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東京大学アタカマ天文台 (TAO) 計画

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miniTAO、リモート観測運用を本格的に開始

miniTAOは5,640mの山頂に設置されており、ベース基地(山麓施設)のあるサンペドロ・デ・アタカマから約80km離れているため、その運用には非常に多くの困難を伴います。

山麓施設と山頂との行き来には自動車で往復約4時間かかり、途中の道路には降雪や落石、悪天候の危険性があります。また、山頂の酸素濃度は我々の暮らす場所と比較して約半分しかありません。宇宙線の被曝も見逃せません。
そのような環境での長時間での作業や観測は時には生命の危険も伴います。
そこで、これらの危険を回避し、安全で効率的な観測を行うために、山麓施設と山頂を結ぶ無線ネットワークを設置しました。
図のように、約50kmの距離(直線距離)を無線でつないでいます。

サンペドロ・デ・アタカマ周辺の地図と無線LANアンテナ



現在、リモート観測は世界的に見ると、ハワイ観測所のすばる望遠鏡、チリ・アタカマのASTE望遠鏡など、多くの望遠鏡で行われています。しかしこれらに先行して、東京大学ではハワイ・ハレアカラ山頂にあったMAGNUM望遠鏡を、日本から完全リモートで運用していました。

MAGNUM望遠鏡(ドーム)
▲ハワイ・ハレアカラ山頂のMAGNUM望遠鏡(ドーム)
 ※2000年12月から2008年12月まで運用


リモート観測運用の確立には、いくつかの設備が必要ですが、miniTAOでは、MAGNUMの実績・経験を活かし、より精度・安定性・信頼性の高い通信システムが構築されています。

まず、山麓施設と山頂を結ぶパラボラアンテナが両地点に2対向(4台)設置されています。主回線にトラブルがあった場合のバックアップ回線も備えています。

モニターシステムとして、(1) 望遠鏡やドーム、観測室、発電機などの様子をリアルタイムで監視する監視カメラ、(2) 気象条件を把握するための気象モニター・全天カメラ、(3) 望遠鏡やドームの向き、フォーカス、主鏡カバーの状態などを知ることができる望遠鏡ステータスモニターなどがあります。

また、非常時に対応するシステムとして、(1) 山頂との通信が途切れた際に、それを検知してドームを閉じる機能、(2) 停電を検知して、山頂のコンピュータ類を自動でシャットダウンする他、バッテリの電力を利用し、ドームスリットを自動で閉じる停電対応システム、(3) 風力・湿度などが望遠鏡にとって危険な水準に達したときに、それを観測者に知らせる天候悪化警報システムなどを備えています。


リモート観測を実現する様々なシステム
▲リモート観測を実現する様々なシステム


前述の通り、山麓施設と山頂の往復には約4時間かかり、そのデッドタイムが観測時間のロスとなっていましたが、今回のリモート観測によって、その分の時間が観測に回せるようになり、多くのデータを効率的に取得することが出来るようになりました。



▼リモート観測システムを始める前と後の、活動時間の違い
リモート観測システム開始前後の活動時間の違い
※これは典型的なもので、実際には薄明終了・開始の時刻によって観測時間は変わります。
※また、中間赤外線では日入り前後にも観測を行うことがあります。

今回のランでは、ANIRでは15課題、計156時間、MAX38では8課題、計153時間の観測時間が確保されました。これは前回の運用と比較して、約20%増加したことになります。
特にMAX38(中間赤外線観測)では、日が出ていても観測が可能な時間があるため、リモート観測運用は観測時間の増加に繋がりました。(※実際の観測運用では、望遠鏡やドーム、電源トラブルのための山頂への緊急出動や、望遠鏡傍で行う観測があり、その場合は山頂へと向うこともあります。)

高感度の観測、あるいは新しい窓を利用するには、より条件のよいサイトでの観測(逆に言うと観測者にはより厳しい環境)が必須になってきます。
究極のリモート観測として人工衛星での観測がありますが、衛星打ち上げのコストや継続性、開発のための時間、さらに装置の改修ができないことなど、まだまだ多くの課題もあり、このような点を考慮すると、地上からの観測がなくなることはありません。どちらかと言うと人工衛星観測と地上観測の相互協力が、より新しい結果をもたらすと言えます。そのためにも地上のリモート観測が、今後より一層重要で必要不可欠になっていくでしょう。

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