背景
太陽の8倍以上の重さの星や、二つの星がお互いのまわりを回っている星(連星)の一部は、その一生の最期に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こし、太陽数億個分もの明るさで数十日間輝きます。つまり,たった一つの星が,星が数億個集まった銀河一つ分と同じくらいの明るさで輝くのです。宇宙に存在する水素とヘリウム以外の元素の多くは、超新星爆発の際に生成されたと考えられており、宇宙全体の進化を担ってきた重要な現象です。近年特に,その爆発の直後を詳しく調べることで,爆発メカニズムや爆発前の最終段階の星の様子が詳細に理解できる現象と期待されています。しかし,宇宙のいつどこで超新星爆発が起こるかは予言不可能ですので,一度に空の広い領域を監視観測することが必要となります.また,爆発後,超新星爆発による噴出物はどんどん宇宙空間に撒き散らされてしまいますので,新しく爆発したばかりの超新星を1分でも早く自力で発見することが重要になります.
木曽トモエゴゼンによる広域探査
木曽観測所は,東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター(東京都三鷹市)が運用する天文観測施設です。広い視野を特長とする口径105cmシュミット望遠鏡が主力望遠鏡です(図1左)。 105cmシュミット望遠鏡では,その圧倒的に広い観測視野を生かして,様々な観測研究を推進しています。 現在、木曽観測所では,105cmシュミット望遠鏡の広い視野(直径9度、焦点面にて直径52cm)全面を84個のCMOSイメージセンサで覆う超広視野高速カメラ「トモエゴゼン」の開発を進めています.トモエゴゼンは同型の4台のカメラユニットから構成され,現在,最後のユニットQ4の開発が急ピッチで進められており,2019年4月末完成予定となっています.
トモエゴゼン計画の研究グループは2018年11月より,トモエゴゼン部分機(当時21枚のCMOSセンサのみを搭載)を用いて空の広範囲の動画データの取得を開始し,本Q4の完成をもって,本格的な探査観測へと移行します。このような広域観測を1年間に100夜程度実施することで、爆発直後の超新星からの光をとらえる計画です。
図1. (左)東京大学木曽観測所105cmシュミット望遠鏡の外観 (右)シュミット望遠鏡の焦点面に搭載されたトモエゴゼンカメラ.右下にあいている部分にQ4が取り付けられると完成となる.(リンク)
トモエゴゼンが発見した超新星 SN 2019cxx
超新星 SN 2019cxx の発見
トモエゴゼンを用いた超新星探査観測では,その超広視野観測性能を生かして,1晩の間に空の同じ領域を複数回観測することにより,超新星爆発直後の天体の発見を目指します.その後,トモエゴゼン自身及び他の望遠鏡との連携観測により,その明るさの変化を調べ,超新星爆発のメカニズム及び爆発前の星の様子を詳しく調べることを主目的としています.
木曽観測所では,トモエゴゼンで次々に獲得する大量の観測データに対し、独自開発した解析ソフトウェアを用いて,超新星のように新しく現れた天体を即時に発見します。
トモエゴゼンは2019年4月5日夜に本天体を検出し,その後,4月6日,4月8日と明るくなっていることがわかりました.つまり,爆発後間もない超新星の候補天体と考えられます。この天体は,以下の追跡観測により,SN 2019cxxという名前がつきました.
図2. SN 2019cxxの発見画像。左から順に,トモエゴゼンでの発見画像,パンスターズ計画により取得された参照画像,両者の引き算画像.引き算処理によりトモエゴゼン画像において新天体がうつっていることがわかる.
- 発見時の時刻: 2019年4月5日 21時08分 (日本時間)
- 超新星の位置: 赤経 11h 17m 48.22s, 赤緯 +13d 43m 42.0s(しし座の方向)
- 発見時の明るさ: 18.7 等級(可視光)
国内外の天文台による追跡観測
トモエゴゼンが検出した超新星候補天体までの距離や性質をより正確に調べるために、国内外の天文台による追跡観測を実施しました。分光・撮像それぞれの追跡観測を実施した国内の天文台を示します。
分光追観測を実施した望遠鏡
- 2019年4月9日 ジェミニ(Gemini)望遠鏡 GMOS(アメリカ合衆国ハワイ州)
- 2019年4月15日 京都大学せいめい望遠鏡 KOOLS-IFU(岡山県浅口市)
撮像追観測を実施した望遠鏡
- 2019年4月15日以降 広島大学かなた望遠鏡 HONIR(広島県東広島市)
- 発見以降 トモエゴゼン
図3. 撮像追観測により得られた光度曲線(光度の変化を表したもの).
タイプの決定と超新星名の授与
分光観測によりその距離とタイプが確定したことにより,超新星としての名称「SN 2019cxx」が Transient Name Server より付与されました.(リンク)‡。
- 距離:3億5000万光年(赤方偏移 0.025) ※ 距離の値が誤っていたので訂正しました(2019/4/25)
- 母銀河:SDSS J111748.57+134339.5
- 超新星のタイプ:Ia型
- 爆発からの時間:10日程度.最大光度10日程度前.
本成果の意義と今後
今回、トモエゴゼンによる本格的な広域探査観測開始早々に1個爆発初期の超新星を発見することができました。1年に100夜の同様な観測を実施した場合、より爆発時に近い,爆発直後の現象を数例発見できる可能性があることを意味します。今後,トモエゴゼンを用いた大規模な広視野超新星探査観測を継続し,他望遠鏡との連携により,超新星爆発のメカニズムおよび爆発直前の星の姿を明らかにしていくことを目指します.
クレジット
本サイトの画像を使用する場合は「東京大学木曽観測所」と併記してください。 例)画像提供: 東京大学木曽観測所
- トモエゴゼン計画は以下の研究機関との共同研究です。
甲南大学、東北大学、京都大学、広島大学、東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻、東京大学宇宙線研究所、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構、国立天文台、JAXA、日本大学、中央大学、一橋大学、電気通信大学、静岡大学、京都産業大学神山天文台、神戸大学、統計数理研究所、日本スペースガード協会、日本流星研究会 - トモエゴゼン計画は以下の企業の協力を得ています。
キヤノン株式会社(高感度35mmフルHD CMOSセンサ)、株式会社インタフェース(光通信機器) - トモエゴゼン計画は以下の機関より予算補助を受けています。
日本学術振興会、科学技術振興機構、国立天文台、光・赤外線天文学大学間連携