仮定 銀河系に対する解析的化学進化のモデルをマゼラン雲に拡張した。以前の著者たち (Russell,Dopita; Tsujimoto et al.; Pilyugin) と異なり、我々は急落する初期 質量関数や選択的な銀河風を仮定しない。というのは、 α 元素の中で酸素のみ が鉄に対して大きな欠損を示し、似た欠損が銀河系超巨星にも見られるからだ。 従って、我々は以前太陽近傍で用いたのと同様の時間遅延と収率を仮定する。我々は 物質降着と非選択的な銀河風を仮定し、さらに長期で滑らかなと短期で激しい星形成を 考慮する。後者の方が年齢 - メタル量関係との一致が良い。われわれは基本的に太陽 組成比を予言し、それは分分散の範囲で観測と一致する。マゼラン雲に対する我々の モデルは Nissen, Schuster が発見した銀河系ハロー特異星に極めて良く合う。 |
モデルと超新星 我々のモデルは、現在のI型超新星のコア陥落型超新星に対する比が 太陽近傍に対して50、25%増加することを予言する。これは Cappellarno et al が Sdm-Im が Sbc 銀河に対しての比に関して発見したこととよく合う。 全然意味不明 しかし、これらの比は仮定の詳細に大きく依存する。 |
LMC と SMC の星形成史 マゼラン雲では星の大部分が 4 Gyr より若いように見える。(Olszewski, Suntzeff, Mateo 1996, Westerlund 1997 ) LMC では 2 - 4 Gyr 昔に星形成率の突然の増加 Elson, Gilmore, Santiago 1997, Geisler et al 1997, があった。それ以前は 一定で低い星形成率, Geha et al 1998, または星団年齢分布から示唆される ギャップ, Da Costa 1991, van den Bergh 1991, とさらにそれ以前の少量の高齢種族の形成が あった。それらの高齢種族は銀河系球状星団と似るが運動は円盤状である。 一方 SMC では、星形成史は LMC より一様である。van den Bergh 1991, Olszewski et al 1996. メタル量と年齢 LMC では数 Gyr 以前の星形成率突然の急増はメタル量が突然上昇したことに現れ ている。それは星団の [Fe/H], Olszewski et al 1996, Geisler et al 1997, にも 惑星状星雲の α 元素, Dopita, Vassiadis, Wood 1997, にも反映されている。 SMC ではデータが少ないが、年齢 2 - 4 Gyr で年令 - メタル量関係に切断の徴候 が見られる。Olszewski et al 1996 によると、 3 Gyr より古い星団と若い星団の比 は LMC では 15 : 100 で、SMC では 5 : 37 で大体等しい。ただ、 LMC では 3 Gyr と 10 Gyr の間にたった一つの星団しか知られていない。そしてこの星団は外から 飛び込んできた星団かも知れないのだ。一方 SMC ではその期間に 3 星団が存在する。 化学進化モデル 同じメタル量 [Fe/H] の星で較べると、マゼラン雲の星は銀河系に較べ Fe/α と Fe/O が高い。これに注意して多くの化学進化モデルが研究された。Gilmore, Wyse 1991 はこの効果を得るには分離した星形成バーストを考え、その間にタイプI超新星からの 鉄供給を挟むとよいと主張した。Russell, Dopita 1992 はマゼラン雲が原始ガスの流入 により滑らかに形成されたと仮定した。彼らはまた、 Fe/α と Fe/O を上げるため IMF を少し急にした。彼らのモデルでは重元素/鉄 比は太陽近傍とあまり変わらないが、 Nd と純粋に r-元素である Eu, Sm は太陽近傍に較べ 0.6 dex 高くなる。彼らの研究は 超巨星や星間物質のような若い天体を扱っており、年齢 - メタル量関係の議論はない。 |
辻本モデル 辻本ら 1995 は Fe/O 比や超新星残骸の数から推定されている高い、SNIa/SNII 比を 説明するため包括的なモデルを考えた。彼らは滑らかな星形成とバーストの二つの モデルを考えた。O から Ni に至る 14 種の元素量にフィットさせて、太陽近傍、 LMC, SMC の3天体に対し、スムーズな(バースト)星形成モデルで、SNIa/ (SNII+SNIb+SNIc) = 0.15, 0.24(0.21), 0.3(0.28), という値を得た。彼らは その原因としてサルピーター的初期質量関数の指数がそれぞれで 1.33, 1.71(1.62), 1.88(1.84) という値をとるためであるとしている。このような急な質量関数は Russell, Dopita 1982 のモデルでも仮定されていた。そして、この急な勾配は マゼラン雲で太陽以下のメタル量を産み出し、比較的もっともな年齢 - メタル量 関係に貢献している。 LMC スターカウント Hill, Madore, Freedman 1994 からはこの急な IMF 勾配は否定も 肯定もされていない。低いメタル量を説明するもう一つの方法はガス降着 Carigi et al 1995 である。この流入が選択的な場合にはスターバーストと Fe/O の 増加を引き起こす。Marconi, Matteucci, Tosi 1994. このようなモデルが Pilyugin 1996 により LMC に対し提案された。かれは、Gilmore, Wyse 1991 が提案したような 閉じたバーストではガス比に対する O の比として、スムーズモデルと同じ値を与える ことを指摘した。ガス比が同じ時に銀河系より低いメタル量を与えるためには何か別 のメカニズムが必要である。IMF が急になるという積極的な証拠がないので、 Pilyugin はスターバーストに付随する選択的な銀河風を考えた。初めに星全体の 8 % を説明する 0.2 Gyr のバーストの後 9 Gyr まで hiatus が続き、主要バーストが開始して 12.5 Gyr (現在の 0.5 Gyr 昔)に終わった。スムーズとバースト(重い星からの放出の 75 % が 飛び散る)のどちらも AMR に合う。これも判らない表現 星風と降着 不幸なことに、[Fe/O] はどの銀河系標準天体をとるかによって影響される。[Fe/O] は 多分マイナスではないだろうが、太陽の代わりに銀河系超新星と較べた時には 強くポジティブとも言えない。そして多くの系統誤差効果を考えると超新星の方がよい 標準天体であろう。α 元素の中で、特に Mg と Ca それに Ti に対しては オフセットはゼロからあまり変わらない。ある種の銀河風は多分存在するだろう。それは 比較的低いマゼラン雲メタル量を説明する。それにまた、我々は 流入の効果に ついてRussell, Dopita や Tsujimoto et al に賛成する。なぜならそれらは、少なくとも スムーズモデルでは「G-矮星問題」の解決に必要だからである。 LMC これらをバックグラウンドとして、太陽近傍と同じ収率と時間遅延を採用し、 降着流と銀河風を加えてマゼラン雲の化学進化を説明可能かどうかを研究することは 意味がある。以前の2論文、Pagel, Tautvaisiene 1995, 1997、では太陽近傍星の 主要元素量を説明する解析モデルを開発してきた。この論文では同じ方法を マゼラン雲に適用する。 |
2.1.一般的な記述これまでの研究Russell,Dopita 1992 や Tsujimoto et al 1995 と同様に我々はマゼラン雲は 原始ガスの緩やかな流入により形成されたと考える。これは高齢で低メタルの星 の割合が小さい時に必ず起きる「G型矮星問題」を解決する助けとなる。Tsujimoto et al と同じように星形成は線形則を仮定し、スムーズ、バーストの双方を調べる。 Pilyugin 1996 と同じように、収率と時間遅延は太陽近傍の値と同じものを採用した。 低メタル量を説明するには銀河風に訴える。銀河風の強さは、 Hartwick 1976 が 銀河系ハローモデルで採用したように、星形成率に比例する。 2.2.定式化基本式
ここに、s は星(+残骸)、g ガス質量、 u = ∫0t ω(t')dt'ここに t は時間、ω は星形成タイムスケールの逆数で スムーズモデルで定数を仮定する。バーストモデルでは ω は或る一定 期間、定数とされ、その間にそれは非連続的に変化する。流入は次のレートで 起こるとする。 f(t) = ω(t) e-u (2) 銀河風は、
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ここに、η = 一定で、ガスと総マスはそれぞれ、次の微分方程式を満たす。
である。式(4), (5) からガスと総質量の進化は以下のようである。 g(u) = [e-u - e-(1+η)u]/η (6) m(u) = [1 - e-(1+η)u]/(1+η) (7) 星の質量 s(u) と ガスの割合 μ は、 s(u) = m(u) - g(u) (8) μ(u) = g(u)/m(u) (9) 即時再生近似を用いて、早期に形成される元素、O, Mg の組成は収率を単位にして、
この式の解は、
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基本式の解 式 (1) - (11) の結果は表1,2の初めの7列に載せてある。図1,2は スムーズモデルとバーストモデルの星形成史を示している。LMC と SMC とで バーストの時期が大雑把には一致しているのはバーストが相互作用の結果生じた ことを暗示している。LMC に関し我々が仮定した η = 1 は Pilyugin 1996 と合っている。現在の星形成率は大体平均値に等しい。これは Westerlund 1997 が Hα 放射から導いた、二つの銀河の現在の星形成率は過去の平均を下回る、 という結論と較べられるべきである。このように、過去 3 Gyr 最後のバーストの 後に我々が仮定した星形成率の降下は、式 (1) で ω 一定と仮定したこと から生じるのだが、かなり現実的なように見える。SMC に適用した最終的なガス 比は Westerlund と一致する。LMC に関しては我々の値は彼が採用した < 8 % より少し大きいが、他の文献で使用されている値とは違わない。 図3は LMC における O, Ne, S, Ar の年齢 - 存在量関係である。これらは 収率= 太陽近傍の 0.7 で、即時形成を仮定して得られた値である。バーストモデル の方がスムーズモデルよりフィットが良い。 時間遅延 時間遅延を伴って放出される元素に対しては遅延形成近似(Pagel 1989) を使う。 これは星形成から決まった時間 Δt 経ってからその元素が放出され、一方 質量放出は星形成と同時であると仮定するものである。この場合、存在量 z2 の変化は次の式で表わされる。
ここにプライムは変数が時間 t の代わりに時間 t - Δ で取られることを 意味する。式 (12) は少しの計算の後、
解 スムーズモデルでは、式(13) の解は、
u > ωΔ (14) バーストモデルでは、t ≤ t1 では ω =ω1, t1 ≤ t ≤ t2 では ω = ω2, t2 ≤ t ≤ t3 = T では ω =ω3 である。T = 14 Gyr は系の年齢である。 ω2 は静謐期を表現して 小さい値である。ω1 は初期のバーストを表わす。すると、式(13)で、 ω' = u' = 0 ( t < Δ) (15) ω' = ω1; u' = ω1(1 - Δ) (Δ≤t≤t1+Δ) (16) ω' = ω2; u' = ω1t 1 + ω2(t - t1 - Δ) (t1+Δ≤t≤t2+Δ) (17) ω' = ω3; u' = ω1t 1 + ω2(t2 - t1) + ω3(t - t2 - Δ) (t2+Δ≤t) (18) 同様に、 u = ω1t, (t < t1) = ω1t1 + ω2(t - t1) (t1 < t < t2) = ω1t1 + ω2(t1 - t2) + ω3(t -t2) (t2 < t) (19) このように、各時間区分内、Δ から t1 (Δ>t1 なら t1 から Δ)、t1(又はΔ) から 、Δ + t1、Δ + t1 から t2、t2 から Δ + t2、Δ + t2 から t3 = T では、ω' = 一定である。そして、式(13) の指数は時間の線形関数である。 (1 + η)u = p + qt, u' = r + st (20) |
![]() 図1. LMC のモデル星形成史。 実線:表1によるバーストモデル。破線: u = 0.18 t のスムーズモデル ![]() 図2. SMC のモデル星形成史。 実線:表2によるバーストモデル。破線: u = 0.115 t のスムーズモデル ![]() 図3. LMC α元素の 年齢 - 存在量関係。線は図1と同じ。 白丸=酸素。黒丸=Ne,S,Ar の平均値。(dopita et al 1997) したがって、式(13) は各時間区分 ta < t < tb ごと に解析的に解け、 z2(tb)(eηub - 1) - z2(ta)(eηua - 1)
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2.3.収率と時間遅延表3は、Pagel, Tautvaisiene 1995, 1997 で仮定した 収率と時間遅延である。 収率は元素ごとに太陽組成を単位としており、表の第1列には時間遅延が Gyr 単位 で与えられている。総量は各時間毎に各元素を足して表1,2、の第7と第11列 に与えられる。図4と図5は LMC, SMC の年齢 - メタル量関係である。これは、Tsujimoto et al 1995 と似ているが、Pilyugin 1996 とは少し異なる。 ![]() 図4.LMC の年齢 - 組成関係。実線=バースト。破線=スムーズモデル。 白丸=Olszewski et al 1991, クロス=Girardi et al 1995, 四角=Geisler et al 1997, 黒丸=de Freitas Pacheco, Barbuy, Idiart 1998 |
![]() ![]() 図5.SMC の年齢 - 組成関係。実線=バースト。破線=スムーズモデル。 白丸=Da Costa 1991, 三角=DaCosta.Hadzidimitriou 1998 クロス=de Freitas Pacheco, Barbuy, Idiart 1998 |
表1,2の最後の7列は各元素の組成である。鉄に対するそれらの元素比が 図6から図11に示されている。主にマゼラン雲超巨星から得たれた観測値は 銀河系超巨星に対して較正された。 しかしこの後はO/Feの比のはなしなどが続くので略。 |
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