A Possible Four-Arm Spiral Pattern in the Galaxy


Henderson
1977 AA 58, 189 - 196




 アブストラクト 

 密度波理論の運動を持つ対称的対数螺旋腕モデルから計算した HI l-v 図を 観測と比較した。最初に銀河系6か所でフィットするモデルを作った。それらは、 可視光観測から選んだペルセウス、カリーナ領域と電波観測から選んだ接点円 上の4領域である。これら6領域はピッチ角 13° の4本腕で良く合う。  腕:腕間密度比= 3 : 1, ストリーミング速度= 7 km/s を仮定して、モデル HI 輝度分布を計算した。それらの l-v 図を電波観測と較べた。その他に二つの モデルも較べた。一つは、二本腕に弱い4本腕モードを付けたモデル、もう一つは 4本腕だが共回転半径= 9 kpc としたものである。


 1.イントロダクション 

 密度波理論が観測とモデルの比較に不可欠 

  Yuan (1969), Burton (1971) は、観測とモデルの比較では、密度波理論が予想するストリーム運動と密度 超過の双方を考慮する必要があることを示した。この論文では、その比較に 6か所を用いる。

 可視の2方向 

 ペルセウス、カリーナ領域の可視データは、アソシエイション、星団、HIIRs で Humphreys 1972, 1976 から採った。データは l = 120 方向でペルセウス腕 までの距離を 2.5 kpc とした。カリーナ腕は同様に l = 290 で r = 3 kpc と なる。この論文では、 3.5 kpc とした。その理由は接点円が l = 290 方向で 3.5 kpc 点を横切るからである。

 腕の接点 

 渦状腕がない場合には、終端速度の点は全て接点円の上にある。ストリー ミングはデータに波状の摂動を加える。その結果、渦状腕が端点円と交差する 付近で dV/dl &som; 0 となる。接点円を空間で固定すると、この dV/dl = 0 の方向が渦状構造の位置を直接に定める。





図1.大きい破線=太陽周円。小さい破線=接点円。 太陽の右上=ペルセウス腕のアソシエイションと星団。 太陽の左下=カリーナ腕のアソシエイションと星団。 黒太線=4つの接点領域。実線=ここで使用した腕。 密度波とストリーミングはサイン関数的を仮定した。





図2. HI の b= 0° 観測 l-v 図。l = [0, 235] はグリーンバンクサーベイ。 l = [235, 360] はパークスサーベイ。

 終端速度曲線のうねり 

 図3は終端速度の変化を示す。速度曲線に摂動が加わっていることが判る。 dV/dl = 0 に近いのは l = [28, 34], [44, 51], [310. 318], [328, 333] である。l = [75,80] と [285, 292] は近傍水素の影響を大きく受けるので 最初の解析では外す。


図3a. l = [0, 90] の接点速度。黒点=一番外側のピークから半分下がった 所の速度。実線=モデル II (対称 4 本腕)

図3b. l = [270, 360] の接点速度。


 2.渦状構造モデル 

 モデルに用いた運動学は、

(i) 対数螺旋を仮定。ピッチ角は固定。

(ii) ストリーミング速度はサイン関数。銀河中心に対して
    VR = -ARcos(χ(R,θ))
    VT = Aθsin(χ(R,θ))

ここに、χ(R,θ) = mΘ - Φ(R) =腕重力ポテンシャルの位相。 m = 腕の本数、Φ(R) =動径位相関数。

モデルデータの作成は Simonson (1976) に倣った。彼は二本腕を仮定したが、 この論文では、腕が事前に選んだ6か所を通過することを強制し、腕本数と ピッチ角はフリーパラメタ―にしたところが異なる。速度振幅は、 AR = Aθ = 8 km/s を仮定した。腕と腕間での 密度比は 3 : 1 とした。

 A. 4本腕の基礎 

 最初は2本腕モデルをあつかったが、6か所を通るモデルは作れなかった。 ピッチ角を倍にして、4本腕モデルを使えば6か所を通るようにできる。 パラメタ―を調整していきベストフィットとして、ピッチ角 13° の 4本腕モデルを得た。
 密度波の形成は共鳴領域で制限されるので、4本腕モードは2本腕に 比べ狭い領域に存在する。Lin et al 1969 によると、

(a) もしシュミット回転曲線を採用し、

(b) 渦状構造が内側リンドブラッド共鳴半径と共回転半径の間に存在、

とするなら、4本腕の存在領域は非常に狭くなる。この問題に対応 するため以下のモデルを考えた。

 B. モデル I. 腕なし 

 腕なし 

  Burton (1971) は HI ラインプロファイルの特徴の幾つかは、ストリーミングに 頼らずに生み出せることを示した。それらは水素の空間分布と、 視線に沿った速度効果から出現するのである。例えば、図2の l = [70, 80] V = 5 km/s の強いピークは視線効果であり、ストリーミングとは関係ない。 真の効果と見かけの効果を区別するため、モデル I では、腕なしとした。

図4.モデル I の l-v 図。腕無し。見える構造は接点効果による 稜線のみである。

 HI の存在域 

 以降のでモデルでは HI の存在域を R = [4, 16] kpc に限る。そこでの 密度は n(R) ∝ (0.21R3-0.81R2+9.0R-22.5) と表す。この場合、極大密度は R = 8.2 kpc に現れる。R < 4 kpc に対応して、l < 23° は扱わない。

 V から n(HI) へ 

 Δr = 10 pc で視線方向の距離を区切り、通常のシュミット回転曲線 を用いて距離 r から視線速度 V へと変換した。得られた視線方向の速度 プロファイルを半値幅 8 km/s の三角関数で平滑化する。最後に柱密度を 光学的深さに直す。

 モデル I の特徴 

 図4にモデル I の結果を示す。l = [70, 80] の接点効果による強い ピーク以外に目立った特徴はない。したがって、以降現れる構造は全て、 腕に付随すると考える。



図5.モデル II = 4本対数螺旋腕。図2の全体パターンを再現する。 R > 10 kpc 、つまり V ≤ 0 (l = [0,180]), V &l\ge; 0 (l = [180,360]) での一致に注目。 R < 10 kpc では それほど良く合わない。

 C. モデル II. 4本対数螺旋腕 

 フィットパラメタ― 

 4本腕、ピッチ角 13°、太陽領域の位相 160°、ストリーミング 振幅 7 km/s のモデルが一番良く合う。最終的に決まった接点速度 VT の銀経変化は図3に示した。シュミット回転曲線を使ったので、北銀河の方が 南銀河より観測に良く合う。それにも拘らず、図3で電波4接点の銀経はよく 再現されている。ただし、可視データから決めた l = 290 の辺りは一致が悪い。

 カリーナループ 

 図5にモデル l-v 図を示す。図中カリーナ腕は l = 300° で V = 200 km/s まで伸びるループを形成する。このループは図2(観測)にもはっきり 見える。したがって、図3の接点速度データはこの構造を隠しているが、図2 に構造が現れたということである。

 図6で理解せよ 

 外側銀河系、つまり V ≤ 0 (l = [0,180]), V &l\ge; 0 (l = [180,360]) では4本腕モデルは観測を良く再現している。その理解を助ける目的で図6を 作った。カリーナ腕が作る l = 300 付近のループと l = 240 - 270 で 何の構造も見えないことに注意して欲しい。

図6.モデル II l-v 図の解説図。この図は Weaver et al (1969) が 広めた手法で腕の位置を追跡

 カリーナ腕の対応腕が l = 20  

 カリーナループは図2にはっきり見える。これは、腕が太陽周円を l = 290 で交差していることを示す。簡単な幾何学から、銀河系の向こう側 l = 20 でカリーナ腕と対称な腕が太陽周円と交差する。これも図2に見える。 データには l = 65 から発生する別の腕が見える。
(どれのことか分からない。 )
外側銀河系では2本腕が成り立たないことは明らかである。図5に示すように 他の構造も4本腕と合う。面白いのは、主に内側銀河系の観測特徴を説明する ために導入した4本腕モデルが却って外側銀河系を上手く説明している。

 モデル II の失敗 

 内側銀河系はそれほどはっきりしない。実際二つの領域が再現されていない。

(a) l = 70 の構造。モデル I には見えていた。モデル II ではストリーミン グが消し去っている。

(b) l = 300, V = -25 km/s の非常に強いピークも図5にはない。

 局所リング? 

 図2には l = [90, 180] での V = -10 km/s, l = [180, 270] で V = 20 km/s の尾根が見える。我々はこれは近傍水素の判断した。なぜならこの 極大は b = 30° を越えても見えるからである。Burton, Bania 1974 は 銀河円盤の上下に見える特徴が局所ストリームで説明できることを示した。 しかし、我々は円盤内の構造を扱っており、太陽が大きな水素密度の中に いることを要求する。我々は半径 300 pc, 厚さ 100 pc のリング内に 太陽が存在するとした。



図7.モデル III = 2本腕 + 弱い4本腕。4本の内2本は二本腕 に重なる。このモデルは観測の図2に対し、モデル II ほどよくフィット しない。特に R > 10 kpc でそうである。

 D. モデル III. 非対称4本対数螺旋腕  

 モデル III は二本の強い腕+2本の弱い腕である。図3a, b を見ると、 l = 30 のストリーミングは l = 330 のより強く、また l = 310 の ストリーミングは l = 50 より 強い。これが非対称腕の正当性の根拠である。 この現象をストリーミング速度を以下のようにして表現する。

   VR = -A cos(χ) - B cos(2χ)

   VT = A sin(χ) + B cos(2χ)

モデル III では A = B とした。密度変化はストリーミングに追随して 変化する。モデル II での密度は (2 + cosχ)の形で変化したので 密度の変動は 3 : 1 になった。モデル III では密度変化は [2+(1/2)(cosχ+cos2χ)] なので、強い腕では密度比 3 : 1 だが、弱い腕=サジタリウス・カリーナ腕では僅かな変動しか得られない。 A = B の仮定は、4本腕モードをかなり保存することになるが、それでも 外部銀河系における等高線はモデル II に比べると不鮮明になる。 モデル II で問題となった l = 70, 300 の領域はやや改善された。しかし、 全体としては、モデル II の方がましに見える。しかし、この判断は 外側のフィットに重みが掛かっている。内側銀河系で二本腕が卓越し、 外側に行くにつれ4本腕モードに移行する可能性もある。

図8.モデル IV = 4本腕。共回転半径= 9 kpc. 多くの点で、 図5と似る。違いは (a) V = 0 km/s 付近でストリーミング運動が消える。 外側銀河で構造が少しずれる。

 E. モデル IV. 共回転半径が内側  

 ここまでのモデルはパターン速度がガス回転速度より小さいと仮定していた。 そこでは、共回転が起きるのは、水素が観測できる境界の外側になる。 以前に、4本腕モードの範囲は狭いと述べた。したがって、もしそのような モードを存在させるためには、共回転は外側の縁より十分内側になければ ならない。
(ここんとこ不明 )
 Lin, Yuan, Shu (1969) はシュミット回転曲線を用いると、4本腕モード の存在域が破壊的に小さくなることを示した。データを満足させる別の回転 曲線が可能でなければならないし、実際そうである。

(a) 内側のシュミット曲線は北銀河データに基づいている。南銀河データにも 合うように曲線を下げると、4本腕モードの許容域が内側に伸びる。
(b) シュミット曲線は、速度 Θ = ωR が単調に減少すると 仮定している。しかし、 M 31 では距離大で速度は殆ど変らない。 我々の銀河系でも、 R > 11.5 kpc で回転速度がシュミット曲線より 大きいことが Humphreys 1970 (超巨星)や Balona, Feast 1974 (OB 星), Georgelin 1975 (HIIRs)により示されている。

 それでも許容範囲は狭い。もし、R = 4 kpc を内側共鳴半径とすると、 4本腕モードの共回転半径は多分 R = 8 - 12 kpc 程度である。この理由で モデル IV でも共回転半径をその範囲内の 9 kpc にした。 その内側では、 AR, Aθ は前と同じである。 それらは共回転半径でゼロになり、その先では符号を変える。 それを表現するのに振幅がサイン関数的に変化し、 R = 9 kpc で AR が符号を変え、Aθ は同じ符号になるようにした。 ただし、シュミット曲線はそのままとする。 その結果、図8を得た。モデル IV は外側銀河系でモデル II と差が出るが、 内側銀河系では l = 70, 300 でモデル I と似る。これはストリーミングが 弱くなったからである。


 3.結論 

 当てが外れた 

 接点円周状にストリーミング運動が現れている方向を再現するために4本腕 モデルを作った。データを最もよく再現したのは期待した内側でなく、 外側銀河系であった。この領域には4本腕の存在が明らかである。
(どこを見ると4本と分かるのかが 結局分からない。 )
モデル IV から、この方法では外側銀河におけるストリーミングの方向を 区別できないと分かった。つまり、パターン速度はガス速度より遅い必要は なく、また共回転の存在で l-v 図の様子が大きく変わることもない。

 太陽の位相 

 4本腕モデルでは、太陽の位置はカリーナ腕とペルセウス腕の位相 160° の所にある。これは、 Burton, Bania 1974 の結果と一致する。
 モデル II はかなり良い 

 内側銀河系の HI データの様子は予想されるように、幾分か千切れ千切れ であり、滑らかな分布を想定するモデルでは十分な記述が難しい。 それでも、図2(観測)と図5(モデル II)の一致は良い。大きな差は l = 70, 80, 300 である。

 近傍ガス 

 近傍ガスの成分を Lindblad (1967), Lindblad (1973) は A と名付け、膨張リングと解釈した。一方、 Burton, Bania 1974 は近傍のストリーミングが原因とした。 我々は後者を採用した。