新世代の赤外サーベイは我々の銀河系の3D構造を明らかにしつつある。VVV サーベイの 157 M 星赤外測光を用いて、バルジ内のダスト雲の大規模分布を 解析した。我々はバルジの CMD を調べ、レッドクランプ星のカラーが二つに 分かれることを示した。カラー差の平均は Δ(Z-Ks) = 0.55 である。 これは Av = 2 に相当する。 | 我々は l = [10, -10] にかけて銀河面の上下、中間銀緯帯に光学的に厚い ダスト帯があると結論する。我々はそれを "Great Dark Lane" と呼ぶ。その 距離はまだ不定であるが、バルジ前面にある。このダークレーンは銀河系の バーバルジ構造を考える際に重要な拘束である。マイクロレンズィングと 星種族への影響も論じる。 |
CASUデータベース Saito et al. 2012 の仕事を拡大して、我々は VVV ZYJHKs 観測による CASU カタログ (http://casu.ast.cam.ac.uk/vistasp/) v1.3 "Completed" data にバルジ l = [10, -10], b = [-10, 5] の 300 deg2 データを載せた。 それらは 196 バルジタイルに別れ、 157 M の星が収録されている。 星の識別基準は 最低二つのバンドで星フラグが立つことである。 二つのカラーのレッドクランプ 図1に Z, Ks バンドでフラグ1が "good" の 70 M 星を投入した CMD を 示す。赤化の影響は CMD 上で明らかである。その結果、レッドクランプ星は (Z-Ks) カラーで 3 等に及ぶ広がりを示す。図1には赤と青の二つの密度 超過が見える。二つの成分間のカラー差は Δ(Z-Ks) = 0.55±0.03 である。もしこのカラー差が赤化によるとしたら、それは E(B-V) = 0.65, Av = 2.0 に相当する。類似のカラー差は Saito et al. 2012 でも Ks-(J-Ks) CMD で指摘されている。しかし、今回の方が波長ベースが 長いのではっきりと見える。 青成分と赤成分 これら、二成分の位置を確定するため、色等級図上で次のように 青成分と赤成分を分けた。 青: Ks = [12,8, 13.5], (Z-Ks) = [1.5, 2] 赤: Ks = [12,8, 13.5], (Z-Ks) > 2.1 2成分の空間分布を図2に示す。図から巨大暗黒帯が銀河面の上と下に 横たわっていることが判る。暗黒帯の影響を受けた星は l = 10 から -10 まで 一つながりで、|b| < 4 に鋭い遷移を見せている。VVV は l = [355, 295] に伸びているが、銀緯が b = [-2.25, 2.25] しかカバーしていない。このため 暗黒帯がどこまで伸びているか不明である。 Wegg, Gerhard (2012) が示したような滑らかな密度分布をバルジに対し仮定すると、レッドクランプ のカラーの分裂は濃い減光域の存在を示唆する。仮に距離 6 kpc とすると、 b = 4 は銀河面からの高度 400 pc に対応する。 |
![]() 図1.バルジ 300 deg2 66 M 星の Ks-(Z-Ks) CMD. レッドクランプが二重 Δ(Z-Ks)=0.55 に別れていることに注目せよ。 これはバルジを横切る "Great Darl Lane" によるものである。 内側領域の測光完全度は Ks > 16 でのみ問題となる。図の赤化ベクトルは E(B-V) = 1 に対応する。 |
(l, b) = (-0.6, -1.9) で PSF 測光実施 CASU はアパーチャ測光を採用しているので、混んだ領域では制限を受ける。 大暗黒帯が実際に存在することを確認するために、 内側の代表的な領域 b305 タイル (l, b) = (-0.6, -1.9) で PSF 測光でより暗い星を正確に測った。図3の中はこのタイル状の1チップで PSF 測光を用いた Ks-(J-Ks) 図である。左は Y-(Z-Y) 図。この領域が 選ばれたのは、ダスト帯の縁に位置し、青と赤のレッドクランプ星を含んで いるからである。 主系列は分裂しない。 Ks-(J-Ks) 図上で二つのレッドクランプ間のカラー差は Δ(J-Ks) = 0.30±0.03 であった。この差は Δ(B-V) = 0.57±0.06, ΔAv = 1.78 に相当する。 対照的に主系列は Ks-(J-Ks) 図上でよく決まっている。やや太いのは 前景星の微分赤化のためであろう。しかし、明らかに二重性は存在しない。 これらの円盤星は大暗黒帯の前面にあることが判る。 |
暗黒帯の赤化 Gonzalez et al (2011) はこの視線方向の平均赤化を l = [-0.52, -0.68], b = [-1.98, -1.82] で、E(B-V) = 1.46 とした。大暗黒帯の影響を受けないバルジ星では E(B-V) = 1.18、その背後にある星は平均して E(B-V) = 1.75 の赤化を受けている。 以上の数値は b305 にのみ当てはまることを注意しておく。 可視では分からなかった マイクロレンズ観測では多くの内側領域の光学マップが得られた。しかし、 今回のような分裂は報告されていない。それは、今回でもより短波長側の Y-(Z-Y) CMD を見ると分かる。図3の左がそうであるが、そこでは 赤色巨星枝全体が幅広の赤化を受けており、分裂の特徴は見えない。 このようにレッドクランプの分裂は (J-Ks) には現れるが、 (Z-Y) には 見えない。 (青成分、赤成分それぞれで 可視 CMD を作って比べる等の追究をしていない。可視 CMD に 現れないのは赤い星が可視では消えるからか、RC の巾が広くなり過ぎて 重なり合うからか? ) |
青と赤間の勾配が小さい 図1の面白い点は、青と赤のレッドクランプの見かけ Ks 等級がほぼ等しい ことである。その相対位置の勾配は赤化ベクトルよりも緩い。 高銀緯の方が遠いから? レッドクランプ星を使ったバルジ立体構造の研究から、以下のようなことが 明らかとなった。 (1)正銀経の方が明るい。 (2)銀緯が上がると暗くなる。投影距離が大きくなるから。 (3)銀経一定で見ると、ダスト帯の影響を受けた赤いレッドクランプは 低銀緯に押さえ込まれる。一方青いレッドクランプは高銀緯である。 (4)だから、青いレッドクランプ星の方が遠い距離になる。 このため、青と赤のレッドクランプ星は一本の赤化ベクトル線上に並ばない のである。 正負銀経での比較 この効果をはっきり見るため、図4では、l = [6, 2] と l = [-2, -6] の二つの領域で Ks-(Z-Ks) CMD を作った。 両者で、赤と青のレッドクランプ間のカラー差はダスト帯の存在に矛盾しない が、その見かけ等級には距離による差が生じている。 メタル量変化 Zoccali et al 2008, Gonzalez et al 2013 によれば、バルジ星のメタル量 は [Fe/H] = [-0.7, 0.2] に分布している。Girardi et al 2000 の 等時線によると、レッドクランプ星の絶対等級は [Fe/H] = -0.68 で MK = -1.306, [Fe/H] = 0.2 で MK = -1.571 である。実際にはこれらの星が 全て全領域に分布しているので、メタル量の差は Ks 等級の広がり、 ΔKs = 0.27 として現れる。 (この後意味不明) Gonzalez et al 2013 はメタル量マップを作ったが、l < 0 領域は より低メタルであった。これは負銀経のレッドクランプ星の光度が正銀経 より低いことを意味する。しかし、ダスト帯の影響を被る赤いレッドクランプ 星は |b| < 3 に制限される。そこでは正銀経と負銀経でメタル量は 等しい。したがって、赤いレッドクランプ星の見かけ等級は距離と減光のみ に影響される。 メタル量のみの説明 減光が等しいとすると、サンプルの銀緯が異なり、差はメタル量だけだと すると、青いレッドクランプ星は赤いレッドクランプ星より暗い筈である。 l > 0 で |b| < 3 と |b| >: 3 の間のメタル量の差は Δ[Fe/H] = 0.2, 負銀経では Δ[Fe/H] = 0.4 - 0.5 が 必要である。これは青赤間の勾配の差にも貢献する。 |
![]() 図4.レッドクランプの Ks-(J-Ks) CMD. 上:l = [-6, -2] データ。 下:l = [2, 6] データ。破線=赤化方向を示す。等高線=ピークから 5 % おき。 距離効果とメタル量効果 実際には距離とメタル量の双方が働いている。すると不十分になる。。 こういう訳で、減光帯のみが可能な原因である。 |
銀河融合? 大暗黒帯までの距離は不明だが、おそらくバルジの前面であろう。 Schultheis et al. 2014 の 3D 減光マップは低銀緯で 6 kpc 付近で減光がジャンプすることを 示している。これは M64 や NGC 5128 のように銀河融合直後の銀河に 見られるダストリングの兆候かもしれない。 |
もっともっと このような低銀緯ダスト帯の報告はこれまでにない。 したがって、より良い調査が望まれる。 |