東京大学木曽観測所トモエゴゼンの観測運用の開始について

東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所が中心となり開発を進めてきた105cmシュミット望遠鏡用の新観測装置トモエゴゼンが完成しました。2019年10月より本格稼働を開始します。

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トモエゴゼンの概要

  トモエゴゼンは短時間に変わりゆく宇宙の姿を探求することを目的とした世界初の天文用広視野動画カメラと人工知能ソフトウエア群からなる観測統合システムです(図1-3)。計1億9,000万画素の高感度CMOSイメージセンサを搭載したトモエゴゼンカメラは20平方度(満月84個分)の広い空を一度に動画で監視でき、1晩の観測で30テラバイト(映画約1万本分)におよぶ宇宙動画ビッグデータを取得します。トモエゴゼンは観測データを即時に解析し過去と比較することで、天体の明るさや位置の変化を高精度にとらえます(図4-10)。


   
(左)図1. 激動の宇宙を研究する意義 (右)図2.変動の時間スケールが1日以下の現象はこれまで十分な探査がなされていない。トモエゴゼンはこの未探査の宇宙の解明に挑む。


   
(左)図3. トモエゴゼンの世界観 (右)図4. トモエゴゼンカメラの概要


   
(左)図5. トモエゴゼンカメラの開発の様子 (右)図6. 完成したトモエゴゼンカメラ


   
(左)図7. トモエゴゼンと世界の代表的な広視野装置との視野の比較 (右)図8. トモエゴゼンカメラの1センサの視野は、満月1個分に相当


   
(左)図9. 移動天体の軌跡の検出例 (右)図10. トモエゴゼンで取得した天の川の動画

  1. 動画データ1(mp4): M27(惑星状星雲) -> アルタイル(ひこ星, 1等星) -> M11(散開星団)
  2. 動画データ2(mp4): 1から南に53分角離れた空
  3. 動画データ3(mp4): 薄雲に覆われながら横断する流星と、たなびく流星痕(こん)

3つの動画ともに、0.5秒露光の連続撮像=動画, 84個のCMOSセンサのうち各1個のセンサによるもの, 5倍速再生。



観測システム

 トモエゴゼンカメラに搭載された高感度大画素CMOSセンサは常温下であっても低い暗電流と読み出しノイズを達成するため、トモエゴゼンカメラは一般的な天文用装置と異なり筐体とセンサを冷却する必要がありません。これによりトモエゴゼンカメラを大型化することが可能になりました(図11)。84個のセンサはシュミット望遠鏡の球面形状の焦点面に沿って高精度に配置されています(図12)。トモエゴゼンカメラは木曽観測所内に設置されたオンサイト計算機群に直結されており、機械学習モデルと最適化アルゴリズムを搭載したソフトウエアにより制御およびデータ解析されます(図13)。トモエゴゼンカメラにより取得される30テラバイト/夜のデータは膨大なため全てを長期に保存できません。そのため取得から7日後に順次消去されます。トモエゴゼンの解析ソフトウエアは観測データが消される前に「魅力的な情報」のみを長期保存用のストレージへ退避させます。各研究者がオンサイトに持ち込む計算機は、この長期保存用ストレージ内のデータに対して再度、魅力的な情報をマイニングします。その中に目的の天文現象を得た場合は、追観測に繋げるために外部へアラートを出します。東京大学柏キャンパスに建設が予定されているデータセンターと木曽広域情報センターの情報網を高速ネットワークで結ぶことで、迅速かつ円滑な情報発信を実現する計画です(図14)。トモエゴゼンは研究者の科学的ニーズを元に自動で観測手順を立案し実行するとともに、刻一刻と変化する気象状況や他望遠鏡による重力波などの突発現象の発見情報を考慮して、観測手順を自動で再最適化します(図15)。


   
(左)図11. CMOSイメージセンサの概要 (右)図12. センサを搭載したカメラ部の概要


   
(左)図13. 木曽観測所オンサイト計算機群の概要 (右)図14. トモエゴゼンで取得したデータの流れ



図15. トモエゴゼンのインテリジェント自動観測システム



空の広域動画観測

 トモエゴゼンは空の全域を1晩に繰り返し動画でスキャンする観測を年間100夜ほど実施する予定です(図16-18)。毎晩の観測データに写り込む約1億個の天体の全ての明るさと位置を監視することで、1秒〜1時間の短時間に変動する天体現象を毎晩13万件以上とらえることができます(図19-22)。このような空の広範囲の大規模な動画探査は過去に例がありません。


   
(左)図16. トモエゴゼンによる空の広域動画観測の概要 (右)図17. 広域動画スキャンの方法。望遠鏡を2x2もしくは2x3のパタンで微動することでセンサ間の隙間を埋める。


   
(左)図18. 広域動画スキャンの例 (右)図19. 広域動画スキャンで取得した1晩分の動画を合成した画像

動画データ(mp4): 広域動画スキャンの様子


   
(左)図20. 広域動画スキャンデータの中から明るさが変動した天体を検出した例 (右)図21. 広域動画スキャンデータの中から空を高速に移動する天体を検出した例



図22. トモエゴゼンのデータの特長



期待される成果

 トモエゴゼンが検出する変動現象の中には、爆発直後の超新星や地球に衝突する恐れのある小惑星など科学的に重要な天体現象が多く含まれることが期待されます(図23-24)。また、重力波望遠鏡カグラと国内最大口径の京大岡山3.8mせいめい望遠鏡と連携した迅速なマルチメッセンジャー観測により、重力波の起源の解明が期待できます (図25)。トモエゴゼンが日々獲得するビッグデータには空で発生するイベントが網羅的に含まれるため、地球高層大気の研究、宇宙機やスペースデブリの状況の把握、リアルデータによる教育・普及など広範囲の分野間連携による過去にないデータ駆動型宇宙科学の展開が期待されます(図26)。


   
(左)図23. トモエゴゼンに期待される科学成果 (右)図24. 期待される科学成果(つづき)


   
(左)図25. カグラ重力波望遠鏡、トモエゴゼン、3.8mせいめい望遠鏡による重力波マルチメッセンジャー観測 (右)図26. 学術情報ネットワークと東大データセンターを用いた宇宙ビッグデータの利活用



図27. トモエゴゼンシステムの概要




参考情報

キヤノン株式会社プレスリリース
”キヤノンの超高感度CMOSセンサーを84台搭載
 東京大学木曽観測所の新観測システム 「トモエゴゼン」が本格稼働を開始”



クレジット

本サイトの画像、動画を使用する場合は「東京大学木曽観測所」と併記してください。
例)画像提供: 東京大学木曽観測所



  • トモエゴゼンは以下の研究機関との共同研究により実現されました。
    東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻、国立天文台、宇宙航空研究開発機構、統計数理研究所、東北大学、京都大学、京都産業大学、甲南大学、神戸大学、日本スペースガード協会、日本流星研究会
  • トモエゴゼンは以下の企業・団体等の協力により実現されました。
    キヤノン株式会社、株式会社インタフェース、沖電線株式会社、システムワークス株式会社、木曽広域情報センター
  • トモエゴゼン計画は以下の機関より予算補助を受けています。
    日本学術振興会科学研究費、科学技術振興機構さきがけ、国立天文台共同開発研究