ST Imaging Spectrograph (STIS) による M31 中心核の分光観測を報告する。CaII
三重線 (∼ 8500 A) を含むスペクトルは P1, P2 内の赤色巨星しか見えない。
一方、λ ≈ 3600 - 5100 A スペクトルは P2 に埋まった小さな青い
核に敏感である。P2 は K-型スペクトルを持つが、青い核は A-型スペクトル、
すなわち強いバルマー系列、を示す。このように、 P2 の核が青いのは AGN 光の
ためでなく、比較的高温の星が集まっているためである。スペクトルは A0 巨星、
A0 矮星、または 200 Myr 以前に爆発的星形成を起こした星種族で説明できる。
最後の星形成モデルが最もよさそうな説明と思われる。白色矮星ではうまく説明
できない。この核は星構成、サイズ、速度分散の点で P1, P2 と全く異なっている
ので P3 と名付け、M31 の中心核は3重系であると考える。
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P3 の速度は超大質量ブラックホールの周りを廻るケプラー運動と整合する。P3 の
速度分散は回転速度が混ざって観測されたためであり、それは最大で σ =
1183 ±201 km/s である。これは赤い星の同方向での速度分散 σ =
250 km/s に比べるとずっと大きく、銀河で観測された積分速度分散としては
最大である。P3 の回転曲線は中心に関して対称で、半径 0".05 = 0.19 pc で極大
618 ±81 km/s に達する。観測された速度分散は σ =
674 ±95 km/s である。対応する回転速度は 1700 km/s である。したがって、
以前に示唆された P3 位置にある暗黒天体が超質量ブラックホールという仮説が
確認された。
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![]() 図1.(左)CaII スペクトル用の STIS 0".1 スリット位置。背景は Lauer et al 1998 の WFCP2 F555W 像。 (右)青スペクトル用 STIS 0".2 スリット位置。背景は Lauer et al 1998 の WFCP2 F300W 像。 | ||
![]() 図2.(1)図1を時計回りに 185° 回転した二重中心核。図は I + V + 3000 A の合成。Kormendy/Bender 1999 より。赤い波長では P1 の方が P2 より明るい。 P3 は P2 の中に埋もれていて、 I では見えないが UV では P1 より明るい。 (2) V + 3000 A 合成図。等級プロファイルは P1 - P2 ラインに 沿って(上) V-バンド、(下)I-バンド。点=STIS スリット上の明るさ。 (3)P1 - P2 ライン上の速度分散。(4)同じく回転曲線。SIS = Subarcsecond Imaging Spectrograph は CFHT(?) Kormendy/Bender 1999 による。 ![]() 図5.図4と大体同じ。違いは P3 スペクトルを Bruzual/Charlot 2003 の SSP モデルスペクトルと比較したところ。赤い方の連続光は 510 Myr が良く合う。しかし、 バルマー線 Hn (n ≥ 5) の強度がよく合わない。この点はより古い SSP ではもっと 悪くなる。 200 Myr より若い SSP は全体に青く成り過ぎる。バルマー切断が小さすぎる。 ![]() 図7.白色矮星の観測(Kleinmann et al 2004 http://www.sdss.org)及びモデルス ペクトルとの比較。白色矮星はラインが強過ぎ、バルマー切断が弱い。 |
![]() 図3.P1 - P2 カットに沿った表面輝度の変化。青い聖断 P3 と背後の赤い 核 P2 との対比が鮮明である。P3 が 3600 - 3750 A で暗くなるのは強い バルマー低減を受けるからである。左側の2本の破線は背景スペクトルの 導出領域。右側2本の破線の間で図4、5、6の背景除去スペクトルを作った。 ![]() 図4.(上)黒線= P3 中心 0".2 内のスペクトル。重なるバルジ+中心核スペクトルは 除いた。色つき= A0V, A0III, SSP(t=200Myr) の参考スペクトル。 (下)多項式フィットした連続光 cλ で規格化したスペクトル。 ![]() 図6.200 Myr SSP (Z = Zo) の色等級図。総光度を Mv = -5.7 とした。 スペクトルは 10,000 K 星で支配されている。 図は Aparicio/Gallart 2004 の CMD アルゴリズムで作成した。 ![]() 図8.白色矮星 T = 7000, 8000, 10,000, 12,000 K によるフィット。 | |
![]() 図9.左から順に、(1)P1, P2 に重なる P3 の F300W 像、(2)F555W 像強度 を合わせてから引いた F300W 像、(3)PSF をたたみ込みした傾いた円盤像、(4) (2)から(3)を引いた残差。一辺=2".5。図1と同様、北は 55°.7 反時計方向。 | ||
![]() 図10.観測の とその PSF 脱たたみ込み。モデルとそのたたみ込み。 ![]() 図12.P3 モデル、ブラックホールと PLummer モデル、の χ2 変化。 ![]() 図14.シュワルツシルドモデル(1979) との比較。 ![]() 図16. X センター ![]() 図18.星団モデルのトラブルタイムスケール。 |
![]() 図11.上の図は円盤モデルの PSF たたみ込み 0".5 像。(左)P3 表面輝度。 (中)回転速度。分光スリットとビンが重ねてある。(右)速度分散。 赤丸と赤白丸は中心の反対側の観測点。(中)速度分散。(下)回転速度。 (上)破線=ケプラー回転のベストフィット。Mbh = 1.4 × 10 8 Mo。これに PSF をたたみ込み、ピクセルサイズとスリット巾で積分した のが(中)と(下)の点線。 ![]() 図13.シュワルツシルドモデル(1979) との比較。 ![]() 図15.シュワルツシルドモデル(1979) との比較。 ![]() 図17.Plummer モデルの χ2 等高線。 |