アブストラクト楕円体の巨星の色等級図は B = 19 より明るい等級域でのカラー分布を 決めるのに重要である。水がめ座領域 l = 36°.5, b = -51°.1 での 391 星の観測と標準モデルのカラー分布を比べてこの重要性を示した。この 等級帯では楕円体の 80 % 以上、全ての星の 40 % 以上が巨星と考えられる。 観測からは楕円体水平枝の青い端はあまり星がいない。もし楕円体 の色等級図を M3, M13, M92 のどの球状星団でもいいから、それと同じと 仮定した時の予想値と比べると観測値は 1/10 以下である。カラーの総分散 = 測定エラー + 固有分散 は B-V の標準偏差で 0.2 等以下である。 |
1.イントロこの論文では楕円体巨星、ここでは巨星と準巨星をまとめてそう呼ぶ、の色 等級図がカラー分布にどう影響するかを調べる。ここで考察される特徴は 比較的容易に到達される B = 19 等までの星計測で現れる。現在多くの観測所 で沢山のプログラムが走っており、種族II星の色等級図は銀河構造と銀河形成 に情報を提供するものである。 |
観測領域=水がめ座 水がめ座の星間吸収の弱い領域 0.31 deg2 を Morton, Tritton が B = 20 mag まで観測した。観測領域は SAO 164854 α = 22h03m, δ = -18° 54'.7 (1950) を中心としている。銀河座標では l = 36°.5, b = -51°.1 である。この領域は Savage, Bolton 1979 が初めに観測し、 UV 超過天体と輝線 QSO の表面密度を求めた所である。 データ整約 写真観測は UK シュミットと AAT で行われ、 COSMOS により測定された。 B = 19.6 までの光電測光が行われ較正に使用された。測定エラーは B, V で 0.1 等、B-V で 0.14 等である。観測は B = 19 まで完全と考えられる。そこまでの 星数は 391 個である。 カラー分布 図1a には B = 19 より明るい星のカラー分布を示す。 |
![]() 図1(a). Tritton, Morton 1983 による B ≤ 19.0 星のカラー分布。 |
標準モデルでカラー分布を計算 楕円体光度関数と球状星団色等級図を組み合わせて、銀河系標準モデルでの カラー分布を計算し、観測と比べた。 色等級図をカラーで積分すると光度関数になるが、 仮定した楕円体光度関数との食い違いは生じないのか? 標準モデル 使用したモデルは、スケール長 3.5 kpc, スケール高 300 pc、 太陽付近での 密度 0.15 星 pc-3 の種族 I 星からなる円盤 + ドボークルー型 楕円体 re = 2.7 kpc, 太陽付近での規格値 = 0.00125 である。 太陽の銀河中心距離は 8 kpc とした。簡単のため、楕円体の光度関数は円盤と 同じにした。 この仮定が疑問なんだよなあ。 暗い星計数には巨星が入らない このモデルは北銀極方向の星計数 V = 4 - 22、および SA 57, SA 68 の V = 19.75 - 22 でのカラー分布を上手く説明するのに成功した。本論文は主に カラー分布に対する巨星の影響を調べることを目的にする。 Bahcall,Soneira 1980b では巨星はカラー分布のほんの数 % を占めるに過ぎなかった。 これは V ≥ 19.75 の暗い星を扱ったからである。このため、 Bahcall,Soneira 1983 では巨星の色等級図に反応が鈍かった。 全ての星が主系列という仮定でのフィット 図1(b).は全ての星が主系列にあるという仮定, Tritton,Morton 1982, Gilmore, Reid 1983 , の上で、ある絶対等級の星が星計数にどう寄与しているかを示したものである。 このフィットは合っていず、Tritton,Morton 1982, Gilmore, Reid 1983 の標準モデルはカラー分布を説明できないという主張を確認している。 図1(b) を見ると、楕円体星の精々数 % しか B-V=0.4 のターンオフより 青い主系列上には存在できないことが判る。 Mv = +4 より明るい星 楕円体星に明るい主系列星が存在しないのは円盤外では 10 Gyr に渡って 星形成が起きなかった結果と考えられている。その結果、Mv = +4 より明るい 主系列星は全て巨星に進化してしまったのである。B&S モデルはここで論じている 方向と等級帯では楕円体の 80 % 以上の星は Mv = +4 より明るいことを予言 している。実際、サンプル全体の 40 % 以上は楕円体巨星と考えられる。従って、 図1(a) のカラー分布は楕円体色等級図中での巨星位置に大きく影響される のである。これに対して、この範囲では円盤星の内巨星は 2 % を占めるに過ぎない。 |
![]() 図1(b). 曲線=(a) に全ての星が主系列としてフィットした結果。 楕円体巨星の色等級図 楕円体巨星の色等級図は良く知られていない。その結果文献では様々な 形態が仮定されている。それは、M 92 のような最も低メタルな球状星団から M 67 のような最も古い散開星団にまで至る。Mould 1982 によいレビューがある。 楕円体巨星色等級図への第1近似として、ここでは四つの球状星団の色等級図を 用いた。楕円体成分のメタル量と年齢の巾は一つの球状星団のそれらより大きい。 したがって、ここでの計算は単に提示用と看做されるべきである。 色等級図とカラー分布 これまでの観測論文と本論文との違いは、球状星団色等級図を用いて、B&S モデル で予想された絶対等級分布からカラーを計算したことである。やり方は原理的には 簡単であるが、計算アルゴリズムには細心の注意を要する。というのは、あるカラー における星数は色等級図のそのカラーにおける微分値に比例するからである。 |
光度関数: dN = F(M)dM ある見かけ等級内での絶対等級分布: dN = G(M)dMdm 色等級図: M = H(C) または C = I(M) とすると、 |
カラー分布は、 dN = G(M)dMdm = G(M)(dM/dC)dCdm = G(H(C))(dH(C)/dC)dCdm この dH(C)/dC が上で言っている「色等級図を微分する」の意味らしい。 |
計算上の注意 数値実験を重ねて、色等級図はスプラインフィットし、カラー分布を 計算する時は図の細かさよりさらに細かい、カラーで 0.005 mag の区間 を必要とする。それでも人工的なパターンが現れるので測定エラー巾の ガウシアンでなまらせる。 カラー分布の計算 カラー分布の計算には Bahcall,Soneira 1981 ApJS 47, 357 表 2.12 を使用した。 併用する球状星団色等級図は図3にしめしてあるが、水平枝は含めていない。 観測した星の内、B-V ≤ 0.2 の青い星は 0.3 % 以下と少ないからである。この 0.3 % という数字自体が楕円体成分の水平枝が弱いことを示している。 B-V ≤ 0.2 の青い星の数 実際の 星団色等級図から期待される星数は各等級区間内で水平枝の割合がどれだけかを 計算すれば求められる。その際には光度関数の Mv = +0.5 付近に水平枝星により できるピークも考慮する必要がある。こうして求めた B-V ≤ 0.2 の青い星の数は M 3 で 40, M13, M92 で 20, 47 Tuc で 2 である。水平枝星の半数が青いと仮定した。 規格値を下げた 計算では総数が 391 個になるようにした。そのため、 Bahcall,Soneira 1980b で採用した規格値の 25 % 引きの値を使用した。離心率が 0.15 の楕円体モデルだと 規格値が 20 % 小さくなり、カラー分布には大きく影響しない。そこでこの変光は Bahcall,Soneira 1980b や Bahcall,Schmidt,Soneira 1983 で認めた許容範囲内と考える。 計算では結果を B-V 方向に σ = 0.15 のガウシアンでなました。この 平滑化はカラーの固有分散と測定エラーから成っている。 |
![]() 図3. 4つの球状星団の色等級図 M 3 と M 13 の場合 図3(a) は M 3 色等級図を使用したカラー分布である。観測とモデルがよく 一致していることがわかる。図3(b) は M 13 色等級図を使用したカラー分布で、 これも十分によい。メタル量は M 3 で [Fe/H] = -1.57, M 13 で [Fe/H] = -1.4 である。 |
![]() 図2 a. M 3 色等級図を使った B - V カラー分布 |
![]() 図2 b. M 13 色等級図を使った B - V カラー分布 |
47 Tuc の場合が一番良い 図2(c) は 47 Tuc, [Fe/H] = -1.2 か -1.1 を使用したものである。この高メタル 星団は M 3, M 13 より一致が良い。ただし、採用している光度関数の不確定性や、 楕円体種族が単一の星団色等級図で表わされるとは思えないことを考慮すると、 この一致から楕円体種族のメタル量を決めるわけにはいかない。 |
M 92 の場合が一番悪い 図2(d) は M 92, [Fe/H] = -2.1 を使用したものである。この星団の巨星枝は 高く立つ。一致は最も悪い。その原因は M 92 の色等級図が青い方にせり出して きたからである。その結果、 B - V = 0.6 より青い星の予想値は 152 で 観測値の 36 よりずっと大きくなってしまった。 |
![]() 図2 c. 47 Tuc 色等級図を使った B - V カラー分布 |
![]() 図2 d. M 92 色等級図を使った B - V カラー分布 |
B = 19 より明るい楕円体星は巨星 水がめ座方向で B = 19 より明るい楕円体星の大部分は楕円体巨星によって 占められている。それは図4を見ると良く分かる。図3の色等級図に関しては、 与えられた B 等級で巨星が占める割合は 5 % 以下の変動しか示さない。B = 19 の楕円体星のうち 80 % は巨星である。19 等より明るい楕円体星の内 85 % は 巨星である。 主系列色光度関係はフィットしない この水がめ座方向の星計数を B&S モデルと比較する初めの試みで、Tritton, Morton 1982 と Gilmore, Reid 1983 は 主系列色等級関係を用いて M&S モデルで予言された Mv 分布をカラー分布 に変換できると仮定した。その結果得られた図1b と今回の図2a-d との対照は その仮定がかれらの不一致の原因であることを示している。図1のデータからは 楕円体成分に対する制約が得られる。例えば、楕円体星の内、 B - V = 0.4 の ターンオフより青い主系列には ≤ 0.4 のほんの数 % 以上はあり得ない。 観測星の内 B - V ≤ 0.2 の水平枝星の割合は 0.3 % 以下であり、これは 球状星団の色等級図を適用した時の予想値の 1/10 以下である。 カラー分布では色等級関係は決まらない 図2、3から判るように、異なる形の色等級図でも星計数とカラー分布を 合わせることが可能である。楕円体巨星枝の勾配が急になるほど(立ってくると) カラー分布状のピークは鋭く高くなる。したがってカラー分布のピーク巾は 巨星枝の勾配を推定する手掛かりを与える。 高精度カラー観測が重要 将来、非常にカラー測定の精度が上がれば楕円体色等級図への重要な 制限が得られるであろう。 |
![]() 図4.見かけ等級につれて、巨星の割合がどう変化するか。一点鎖線=巨星割合。 破線=円盤星中の巨星。実線=巨星全体の割合。図3に示した球状星団 による変化は 5 % 以下である。 |
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