像:ic5179

(下図:IC5179のcontinuum画像(左)とPaα輝線画像(右))

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