東京大学木曽観測所トモエゴゼンを用いて
微小地球接近小惑星42天体の発見に成功

2022年7月11日


概要

近年、世界中の掃天観測プロジェクトにより 地球に接近する軌道を持つ地球接近小惑星 (太陽に最も近づく近日点距離が1.3天文単位以下の小惑星)が多数発見されています。 地球接近小惑星は 小惑星探査機がアクセスしやすいという利点をもち、 日本の小惑星探査機はやぶさ、はやぶさ2が探査した小惑星イトカワ、リュウグウは共に 地球接近小惑星です。 また地球へ衝突する軌道をもつ小惑星をいち早く発見し その被害を防ぐという観点からも重要な観測対象です。 地球接近小惑星は地球接近時に見かけ上明るくなるため、 地球に近づくタイミングに観測することができれば よりサイズの小さい微小小惑星の発見できます。 ただし 小惑星が将来どこに存在するかという軌道の不定性を小さくするには 同一天体を複数回観測する必要があります。 微小小惑星は地球接近時の数時間から数日の間しか観測できません。 また地球に近づく時期には見かけの移動速度が大きく、 長時間露光観測では画像上で星像が伸びて検出感度が低下してしまいます。 発見後の微小小惑星に対して迅速な追跡観測を実施することができれば、 微小小惑星の自転状態や組成の推定から微小天体の起源を議論することができます。 しかし前述の観測的困難性から微小小惑星のほとんどは未発見で 自転状態や組成推定に成功した例は限られます。
研究グループではトモエゴゼンが行う毎晩のサーベイ観測データからの地球接近小惑星の探索を行ってきました。 トモエゴゼンのサーベイ観測データから検出した小惑星候補天体の追跡観測を行うことで、 2019年の観測開始から2022年6月までに42個の直径100 m以下の微小小惑星の発見に成功しました(図1)。 42天体には国際天文学連合(IAU)小惑星センター(MPC)より小惑星仮符号が与えられました。 研究グループが発見した小惑星の多くは地球-月間距離の3倍以内の極めて地球近傍を通過する、 従来の観測で見逃されてきた小惑星です。 トモエゴゼンを用いた即時追跡観測を行い、微小小惑星の高速自転を多数検出することにも成功しています。

図1. トモエゴゼンを用いて発見した地球接近小惑星2020 UQ6の検出画像 (1分角×1分角の領域をトリミング)。

発見した小惑星の諸元

天体名
(仮符号)
発見年月日
(日本時間)
可視光等級 直径
(m)
地球再接近距離
(月距離)
軌道長半径
(天文単位)
軌道離心率 軌道傾斜角
(度)
発見者
2019 FA 2019-03-16 16.0 5 0.60 1.34 0.30 1.10 小島悠人
2019 SU10 2019-09-25 16.9 11 1.88 2.57 0.61 16.36 紅山仁
2019 VD3 2019-11-05 16.3 21 2.63 2.45 0.61 1.68 紅山仁
2019 XM2 2019-12-05 16.6 15 2.29 1.20 0.19 32.81 紅山仁
2019 XT2 2019-12-08 16.1 17 1.42 0.93 0.16 13.47 紅山仁
2019 XL3 2019-12-15 15.8 12 1.38 0.87 0.14 23.64 紅山仁
2020 EO 2020-03-12 16.4 21 2.43 1.30 0.25 7.07 紅山仁
2020 FA2 2020-03-08 17.0 10 1.41 1.22 0.22 11.05 紅山仁
2020 GY1 2020-04-05 13.3 15 0.21 1.28 0.41 5.97 紅山仁
2020 HU3 2020-04-21 17.3 20 3.25 1.43 0.30 24.13 紅山仁
2020 HT7 2020-04-21 16.1 13 1.85 1.29 0.22 4.95 紅山仁
2020 PW2 2020-04-27 17.7 5 0.73 1.49 0.37 13.08 紅山仁
2020 QW 2020-08-14 17.5 27 4.60 1.56 0.41 7.84 紅山仁
2020 UQ6 2020-08-17 14.8 93 4.01 2.35 0.76 4.53 紅山仁
2020 VJ1 2020-10-27 15.5 14 1.18 1.34 0.31 32.55 紅山仁
2020 VR1 2020-11-09 17.2 5 0.99 2.06 0.56 12.56 紅山仁
2020 VH5 2020-11-09 16.0 4 0.66 1.94 0.49 4.83 紅山仁
2020 YJ2 2020-11-13 15.7 10 0.89 1.59 0.53 1.71 紅山仁
2020 YO3 2020-12-21 16.1 37 3.25 2.08 0.63 9.48 紅山仁
2021 CC7 2020-12-23 17.1 3 0.84 1.02 0.05 7.03 紅山仁
2021 EP4 2021-02-12 17.4 4 0.97 1.58 0.38 4.98 紅山仁
2021 FA 2021-03-15 15.5 28 1.32 0.93 0.11 22.71 紅山仁
2021 GV4 2021-04-08 16.7 5 0.83 1.73 0.43 1.80 紅山仁
2021 GD5 2021-03-16 17.4 11 3.82 0.99 0.22 36.73 紅山仁
2021 GQ10 2021-04-08 14.6 15 0.45 0.98 0.06 11.90 紅山仁
2021 KN2 2021-05-30 17.9 6 0.38 1.41 0.37 3.77 紅山仁
2021 KO2 2021-04-14 17.3 8 0.97 1.00 0.42 16.83 紅山仁
2021 KQ2 2021-05-31 16.6 3 0.46 0.91 0.11 3.28 紅山仁
2021 TQ3 2021-10-05 16.7 12 1.96 0.79 0.29 12.45 紅山仁
2021 TQ4 2021-10-06 17.1 3 0.99 1.14 0.12 10.64 大澤亮
2021 TR4 2021-10-06 17.0 8 1.96 1.10 0.21 18.24 紅山仁
2021 UB2 2021-10-27 17.0 11 2.45 1.77 0.46 20.97 紅山仁
2021 UF12 2021-10-29 18.2 4 0.63 1.13 0.38 21.55 紅山仁
2021 VV3 2021-11-07 16.1 62 7.27 1.21 0.70 9.24 紅山仁
2022 AB1 2022-01-06 17.2 6 1.58 1.52 0.35 5.88 紅山仁
2022 AR2 2022-01-07 17.5 9 1.68 1.48 0.33 19.03 紅山仁
2022 ET 2022-03-02 17.0 2 0.71 2.11 0.53 2.22 紅山仁
2022 EZ 2022-03-02 17.8 4 1.83 1.53 0.37 11.67 紅山仁
2022 HC 2022-04-19 16.2 30 3.38 1.99 0.61 6.35 紅山仁
2022 JK 2022-05-03 16.1 14 1.07 2.58 0.77 0.97 紅山仁
2022 KK5 2022-05-29 17.0 30 3.48 1.90 0.48 8.22 紅山仁
2022 LJ 2022-06-03 17.7 20 2.28 1.56 0.62 7.56 紅山仁

表1. トモエゴゼンの観測により仮符号が付与された地球接近小惑星一覧。直径は幾何アルベド0.168を仮定して絶対等級から算出した。直径を算出するための絶対等級と軌道要素は 国際天文学連合(IAU)小惑星センタ(MPC)で公開されている2022年6月29日時点の軌道要素 を参照した。 また地球最接近距離は Center for Near Earth Object Studies のデータ を参照した。

本成果の意義と今後について

本研究では トモエゴゼンの広い視野と高速動画観測を組み合わせることにより、 従来観測が困難であった地球の極めて近くを通過する小惑星の発見に成功しました。 トモエゴゼンが発見する小惑星は明るく、追跡観測により小惑星の自転状態や 組成を推定するための良い観測対象です。 追跡観測により微小小惑星の物理特性を明らかにすることは 地球接近小惑星の力学史の解明に繋がると期待できます。




クレジット



本研究は科学研究費助成事業(課題番号:21H04491、20H04617、18H05223、18H01272、18H01261、18K13599、 17H06363、16H06341、16H02158、26247074、25103502)、光・赤外線天文学大学間連携事業、公益財団法人岩垂奨学会、 岩井久雄記念東京奨学育英基金、JST次世代研究者挑戦的研究プログラムJPMJSP2108、UTEC東京大学奨学金の支援を受けました。