Composition of the Galactic Center Star Cluster
Population Analysis from Adaptive Optics Narrow Band Spectral Energy Distribution


Buchholz, Schodel, Eckart
2009 AA 499, 483 - 501




 アブストラクト

 狭帯フィルターを用いて、混んだ星団中で晩期型星と早期型星を分離する新しい方法を 開発した。それを銀河系中心核星団に適用し、この領域の種族解析を行った。 観測は AO 支援の VLT/H+ K バンド内 7 狭帯フィルター撮像である。CO 吸収を早期型 と晩期型の分離に用いた。
 その結果、中心パーセク領域で、K < 15.5 の K-型より晩期の巨星と B2-型より 早期の主系列星を分類できた。以前の分光法が K = 13 - 14 等までだったのに比べると、 観測が深く、短時間で済むようになった。極端に赤い天体と前景星も除去できた。 スペクトル分類が既知の星と比較すると、今回の方法は信頼度 87 % である。早期型星は 312/5914 星であった。
 K-光度関数の形、晩期型星、早期型星の空間分布は以前の結果を 確認した。早期型星の分布はべき乗則、β1″ = -1.49±0.12, β1″-10″ = -1.08±0.12, β10″-20″ = -3.46±0.58 で表される。今回初めて 0.5 pc より遠くに多数の早期型星候補を発見した。晩期型星 分布は内側 6″ で反転し、β<6″ = +0.17±0.09 である。晩期型星の K-光度関数はべき指数 0.30±0.01 を持ち、バルジと近い。 早期型星の K-光度関数はべき指数 0.14±0.02 でもっと平坦である。これらは 現地星形成シナリオに合致する。


 1.イントロ 

 星の密度分布 
 巨大ブラックホール周囲の投影星分布は "a broken power law" で記述される。 折れ曲がり半径 "break radius" Rbreak = 6″.0±1″.0, 折れ曲がり半径の内側でべき乗指数 Γ = 0.19±0.05, 折れ曲がり半径の外側でべき乗指数 Γ = 0.75±0.10 となる。(Schodel et al 2007) 銀河中心距離 Ro = 8.0 kpc とする。

 星の種族構成 
 Allen et al 1990, Sellgren et al 1990, Haller et al 1996 は CO 吸収が Sgr A* に向けて低下することを発見した。その説明として、
(1)中心数パーセクで晩期型星の数が少ない。
(2)明るい早期型星の数が多い。
が考えられるが、 AO 支援観測から実際に早期型星の数が多く、晩期型星の比率が低下 していること (Genzel et al 2003, Lu et al 2009) が示された。その理由として、 星の衝突が巨星の希薄な大気を剥ぎ取るのではないかという説が提唱された。 (Davies et al 1991, Dale et al 2008)

 他のタイプの星 
 他のタイプの星が中心パーセクで検出されている。中心数秒角の外側では、古い ( 1 - 10 × 109 yrs) 高メタル M, K, G 型巨星が見える星の多くを占める。レッド クランプ星も見える。しかしそれらは Maness et al 2007 まで詳しい議論がなかった。

 明るい K = 10 - 12 mag AGB 星 
 1億年以上前の星形成の結果、多数の明るい K = 10 - 12 mag AGB 星が存在する。これらは 晩期型巨星と違い HO 吸収帯を持つ。IRS 7 のような超巨星も中心パーセクに存在する。

吸収帯を持たないが非常に赤い天体 
 IRS 1W, IRS 3, IRS 9, IRS 10W, IRS 21 は吸収帯を持たないが非常に赤い天体である。 それらは多く、ミニスパイラルに付随する。おそらく、若い大質量星が大量の質量を放出 して、バウショックを形成している姿であろう。

 若く高温の星 
 中心 0.5 pc には別種の星がいる:大質量の若い星で 3 - 7 Myr 前の星形成バーストで 作られた。それらは IRS 16 や IRS 13 アソシエイションに発見される。それらの内 最も明るい星は O 型超巨星から WR-星への渡過段階に WN9/Ofpe 星と考えられ高い質量 放出を示す。これ等の星は中心パーセクからの光度の大部分を担い、かつこの領域の 電離輻射の約半分に寄与している。最近 Muzic et al 2008 は IRS 13 の北にある同じ 方向に運動する極度に赤い星の一団を発見した。それらはさらに若い星の可能性がある。
 16 - 20 Mo の多数の OB-星 
 これら最も大質量の早期型星を別として、 M = 16 - 20 Mo の多数の OB-星が 報告されている。中心 0.5 pc 領域内の早期型星の少なくとも 50 % は時計回りに廻る 円盤内にある。この円盤は Levin,Beloborodov 2003 が最初に見つけた。後に Genzel et al 2003, Paumard et al 2006 は第2の逆時計回りの円盤の存在を主張した。しかし、 Lu et al 2009 による個々の星の軌道をフィットする詳細な研究の結果、一つの円盤に属する 星とでたらめな方向に運動する星がほぼ半々であることが判った。ただし、 Bartko et al 2009 はやはり逆時計回りの構造があり、それは分解しつつあるワープした第2円盤では ないかと言っている。

 S-stars 
 Sgr A* のすぐ近くには別種の星の集団がある。それは早期 B-型星からなる小さな星団 を形成しているように見える。それらは "S-stars" と呼ばれ、Sgr A* を巡る閉じた軌道 で運動しており、その速度は数千 km/s に達する。軌道の最短中心距離は数光日まで接近 する。それらの星の軌道運動はブラックホール質量と銀河中心距離の決定に用いられる。

 銀河中心付近での星形成 
 銀河中心付近での星形成には二つのシナリオがある。
(1)大きな星間雲が落下してきて冷却し、重力的に不安定な円盤を形成する。その 円盤の分裂により星が形成される。
(2)銀河中心領域は強い潮汐力や輻射場のため星形成に敵対的な環境である。その 外側で作られた星団が、高い恒星密度で恒星小集団にかかるダイナミカルフリクション の結果、数百万年の間に中心領域に輸送されてくる。
ただ、最近のデータは現場での星形成に有利なようである。

"S stars" 問題 
 Sgr A* のごく近くに存在する S stars に対しては、"paradox of youth" 問題 (Ghez et al 2003) が存在する。これらの星の存在に対しても、(1)衝突による形成、と (2)相互作用する巨星、の2説があるがどちらも十分ではない。

 分光観測 
 中心パーセク星種族の詳細な分光研究は、最内側数秒角領域と、外側星団領域での 数秒角平方でなされたに過ぎない。そこでの最大の障害は恒星面密度が高過ぎて、 高い空間分解能が必要とされることである。面分光(integral field spectroscopy) の 視野は、 0.8″×0.8″ の分解能を要求すると、 3″×3″ しか得られない (SINFONI)。

 測光法による恒星分類 
 この論文では中心パーセク領域にある数千の星を早期型か晩期型かに分類する方法を 研究する。


 2.観測とデータ整約 

 2.1.観測 

 観測は表1に示すように、 NAOS-KONICA(NACO)/VLT で H-フィルターと 7 種の 中間帯域フィルターを使って行われた。タイプ分類には少なくとも吸収帯深度より 良い精度で測光を行う必要がある。その際問題になるのは、ストレール比 (Strehl ratio) が図1に見られるように、ガイド星から離れると低下することである。


表1.観測ログと使用フィルター
図1では、ストレール比が距離と共に低下する傾向が明らかである。これは PSF 測光 で問題となる。アパーチャ測光ならストレール比はあまり問題にならないが、星の混在 が障害となる。


図1.PSF が理想形からどのくらい離れているかの指標 strehl ratio の ガイド星からの距離による変化。


 2.2.測光  

 測光のために2段階の逆畳込み(deconvolution)を行う。通常逆畳み込みは PSF がよく 定義され一様である場合に有効である。2段階逆畳み込みは Schodel et al in preparation に詳しい。全 8 フィルターで検出された天体は統合カタログに載せた。この数は測光精度が 最も低いフィルターで制限され、5914 星で、Ks ≤ 16 の星はほぼ全てある。

 2.3.第1較正 

 第1較正星 
 表3と図3には 11 個の既知 OB-星を載せた。分類には Plaumard et al 2006 の 90 個のパーセク領域早期型星観測を用いた。このタイプの星は 2.058 μm He I 輝線 があるが、測光には響かない。固有スペクトルはほぼ 30,000 K 黒体輻射に近い。赤外 ではこれはレーリージーンズ型で、温度依存性は非常に少ない。

 減光 
 個々星の減光は Schodel et al. 2010 の減光マップから採り、Draine 1989 の λ-1.75 減光則を用いて 各フィルター毎の減光を計算した。他の減光則、例えば λ-2.0 ( Nishiyama et al. 2008 ) を使うと、0.5 等くらい 変わる。しかし、星の分類には影響しない。


表2.第1較正用の星。
 赤化黒体輻射  
 各フィルターの透過率と減光黒体輻射の掛け算から8バンドSEDを作った。 この理論的SEDを各フィルターバンド毎の較正星の測光カウントと比較して、 計測カウントから等級への較正係数が求まる。大気吸収帯の影響は観測星にも 較正星にも同じに起きるから、この方法ではその補正は要らない。  2.24 μm フィルターの等級を Ks 等級として扱う。

 意味不明 
 magext = 何だろう? magKs = 観測された 2.24 μm 等級、 AKs = 個々星について測られた減光、Aavg = 3.3 mag は 中心パーセクの平均 Ks 減光 として、次の式が成立する。
     magext = magKs - AKs + Aavg

( 上式の意味が分からない。)


  HB/RC 星 
 こうして第1較正ができた。較正星から離れると補正したスペクトルに系統的な ずれが生じる。スペクトル型が既知の星は Sgr A* から離れるとなくなってしまう ので、中心パーセク全体に渡る較正ができない。そこで、 14.5 < K < 15.5 の晩期型星は全て HB/RC 星と看做すことにした。


図2.第1較正用の星。図の数字は表2と共通。



図3.連続スペクトルを基準 SED に変換する。左上:K4.5 巨星スペクトル。十字=8バンド SED.AKs=3.3 を仮定。右上:B0 主系列星。AKs=3.3。 左下:IB フィルター透過曲線。右下:K4.5III(赤) と B0V(緑) SED に H バンド点を追加。



図4.銀河中心で予期される晩期型星の K-バンドスペクトル。十字=対応する 8 バンド SED. 緑実線=減光を受けた黒体輻射。G-型星の CO バンドヘッドが深くなく、SEDをあまり 変化させないことに注意。

 2.3.COバンド強度 

 SED の へこみ 
 図4には CO 吸収帯で 8 点 SED で、2.24 μm < λ がへこむ様子が 示されている。一般にはこのへこみを晩期型星の特徴として使える。我々は CO バンドヘッドが輝線帯として現れる YSO は考慮しない。

 へこみ判定法 
 λ < 2.27 μm の 5 点を 減光黒体輻射でフィットする。続いて、 初めの5点を フィットした減光黒体輻射で置き換えて、SED 全体を 3 次式でフィットする。一見すると、 H-バンドと 2.24 μm のような吸収帯の影響を受けないフィルターを使ってフィットした 方がよいのではないかと思える。しかし、銀河中心方向の減光は激しい空間変動を示し、 AO 性能や、Strelh 比などが観測フラックスの精度に影響する。それで、フィットフィルター の数を増やす方が安全なのである。
中間帯バンドの使用 
 将来は 2,12 μm 中間帯域フィルターを使いたい。この波長で採ったデータは 低い Strehl 比のため測光精度が低い。2.18 μm バンドはミニスパイラルからの Brγ の汚染が強く薦められない。

 その他のフィルター 
 早期型星のために Brγ フィルター、晩期型星用に 2.20 μm Na I フィルターを使う手もある。しかしそのためには非常に注意深い背景差引を 行って、ミニスパイラルの影響を除去しなければならない。

 CO 吸収帯の強度指標 
 減光黒体輻射も3次式も、その形は減光により影響される。しかし、それら二つの フィット式の 2.36 μm における外挿値の差は減光にはほとんど影響されない。 そこで、この値を CO 吸収帯の強度指標に用いる。




図.

  

 
 

 
 

 
 

 

 
 

 
 




図.

  

 
 

 
 

 
 

 

 
 

 
 




図.

  

 
 

 
 

 
 

 

 
 

 
 




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図.

  

 
 

 
 

 
 

 

 
 

 
 




図.

  

 
 

 
 

 
 

 

 
 

 
 




図.

  

 
 

 
 

 
 

 

 
 

 
 




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