44. Progress Report on the Carina Spiral Feature


Bok, Hine, Miller
1970 IAU Symp. 38, 246 - 261




 アブストラクト

 腕の縁と接点 
 カリーナ・ケンタウルス区域 l = [265, 305] における、 O-, B-型星、HIIR, HI, ダストの分布に関するデータをまとめた。公表データに UBV 光電測光と 新しい写真画像も加えた。結果は図9と図10にまとめた。カリーナ渦状構造は l = 282 で、また l = 295 で鋭く区切られている。その距離は 1.5 kpc - 6 kpc である。その外側縁は太陽から 8 kpc の所でほぼ接点方向となる。腕構造は 距離 9 - 10 kpc の所で曲がっている。この特徴は HI, 電波 HII データにも 現れている。

 天体の分布データ 
 図9に現在の分布データを天体タイプ毎に図示した。O-, B-型星と HIIR は 密接に関連していて、r < 6 kpc では l = [285, 295] に集中している。 HI はその両側にはみ出て分布している。長周期セファイドは O-, B-型星、 HIIR と類似の集中を示す。
星間減光 
 l = [282, 295] 方向の星間減光は,r = 4 - 5 kpc で 0.5 mag/ kpc である。 しかし、カリーナ腕構造の外側ではもっと強い減光が観測されている。 l = [265, 280] では r = 2 kpc で Av = 3.5 mag の減光が観測されている。 r = 4 kpc ではさらに強い減光が示唆されている。このようにカリーナ腕構造の 外側で減光が強いのは一般的な現象のようである。弱い減光は腕構造の内側 でのみ見られる。

 ピーク巾 
 図10には O-, B-型星と HIIR のピーク巾 = 0.8 kpc で、 距離 4 kpc で 12° であることを示している。一方 HI は 8° で 巾 0.6 kpc である。


 1.プレアンブル 

 可視渦状腕の発見 

 Baade, Mayall 1951 は銀河の腕に沿って放射星雲と O-、早期 B-型星が 並んでいることを発見した。 Morgan, Sharples, Osterbrock 1952 は同種の天体を天の川銀河で追跡し、腕の存在を発見した。その後、それらは ペルセウス腕、オリオン腕、サジタリウス腕と名付けられた。そのピッチ角は 約 25° であった。

 電波渦状腕 

 Ewen, Purcell 1951 は HI 21 cm ラインを発見した。ライデン・シドニー 観測の結果は Morgan, Sharples, Osterbrock 1952 の論文の直後に公表された。 しかし、電波腕のピッチ腕は 5 - 6° であった。

 Bok の提案 

 この矛盾を解決するため、 Bok 1959 は、カリーナの腕構造はサジタリウス腕とは別の腕で、太陽を通過して白鳥座 腕につながると提案した。その場合、オリオン腕は二次的な構造で枝腕と看做さ れる。カリーナ・シグナス腕のピッチ角は電波腕のピッチ角と同じで矛盾が 解消される。
O-, B-型星、 HIIR の集中 

 Becker 1956 と Bok (1956) はカリーナ領域、r = 1 - 4 kpc に O-, B-型星が集中していることを見出した。 Graham 1970 は O-, B-星がカリーナ方向 8 - 10 kpc まで伸びていることを発見 した。Hoffeit 1953, Rodgers et al 1960a の HII 電波カタログはこの領域に 放射星雲が多数存在することを示している。Wilson (1969) による水素再結合線 109α の観測は可視 HIIR のみでなく、可視では観測不能の遠方 HIIR の運動距離を与えた。その結果、HIIR がカリーナ腕に沿って r = 8 - 9 kpc まで接線方向に並び、r = 9 - 10 kpc で曲がることがわかった。

 セファイドによるカリーナ腕の追尾 

  Fernie (1968) は l = [280, 290] のセファイドが r = 10 kpc まで分布していることを 見出した。彼の図2にはカリーナ腕が綺麗に現れている。

 カリーナ腕の断面図 

 我々は OB-星、放射星雲、 HI, ダストの分布から様々な距離でカリーナ腕 の断面図を作る研究に着手した。その結果は次の9枚の図にまとめた。


 図1.カリーナにおける可視 HIIR の分布。  


図1.カリーナにおける可視 HIIR の分布。点線=Rodgers et al 1960 のリスト による可視 HIIR の範囲。特に明るい3つの星雲、カリーナ星雲、IC2944、 一等星である二重星 α Cru の位置が示されている。HIIR の大きさは =Rodgers et al 1960 のリストに従った。 RCW 54 l = [289, 291] は縁が はっきりしないので、中にある4つの集中を示した。可視 HIIR が l = [282. 291] に存在し、その外には殆ど見当たらないことが判る。また HIIR の分布が 銀河面南側に片寄っていることにも注意せよ。RCW 59 のみは北側にあるが、 銀緯が高いことから比較的近い天体であろう。その距離は多分 1.7 kpc である。

 図2.電波 HIIR の分布。  


図2.電波 HIIR の分布。実線= Hill 1968 による 1410 MHz 連続波源。星印 = Wilson の HII 109α ライン源。非熱的電波源は示していない。可視と 同じく、電波 HIIR も l = [282, 295] の南側に集中している。l = [298, 299] にある二つの電波源は非常に遠い。それらはもっと近い [282, 295] 集中とは 違う。

 図3.可視と電波 HIIR 分布を一緒に  


図3.可視と電波 HIIR 分布を一緒にプロットした。l = [298, 299] の電波源 には可視対応天体がない。しかし、その運動距離が 11 - 12 kpc であることを 考えると無理もない。l = [298, 299] を除くと [295, 302] の天体密度は低い。 Hills 1968 の 1410 MHz 観測によると、このギャップは l = 305 まで伸びて いる。放射星雲の欠如はこの方向が腕間空間であることを示唆する。腕の反対 側では、 Mathewson et al 1962 の 1440 MHz 観測は l = [265, 282] には r = 10 kpc まで HIIR は一つもないことを示している。

 図4.OB-星の分布  


図4.Graham-Lynga 1965, Lynga 1968a, Klare, Szeidl 1966 の OB-星カタログ。 限界等級は 11 - 12 mag である。(1)l = [284.5, 291] に集中ピーク。 (2)第2ピークが IC 2844 (l, b) = (295, -1.5) 付近。(3)ダスト雲 の証拠が (l, b) = (292, -1.5) にある。(4)l = 296 付近で銀緯正にも 少数の OB-星があるが、それでも負銀緯側が多い。

 図5.HI, HII 109α 源の分布 


図5.Kerr, Hindman 1969 の HI 源と Wilson 1969 HII 109α 源の 分布。運動距離には Schmidt 1965 の回転曲線を用いた。l = [270, 295] での 距離分解能は低い。また太陽円内では運動距離の二重性が出てくる。そこで カリーナ腕の追跡には r < 5 kpc の HI データは用いない。 5 kpc より 先では回転曲線から計算される視線速度はゼロより大きくなり、距離が一意に 決まる。図中の黒点= r < 5 kpc の HI 源。実線= HI 腕。r < 5 kpc でも可視 HIIR と位置同定できる 109α 源は運動距離でプロットした。 l = [270, 282] には HII 109α 源が存在しない。 l = 282 の天体は 運動距離 7 kpc で Rodgers et al 2960a の微かな天体 RCW 46 近くにある。 こうして決めると、 l = [285, 295] では太陽に近い天体と非常に遠い天体 に分かれる。l > 295 には可視 HIIR がない。l = 298 には非常に遠い (11 - 12 kpc) 電波 HIIR がある。l = 305 では明るい可視 HIIR が強い HII 109α 源と同位置に見える。この銀経では多分サジタリウス腕の 外側縁が見えてきているのだろう。結論として、 HII 109α データから カリーナ腕が l = [282, 295] に囲われていて、ただ非常に遠い r > 10 kpc の HII 源が l = [295, 305] に見える。 l = 305 ではさらに内側の腕 に接触する。

 図6.若い星団と可視 HIIR の分布。  


図6.可視 HIIR 距離は Sher 1965 と幾つか Coutres et al 1968 から採った。 Rodgers et al 1960 には l = [270, 282] に可視 HIIR がないが、電波データ によるとこの欠落は本当で、吸収のためではない。 RCW カタログの最も目立つ 天体は l = [285, 295]、r = 2 - 4 kpc に分布している。これ等の天体は r < 5 kpc でカリーナ腕を定義するのに役立つ。
こうして、腕全体を描くと明るい HIIR が HI で定義されるカリーナ腕の内側に 位置することが明らかになる。もし


 図7.OB-星の分布  


図7.OB-星の距離は赤化補正を加えてある。色超過 E(B-V) の算出には Schmidt-Kaler 1965 の固有カラーを用いた。 R = 3 を仮定した。 光度クラスは文献から採った。それがない星はクラス V を仮定した。 図からカリーナ腕の外側縁が l = 285, 内側縁が l = 295 にあると言える。

 図8.カリーナ・ケンタウルスの吸収  


図8.高い吸収値が l = [275, 280] に、低い領域が [282, 305] に見られる。 低吸収域では 0.5 mag/kpc である。このように低いので [282, 305] では 6 - 8 kpc の遠方まで可視で星が観測できる。最も吸収が強いのは [265, 275] であり、 4 kpc までしか可視観測が及ばない。ここはカリーナ腕の丁度外側で あることに注意しておく。

 図9. 天体の銀経分布 


図9.天体の銀経分布を並べた。可視 HIIR 分布のピークが [285, 290] にあり、一番上にある OB-星のピークと一致する。 HII 109α の強度 で重みを付けた分布もまた [285, 290] にピークを示す。

 2.結論とお薦め 

 2.A.結論 

 天体分布の特徴 

 OB-星と HIIR 分布は l = [283, 295] に鋭い腕構造を示す。これは Graham 1970 の l = 285 に OB-星の直線状鋭い縁が 3 - 9 kpc に亘って存在 するという発見と一致する。HIIR は OB-星と同じ分布を示す。一方 HI は HII の集中域の両脇にはみ出ている。とくに r < 4 kpc でそうである。 古典セファイドは OB-星と全く同じ分布を示す。これは Fernie 1968 の図2に 明らかである。吸収物質は腕の縁 l = 283 の外側にピークを持ち、l = [265, 275] で非常に強い。

 腕の巾 

 図10にも示したように HI は HII よりも幅が広い分布を示す。 r = 4 kpc で HIIR,OB-星の巾は 800 pc である。 HI はその倍の巾 1.5 kpc を示す。

 2.B.推薦 



(f) 長周期セファイド 

 データの非一様性のため、はっきりした結論が出しにくい。 Kraft 1965 が  "Galactic Structure" の中で強調したように、長周期セファイドは腕追尾天体と して非常に有望である。

図10.1969 時点でのカリーナ腕のスケッチ