Characterisation of Galactic Carbon Stars and Related Stars from Gaia EDR3


Abia, de Laverny, Romero-Gomez, Figueras
2022 AA ??,




 アブストラクト 

 前回の研究では Gaia DR2 を使い、フラックス限界の炭素星サンプルに対し、 度関数、運動学的特徴、星種族を調べた。今回は EDR3 によりサンプル数を 増やした。N, SC 型星は非常によく似た光度関数を持ち、一方 J 型星の Mbol は平均して 0.5 等暗いことが判った。R-hot 炭素星の光度は RGB 全体におよ び、これは外因性起源を示唆する。その運動特性は厚い円盤種族の物である。  N, SC 型星の運動特性は薄い円盤 種族の物である。内因性のS-型星は第3ドレッジアップより高い光度関数を 持ち、熱パルス AGB 星であることに合致する。いわゆる Gaia-2MASS 図を 用いて、 LAMOST で AGB 星と見做された炭素星の圧倒的多数が R-hot and/or CH−型星であることが判った。2MASS 等級、 Gaia 距離、 Gaia-2MASS 図 上の位置に基づき, 新しい炭素星を 2660 個発見した。


 1.イントロダクション 

 これまでの研究 

  Abia et al. (2020) において、太陽近傍の N, SC, J,R-hot 型星 210 個が主に Clausen et al. (1987) の炭素星サンプルから選ばれた。研究の目的はこれらの星の光度、運動、化学 組成、質量をしらべ、どの星種族に属するかを求めることであった。 Mowlavi et al. (2018) はこれらの炭素星の大部分が LPVs サンプルに含まれることを見出した。 Abia et al. (2020) は、Gaia DR2 の位置、運動測定から、既知の炭素星の光度と運動学特性を調 べた。N-, SC-型星の LF は互いに似ているが、J-型星とは異なることが判 った。興味深いことに、 N-型星の LF は低光度と高光度側にすそ野を引いて おり、それは AGB 炭素星の上側と下側質量限界に対応しているのかも知れな い。一方 R-hot 星の LF は RC ではなく RGB 期にあることを示す。ただ、 これらの結果はサンプル数が小さいので結論に不定性が残る。
 今回の研究 

 今回はサンプル数を 2000 に増加させた。それらは最近の巨星サーベイから 得られたものである。先に述べたスペクトル型サブクラスは全て含まれている。 また Gaia EDR3 のより高精度の位置測定を用いた。我々のサンプルにはまた、 Lebzelter et al. (2018) による Gaia-2MASS 図からの新しい AGB 星も含まれる。


 2.星サンプルと銀河系内分布 

 文献 

  Abia et al. (2020) の炭素星に Chen, Yang (2012) の赤外炭素星(IRCSs)、 LAMOST DR2 からの炭素星 Ji et al 2016、 それに Chen et al 2007 による J-型星リストを加えた。 Chen, Yang (2012) は文献にある赤外炭素星、それに 11.2 μm SiC 放射帯のある赤外天体を 加えたリストを作成した。その結果は 974 星であある。大部分は Simbad で 炭素星とされている。 しかし、多くの赤外炭素星はスペクトル型同定が無く、 SIMBAD では possible carbon star とされている。LAMOSR では 低分散スペクトルの何本かのスペクトル線から決めた 894 の炭素星を載せて いる。Ji et al 2016 は CN, C2 線から N-, CH-, R-hot 型星を 同定した。Chen et al 2012 には 113 J-型星が、Chen et al 2019 には S-型 星が集められている。

 相互参照 

 次に論文1サンプルを同じ 82 星を Chen12, Chen12, Jin16 から省いた。 論文1サンプルと異なり、今回の星には化学組成の情報があまりない。 しかし、大部分は薄い円盤種族とかんがえられるので、メタリシティはソーラー と仮定する。ただ、LAMOST CH−星は低メタルらしい。

 RUWE 

 距離精度の良い星を選ぶために RUWE < 1.4 に限定した。次に astrometric fidelity factor が 0.5 以上の星を選んだ。こうして選んだ星に Bailer-Jones 距離を計算した。最後にparallax uncertainty ≤ 10 % の星を選んだ。 図1には初期サンプル星の視差分布を選択後サンプルの Bailer-Jones 視差と比べた。

図1.破線=初期サンプル星の視差分布。実線= quality parallax criteria で フィルタを掛けた後の Bailer-Jones et al 2021 距離の分布。



表1.サンプル星のデータの例。完全なリストは CDS から得られる。

 DR2 距離と EDR3 距離 

 二つの距離はよく一致し、平均すると D(DR2) - D(EDR3) = -34 ± 190 pc であった。

 視差の違いが大きな星 

 二つの N-型星 IRC+60393 と V497 Pup は差が大きい。この二つでは DR2 視差が 50 % 大きかった。三つの星、V437 Aql, RU Vir, HIP 44812, HIP 66317 では視差の差が 20 % あった。

 等級の差が大きい星 

 V Cyg と TX Psc では 測光等級が変化している。これは Gaia-2MASS 図上では 位置を大きく変える結果につながる。TX Psc は連星でないかと疑われており、 我々のサンプル中で最も明るい G = 3.72 星である。これは DR2 では飽和効果 の影響があるかも知れない。EDR3 では測光誤差は著しく小さくなった。
 最終サンプル 

 こうして最終的に残ったのは、 491 N-型星、22 SC-型星、83 J-型星、234 R-hot-型星、276 CH-型星であった。それらに Ji et al 2016 から 107 外因性、 91 内因性 S-型星を加えた。これで総計 1304 星となった。それ以外に、分類が 不確か、輻射補正が不明等の理由で、 Gaia 基準には合うが除外されていたもの がある。それらは、 Chen, Yang (2012) の中で極端赤外天体とされる 192 星、炭素星候補の 37 星、LAMOST で炭素星 候補とされた 86 天体、スペクトル型不明の 69 星である。これらを加えると 全部で 1688 星である。

 表1=サンプル星リスト 

 表1には、光度関数を導くために使用した星のリストの例を載せた。完全な リストは CDS から得られる。表の 2MASS J, Ks 等級は星間減光補正済みで ある。

 視線速度 

 データ一様性のために、視線速度には Gaia の値を採用した。Gaia/RVS スペ クトル帯は N-型星には向いていないが、別観測で視線速度のある星について Gaia との差を調べた限りでは大きなずれはなかった。



図2.Chen et al 2007 と Chen, Yang (2012) から採ったサンプル炭素星の位置分布。太陽は (0, 0) にある。 青点=正常な N-型星。赤点=J-型星。シアン点=タイプ不明 で Simbad には「炭素星候補」となっている。下図の R = 銀河系中心からの 動径距離。太陽は R = 8.34 kpc.

 タイプ別空間分布 

 図2,3,4上パネルにはサンプル星のタイプ別 X-Y 空間分布を示す。太陽の周りで 分布が一様であることが判る。

 炭素星のスケール高 

N-型星の Z 分布スケール高を指数関数でフィットした結 果は、zo = 220 pc であった。この値は論文1と一致する。ここには SC-型星 の Z 分布を示さなかった。サンプル数が少なすぎたからである。しかしながら同様なフィ ットを行うと、 N-型星のスケール高と整合な結果が得られる。 Miller, Csalo (1979) の主系列星スケール高と照合すると、スケール高 160 - 200 pc の星は M = 1.5 - 1.8 Mo である。この値は LKarakas, Lattanzio 2014 の AGB 炭素星モデルと良く合う。

図3.Ji et al 2016 の LAMOST サーベイ炭素星の分布。青点= N-型星。 灰色点= CH-型星。茶点= R-hot 星。X, Y, R 限界が図2と異なる ことに注意。


図4.Chen et al 2019 の S-型星の分布。黒点=外因性。紫点=内因性。 X, Y, R の限界が図2と異なる。


 スケール高 

 図5には異なるスペクトル型毎の |Z| 分布を示す。指数関数フィットの 結果は、内因性 S-型星では zo = 210 pc で N-型星と極めて 近い。 外因性 S-型星では 280 pc, J-型星では 300 pc である。
(サンプルの一様性が考慮されていない。遠方で は明るい星の重みが強くなるはずだが、全部混ぜて Z 分布を作っている。 )


 J-型星は N-型星と異なる種族 

 論文1では J-型星のスケール高を N-型星と同じとし、N-型と J-型の違いを化学組成のみとしたが、今回はより 大きなサンプルでスケール高が異なることが判った。

 内因性 S-型星は N-型星と同じ種族 

 S-型星では zo = 210 pc で N-型星と同じスケール高を持ち、 同じ星種族と考えられる。

 R-hot 炭素星と CH-星 

 LAMOSTで N-型星とされた星は AGB とするには暗すぎる。また、 R-hot 炭素星と CH-星は銀河面からの平均高度が 1.2, 2.7 kpc と大きい。 以前の研究でも言われているように、これらの星は厚い円盤に属する星なの であろう。

図5.異なるスペクトル型毎の |Z| 分布。上から、青=N-型星、黒=外因性 S-型星、紫=内因性 S-型星、赤=J-型星、茶=R-型星。R-型星の横軸スケー ルが異なることに注意。N-型星の橙色曲線=上から下に zo 260, 220, 180 pc の指数関数フィットである。  


 3.光度 

 輻射補正 

 光度を求める方法は Abia et al. (2020) の時と同じで、Bailer-Jones の距離を用いて星間減光を決め、 SIMBAD から の J, Ks 等級に減光補正を加えた。輻射補正 BCK には Kerschbaum et al. (2020) を用いた。非常に赤い、たとえば IRAS 天体のような星に対しては、 Guandalini et al. 2006 の K-[12] カラーに対する輻射補正を 用いた。S-型星に対しては Kerschbaum et al. (2020) の M-型星に対する輻射補正を適用した。

 星間減光の決定モデル 

  Abia et al. (2020) では Arenou et al. 1992 の減光モデルを使用した。今回は 減光モデルが光度に及ぼす影響を調べるため、E(B-V) に基づき、 EDR3 collaboration でも採用された Bayester19 モデル Green et al. (2019), Gaia-2MASS 3D Galactic マップ Lallement et al 2019, 銀河系減光モデル Drimmel et al. (2003) の3つを比較して、減光マップが光度決定にどう影響するかを調べた。 Bayester19 モデルは Gaia DR2 視差と PAN-STARS 1, 2MASS 等級に基づいて いる。このマップは Dec ≥ -30° の数 kpc 以内をカバーしている。 Drimmel03 マップはスケーリングファクターの利用で 10 kpc までの Av を 与える。しかしながら内側円盤に対して減光が過大評価されていることが 知られている。Lakkement19 はDR2 と 2MASS を組み合わせて 3 kpc までの 減光を導いた。
 我々は Lallement19 に外側円盤の方で Marshall06 をつないだものを用いた。 接続が滑らかになるように Marshall06 に修正を加えた。 それらの間の Av の差はそれほど大きくはない。図6には Lallement19 の 減光量と Drimmel03, Green19 減光量を比較した。外側円盤に対しては Lallement19 に Marshall et al 2006 をつないだ。この結合減光モデルを Gaia Object Generator (Luri et al 2014) に適用して Gaia archive に載 せた。

 減光モデル間の差 

 図6に、Lallement19 と Green19, Drimmel03 モデルを比較した。Lallement19 と Drimmel03 は Av ≤ 1.7 ではかなり良く一致する。Av > 1.7 つまり 2 - 3 kpc より遠い天体に対しては、差が大きくなる。

図6. Av モデルの比較。



そこはMarshall06 モ デルが Lallement19 に取って代わるきょりである。Lallement19 と Green19 との比較も同じパターンを示し、Av ≤ 1.7 では一致が良く、Av > 1.7 では Lallement19 は大きな Av を与える。 それらは殆どが銀河面に密着した 距離が 2 - 3 kpc より大きな天体である。それらの天体では減光補正の誤差が 大きく、光度決定に大きな影響を与える。しかし、大部分の天体に関しては、 減光値の誤差は小さいと考えられる。


 Lallement19 + Marshall06 を採用 

 Drimmel03 ではサンプル星の 95 %, Green et al19 では 70 % の星の Av が 得られるが、 Lallement19 に Marshall06 をつなぐと 100 % の星の Av が 得られる。そこでこの最後の組み合わせを我々の研究では採用した。残念ながら Lallement19 モデルはここの星対する Av の不定性は与えられていない。

 光度不定性 

 MKs と Mbol に対する不定性は距離誤差に基づくものである。 我々のサンプルは距離誤差 10 % 以下なので絶対等級の誤差は ±0.2 mag である。J, Ks 等級の誤差と輻射補正 BCK の誤差を加えて、 MKs と Mbol の誤差は典型的には ±0.25 mag と見積もら れる。Av 誤差を入れていないので実際にはもう少し大きいと考えられる。

 赤い N-型星 

 図7に炭素星の光度関数を示す。N-型星に関し、SIMBAD で炭素星候補と されていても Chen, Yang (2012) でタイプ不明となっている 36 星は図から省いた。実際、SIMBAD ではそれら の 30 % は R CrB 星で、10 % は連星とされている。さらに、(J-Ks) ≥ 2.5 の 191 星 Chen12 を輻射補正 BCKs が不確かなので外した。これ らの星は星周減光により Ks バンドで暗くなっている可能性もある。
(BCKs にはその効果も含まれる? )
こうして残った N-型星の数は 300/491 個である。図7から、

 (a) 平均光度 

 N 型星の平均光度は ⟨Mbol⟩ = -5.04±0.55 mag である。 これは論文1の結果と合っている。コルもゴルフ・スミルノフ検定では分布 関数とガウシャン分布との一致度は p = 0.75 である。また、分布関数のテー ルは論文1より低くなっている。⟨MKs⟩ = -8.16 ±0.57 mag である。これは LMC ( Frogel, Persson, Cohen (1980)
(3星団の話 )
や銀河系 Schechter et al 1987
(こっちは R = 2 Ro での炭素星の話 でしかも学会発表のみ。しかし、昔論文を見た気がする。 )
論文1では最近の炭素星モデル Cristallo et al 2015 とN 型星光度関数を 比較し、理論と観測との良い一致を得た。しかし、そこでは観測に見られる 低光度、高光度側へのテールがモデル(1.5 - 3 Mo)と合わなかった。非常に 明るい Mbol < -6.8 の炭素星は 実際 LMC には存在する。van Loon et al 1999, Trams et al 1999. それらはマスロスが強かった星かも知れない。

図7.炭素星のタイプ毎の光度分布。CH-星は示していない。R-hot 星の横軸 目盛りは他と異なる。点線= Abia et al. (2020) で得た光度分布。

 (b) SC 型星 

 SC 星の光度関数が N 型星と似ていることが再確認された。 ⟨MKs⟩ = -8.00 ±0.44 mag, ⟨Mbol⟩ = -4.90 ±0.46 mag である。

 (c) J 型星 

 新しい平均光度は論文1より 0.2 mag 暗くなり、 ⟨MKs⟩ = -7.53 ±0.57 mag, ⟨Mbol⟩ = -4.42 ±0.53 mag である。 無視できない数の J 型星が、第3ドレッジアップ下限光度に対応する Mbol = -4.5 より暗い。したがって、J 型星の起源は N 型星とは異なるらしい。

 R-hot 星 

  ⟨MKs⟩ = -2.47±1.20 mag, ⟨Mbol ⟩ = 0.05±1.10 mag で, これらが RC (⟨MKs⟩ = -1.6±0.3 mag)起源という説に反する。これは 1 Mo, Zo の星に対し RGB bump に対応する。 内因性 S 型星の光度は第3ドレッジアップ下限光度に対応する Mbol = -3.5 より明るい。
(J 型の時は -4.5 mag )


 S 型星 

 図8には、 Chen, Yang (2012) からの S 型星の光度関数を示す。これだけの数の光度関数は初めてである。 内因性 S 型星では ⟨MKs⟩ = -7.50 ±0.79 mag, ⟨Mbol⟩ = -4.42 ±0.68 mag である。 外因性 S 型星では ⟨MKs⟩ = -6.40 ±0.75 mag, ⟨Mbol⟩ = -3.52 ±0.68 mag である。

 外因性 S 型星 

 外因性 S 型星のピークはMbol =-3.0 mag であり、これらが 1 - 2 Mo の連星であるという説に合致する。

図8.S 型星の光度分布。紫=内因性 S-型星。黒=外因性 S-型星。紫の Mbol = -2 区分は Hen 4-16 一個しか含まない。この星は SIMBAD で S 型星 候補と分類されている。



 4.運動 


図9.炭素星のトゥーモア図。青=正常な N-型星。赤=J-型星。シアン =タイプ不明で Simbad には「炭素星候補」となっている。 80 % 確率の種族分類を行った。 丸=薄い円盤種族。バツ=厚い円盤種族。三角=ハロー。 破線は Vtot = SQRT[Vr2 + VZ2 + (Vθ-VLSR)2] = 50, 100, 150 km/s である。

 銀河回転 

 (Ro, Zo) = (8.34, 0.025) kpc (Reid, Honma 2014), (Uo, Vo, Wo) = (11.1, 12.24, 7.25) km/s (Schonrich 2012). VLSR = 240 km/s (Reid, Honma 2014)

 銀河形成分 

 論文1に述べた方法でどの銀河成分に属するかの確率を計算し、 80 % になった 成分を付与した。それらは表1に 0, 1, 2, 3 として載せた。3は成分不明である。

図10.黒=外因性、紫=内因性 S 型星のトゥーモア図。 白丸=HD 160379 は厚い円盤かハローかはっきりしない。

 図9= N 型星 

 図9には N 型星のトゥモア図を示す。薄い円盤に属する割合は N, SC, J に関して 97, 100, 90 % である。幾つかの N 型星は典型的な厚い円盤の運動特性を示す。 また、 IRAS 12227-5045 はおそらくハローに属する。この星は V CrB, ERU Vir と 共に数少ない ハロー AGB 炭素星の一つであろう。同様に二つの J 型星  IRAS 14006-5759 と IRAS 09482-5123 もハロー星である。  

 図10= S 型星 

 図10には S 型星のトゥモア図を示す。薄い円盤に属する割合は、外因性で 94 %, 内因性で 96 % である。


 図11= CH 星と R-hot 型星 

 図11には CH 星と R-hot 型星のトゥモア図を示す。CH 星の 56 はハロー か厚い円盤に属する。しかし、44 % は薄い円盤種族である。 R-hot 星の 15 % は厚い円盤種族である。また、 CH-星と R-hot 星とは似た運動学特性を 有する。

図11.灰色= CH 星、茶=R-hot 星のトゥーモア図。  


 5.Gaia-2MASS 図での分類 


図12.主要サンプルの Gaia-2MASS 図。曲線は理論的な境界線。 破線=サブグループの分割。

 図12=図12.主要サンプルの Gaia-2MASS 図。 



 Gaia-2MASS 図 

 図12は主要サンプルの Gaia-2MASS 図を示す。興味深いのは幾つかの明るい N 型星が、高質量 AGB または RSG 領域の C-星境界付近に位置していることで ある。

 HBB 星 

 これまでに HBB による化学組成異常の観測的証拠は得られていない、 Karakas, Lattanzio 2014, Abia et al 2017. その理由の一つは適切な候補星の 選択ができなかったことにある。Gaia-2MASS 図はそのような候補星の選択に 役立つかも知れない。

図13.LAMOST サンプルの Gaia-2MASS 図。シアン=参考のために Chen12 から (J-Ks) > 2.5 の炭素星を採った。

 R-hot 星 

 図12の茶= R-hot 星ははっきりした領域を占めている。しかし TRGB 等級 MKs = -7 mag には近づいていない。

 図13=LAMOST  

 図13は LAMOST サンプルを示す。


 6.新しい炭素星候補 

 新しいサンプルの作成 

 EDR3 から 視差の相対誤差 20 % 以下、(GBP-GRP) > 2.0 の星を 2MASS とマッチさせ 29 million 星を得た。そこから (J-Ks) > 0.5, J, Ks 測光エラー 0.1 mag 以下の星を選び、Bailer-Jones photogeometric distance を求めた。こうして距離の分かった 6.8 million 星を得た。それらに astrometric fidelity factor でフイルタリングを掛け、 減光補正を施し M(Ks) を求めた。そこから M(Ks) < -4 mag の星 1.6 million を残した。さらに TP-AGB 星は大抵 LPVs なので、Mowlavi19 の 条件で Gaia DR2 から LPVs を探した。この条件は DR2 の Aproxy(G) で決められる。我々は Aproxy(G) > 0.06 を採用した。それら を第2章に述べたサンプル星と照合して、重なる星を除去し、最終的に 53,058 星を得た。これらのサンプル星は Mowlavi et al 2019 に従い YSO を除いてある。

 分類 

 このサンプルを図14に示す。図2には図12と同じ区分線を引いた。 多くの星 35857/53058 = 67 % は低質量 O-リッチ AGB 星領域にある。 10397/53058 = 19 % は RGB/fainAGB 領域にある。3811 星は中間質量 AGB 星領域にある。 たったの 334 天体が RSG/massiveAGB 領域を占める。 炭素星領域には 2659 星が見つかった。そして 965/2659 星が extremely C-rich 星である。

 Mowlavi19 との比較 

 図14を Mowlavi19 の SMC/LMC/MW の Gaia-2MASS 図と較べてみる。 炭素星比率の段階的減少が明らかである。我々はC/M ≒.05 と評価する。
(基準は明示されない。 )
MW では LMC/SMC に比べどの MKs においても、 W-W' の分布が 幅広い。これは O リッチから C リッチへの転換が MW では LSMC/LMC より 遅く起きること、メタル量分布の巾が大きいことに依るのであろう。

図14.新しいサンプル星の Gaia-2MASS 図。



図15.新発見炭素星の トゥモア図。帰属確率により種族成分に分類した。 青=薄い円盤。バツ=厚い円盤。三角=ハロー。穴あき青丸=不明。

 新発見炭素星のトゥモア図 

 図15には銀河系成分への帰属確率から決めた種族のトゥモア図を 示す。この図で約 50 % が薄い円盤に帰属する。30 % は厚い円盤またはハロー に属する。厚い円盤とハローはの星は薄い円盤の星より高齢なので、 これらの炭素星の多くは内因性の AGNB 炭素星ではなく、外因性 = M < 1.5 Mo の連星星が質量移送により C-リッチになった、 である可能性が高い。または炭素星の下限が 1 Mo まで下がったのかも 知れない。これらの星のスケール高は 600 pc で、内因性 N 型星の 値よりずっと大きい。

図16.新発見で W-W' < 1.7 の炭素星の光度分布。点線=TRGB の光度 M(Ks) = -7.0 より明るい星の光度関数。

 新発見炭素星の光度関数 

 図16には新発見炭素星の光度関数を示す。ただし使用したのは W-W' < 1.7 つまり星周減光の影響をあまり受けていない星である。 平均光度は ⟨Mbol⟩ = -4.50 ±0.50 mag である。新しい炭素星の低光度側テールは TRGB 以下まで 延びており、それらの多くが外因性の炭素星である可能性を示唆する。 興味深いのは厚い円盤やハローに所属する炭素星があることで、もしかすると それらでの最近の星形成を示唆するのかも知れない。他の可能性としては それらは銀河系外部起源なのかも知れない。勿論精密な地上分光観測が 必要だが、 Gaia の分光でも C2 や CN のラインを検出できる 可能性がある。


 6.まとめ 

 (a) 減光マップ 

 異なる減光マップによる光度関数への影響は無視できる程度である。

 (b) 平均光度 

 N 型星の平均光度は ⟨Mbol⟩ = -5.04±0.55 mag である。 Mbol = -6.0 まで上がる例もある。

 (c) J 型星 

 J 型星は N, SC 型星より暗い。またスケール高も大きい。R-hot 星の 光度は RGB 全体に渡る。空間分布は CH 星に似る。
 (d) S-型星 

 内因性 S 型星は外因性 S 型星より明るく、 lang;Mbol⟩ = -4.42 ±0.68 mag である。 TP-AGB 最低光度より明るい。

 (e) Gaia-2MASS 図 

 Gaia-2MASS 図から LAMOST 炭素星の多くは AGB 炭素星でない。恐らく R-hot または CH- 星である。

 新発見 2659 炭素星 

 Gaia LPVs を Gaia-2MASS 図にプロットした結果、新しく 2659 炭素星候補 を見出した。それらは様々な種族の炭素星の混合であり、分光研究が必要である。