Mapping the Milky Way Bulge at High Resolution: the 3D Dust Extinction, CO, and X Factor Maps


Schultheis, Chen. Jiang, Gonzalez, Enokiya, Fukui, Torii, Rejkuba, Minniti
2014 AA 556, 120 - 130




 アブストラクト

 VVV + ブザンソンモデルから、l = [10, -10], b = [-10, 5] の 3D 減光マップを作った。最近開発された色超過を用いる方法を用いる。 第1に Ks-(H-Ks) と Ks-(J-Ks) CMD を VVV から作る。第2に、M-型星の 温度 - カラー関係と距離 - カラー関係を用いて、減光 - 距離関係を 導く。観測されたカラーを距離の関数として、ブザンソンモデルから決まる 固有カラーにずらすには逐次近似の方法を使う。この結果、 3D 減光マップ が得られる。  全 VVV 領域で、角分解能 6×6 , 距離区画 0.5 kpc の E(J-Ks) と E(H-Ks) 3D 減光マップを作った。距離は 10 kpc, 減光は Av = 30 mag に達する。マップはバーの前面に多くの物質が 存在することを明らかにした。特に 5 - 7 kpc に多い。我々は減光マップを NANNTEN2 の CO 観測と較べた。その結果 Av と CO の良い相関が確認された。 両者から X ファクターを X = 2.5±0.47 × 1020 cm-2 K-1 (km/s)-1 と定めた。


 1.イントロダクション 

 これまでの 3D 減光マップ 

  Marshall et al. (2006) は 2MASS とブザンソンモデルを組み合わせて 3D 減光マップを作った。 しかし、 2MASS は測光限界も混雑限界も浅いので、減光の強い領域 (Av > 30 mag) ではマップが作れなかった。同様の手法で, Chen et al. (2013) は GLIMPSE と VVV データ、それに Robin et al. (2012) の改善版ブザンソンモデルを用いて、3Dマップを作った。 彼らのマップは内側バルジに限られ、各分解能も 15 でバルジ研究には粗すぎる。
X ファクター 

 さらにここでは X ファクターも調べた。

     X = NH2/W  [cm-2(km/s)
-1
]

ここに、W = CO 輝度温度。

 2.データ、モデル、方法 

 VVV のサチュレイションのため Ks < 12 では 2MASS を併用した。 3D マップを作る方法については Chen et al. (2013) に詳しく述べた。





図1.上:Chen et al 2013 の低分解能減光マップ。
下:我々の高分解能マップ (D = 8 kpc まで)


 3.高分解能 3D 減光マップ 

 3.1.8 kpc までの累積減光 


図2.8 kpc まで積分した 2D 減光マップ。 X = 銀経。 Y = 銀緯。

 図1= Chen et al 2013 との比較 

 8 kpc までの累積減光を作り、図1では Chen et al 2013 との比較を 示す。全体としては似ている。しかし、フィラメンタリーな細部の構造が Chen et al 2013 には出ていない。ただし、銀河中心吹きんでは約10の サブフィールドで VVV の星数が足りなかった。その部分を Chen et al で内挿して補い、図2の完全図ができた。

 Gonzalez et al 2012 との比較 

  Gonzalez et al. (2012) は我々と同じ VVV データを使用して、 高分解能 2 - 6 の 2D 減光マップを 作った。しかし、彼らはレッドクランプ星のみを用いた。図3には両者を 比較した。銀河面近くでは減光のため、星の数が大きく減少し、測光精度 も劣化する。このため AKs のエラーが大きい。

 図4= 2D 減光マップとの比較 

 図4には 2D 減光マップとの比較を示す。それらは DENIS データを用いた。

図5=星計数と減光の関係 

 図5は星計数と減光の関係を示す。|l| < 1, |b| < 1 に高減光で 低数密度の構造が見える。これは中心核バーに関係するかも知れないが まだ未確認である。

図4.横軸=8 kpc まで積分した今回の 2D 減光と他の減光との比較。 縦軸上= Schultheis et al. (1999) . 中= Dutra et al. (2003) . 下= Nidever et al. (2012) .

図3.左: Gonzalez et al. (2012) の Ks 減光量と我々の結果との差。右:減光量同士の比較。




図5.グレイスケール=星計数分布。黒ほど低計数。タイルが重なるところは 二重に勘定されるので白抜きになる。等高線= 2D 減光マップ。

 3.2.異なる距離に対する累積減光 

 図6は異なる距離までの累積減光をマップにして示す。最も減光の 大きい、白色部が傾いているのも分かる。傾きは負銀経で銀河面の上 になる向きで、おそらく、 Marshall et al. (2008) が述べているダスト帯であろう。  VVV 感度は 2MASS より高いので、|b| < 2 でも減光を辿れる。もう一つ 別の興味深い構造は "パイプ星雲" で (l, b) = (2, 4) 付近に位置する。 これは蛇つかい座暗黒雲の一部である。



図6.累積減光 AKs マップ。白線は AKs = 0.8. 減光帯の傾きがはっきり見える。(2, 4) に示されている構造はパイプ星雲。




図7.微分 AKs 減光マップ。

 3.3.微分減光マップ 

 銀河面上の減光帯 

 図8には減光の銀河面上の分布を示す。 Marshall et al. (2006) と違い、D < 5 kpc では滑らかな減光上昇が認められる。その 先では減光が上昇する。(?)細長い構造も見えるが、 Marshall et al. (2006) よりはっきりしている。

 D = 5 - 7 kpc にダスト雲集積 

 図9にはいくつかの方向で、AKs - D 関係をプロットした。 全体として、 D = 5 - 7 kpc での AKs 勾配が急である。この 距離帯にダスト雲が集積していることを示す。 D = 8kpc より先では減光 増加は穏やかになる。

 渦状腕に付随か? 

 微分減光が D = 5 - 7 kpc でピークに達し、その先で減少することは直観に 反する。銀河中心 D = 8 kpc で減光もピークになると思うが違うのである。 Liu et al. (2012) は反中心方向のレッドクランプ星の分光データから減光分布を研究し、 D = 9.5 - 12.5 kpc の減光帯を発見した。彼らはそれをペルセウス腕に 付随するダスト帯と考えた。我々が発見したダスト帯も渦状腕に付随する ものの可能性がある。


図8.下:累積減光、上:微分減光の銀河面上分布。
バルジバーとの相関 

 この可能性を調べるために、図10では図8の減光分布を Robert Hurt の 挿絵の上にプロットした。 Urquhart et al. (2014) の図6から採った HIIR+MYSOs もプロットした。我々の減光帯の位置は 渦状腕と何の関係も示さない。しかし図7や図9に見られる減光の増加は 銀河系バーの直前になり、バーの軸角に沿った分布を示す。

 

 別の考え方として、Stecker et al 1975, Duval et al. (2010) が提唱する分子リングが減光帯の原因と言う考えがある。これは銀河中心から 4 kpc の距離 Dame et al. (2001) にある明るい CO 構造である。これが本当にリングであるかどうかに関しては まだ論争が続いている。 Dobbs, Burkert (2012) は分子雲の大部分は2本腕の CO l-v 図上に乗ることを示した。彼らはその内の 一本が分子リングに対応すると主張している。


図10.微分減光の銀河面上分布を Robert Hurt の挿絵上にプロットした。 Urquhart et al. (2014) の図6から採った HIIR+MYSOs もプロットした。



図9.異なる視線方向での AKs - 距離関係。銀経で色分けした。

 4.恒星種族合成への応用 

 図11:内側バルジでのモデルと観測の比較 

  Girardi et al. (2005) の TRILEGAL モデルは 2MASS の星計数をよく再現することが知られている。 このモデルは Vanhollebeke et al 2009 によりバルジ成分が加えられた。 Uttenthaler et al 2012, Saito et al 2012b はこのモデルをブザンソンモデル と比較して、両者が良く似た CMD を与えることを見出した。図11に、 (l, b) = (1.5, 1.5) における CMD を比較した。比較のためモデル計算では VVV と同じ完全度限界を設けた。ブザンソンモデルは円盤 K 巨星が多すぎる。 また、 K < 8.5 のバルジの明るい端が欠けている。これは TRILEGAL モデルでは現れている。


図11.(l, b) = (1.5, 1.5) の (Ks, J-Ks) CMD. 左:VVV データ。 中:ブザンソンモデル。右:TRILEGAL モデル。二つのモデルは我々の 3D 減光 マップを適用した。
図12: (l, b) = (6, -2) で比較 

 図12には (l, b) = (6, -2) で、少し減光の小さな領域での比較を 図示した。TRILEGAL モデルのカラーは少し赤すぎ、Ks < 10 の 明るいバルジ巨星が少し多すぎる

 3D 減光マップは銀河モデルに依存する 

 このように、 3D 減光マップは銀河モデルと観測との直接比較を可能にする。 3D マップはただし星密度に依存し、それはモデル依存性が大きい。恐らく TRILEGAL モデルから減光マップを導くと今回のマップと系統的にずれるで あろう。


図12.図11と同じだが、(l, b) = (6, -2)


 5.高分解 CO 観測との比較 

 図13=ダストと分子の比較 

 図13では、ダスト減光と CO 強度とを比較した。減光と CO 強度の最高値は 中心分子帯(CMZ) で起きている。


図13.内側バルジの 上: CO 分布。下:減光マップ。
 X ファクター 

 Shetty et al 2011 は Av と NH の関係を次のように求めた。

     NH = Av*1.87 1021/(Z/Zo)

この式から出した NH2 と CO 観測値 W との間の比例値を X-ファクター と呼ぶ。

     X = NH2/W = (AKs/0.089)*0.935 1021/W 

 図14には Av から導いた NH と W の関係をプロットした。 図の傾向は Shetty らの分子雲の輻射輸達モデルの結果と 同じ傾向を示す。


図14. W = CO 強度と NH = コラム密度(上軸) または Av (下軸)との関係。赤線=2次式フィット。


  

 図15には X が方向=減光により変化する様子が示されている。赤線は

     X = 1020 - 10100Av+150

である。

 図16には X の方向による変化を示した。図は中心領域で、 X が 太陽近傍の 1/250 という低い値になることを示している。この極端に 低い X 値は中心領域の異常な物理状態を示している。
図15.左: X - NH2 関係。右:X 分布。青線= Glover, Mac Low 2011.

図16.上:X分布。下:40×40 分解能に平滑化。


 6.まとめ 

3D 減光マップを作った 

 VVV + 改訂ブザンソンモデルからバルジ方向の 3D 減光マップを作った。
Xファクターを調べた 

 NANTEN2 の CO 観測と合わせて、Xファクターを調べた。